#6
救護部屋に戻る道中、アイリが待ってくれていて先程あったことを話すと、自分のことのようによろこんでくれて本当に俺のことを弟のように思っているんだろうなと感じた。アイリは俺よりも年下ではあるけれど、両親を失って身元を引き取られたカインド家でふさぎ込んでいた俺にあれこれと世話を焼いてくれていたこともあり、元々互いの両親が仲がよくて幼馴染だった頃よりもより身近な相手になった気がする。それはアイリも同じらしく、引き取られる以前よりもなんだか距離が近くなった。
「アイン本当に良かったねえ! お姉ちゃんも弟が優秀で鼻が高いよー」
隣を歩きながらそんな事を言うアイリは本当に上機嫌で、鼻歌交じりだ。ただ、アイリに優秀だなんて言われるとなんだか少し座りが悪い。
「優秀って……。それを言うならアイリだろう? 持ち前の資質の高さで資質教育機関に飛び級で入ってその上俺達の同期の中で最優秀者として最終試験を通過した上、全ての職業に対して適正判定が出ていた『祝福の子』なんだからさ」
「むっ。その名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」
「悪い悪い。ついな」
アイリは機関にいる間『祝福の子』と呼ばれていたけれど、これは称号とは違いあだ名のようなもので、本人は今も頬を膨らませているようにあんまりこの呼び方は好んでなかった。『祝福の子』と呼ばれるといつも決まった返事をしていたのを覚えている。
「私は確かに成績は優秀だったけど、全体としてみた時にっていうだけだよ。だから、ひとつのことをやり続けるような専門家相手じゃ全然足元にも及ばないんだよー」
「はは、そのセリフを聞くのもなんだか久しぶりな気がするな」
「私はあんまり言わせて欲しくはないんだけどなー? ……それに、多分今後アインと一緒に開拓研究をしていくってなったら、時間が経つにつれて私は支援しかできなくなっていくと思うんだ。多分、アインは私なんかが相手にならないくらいずっとずっと強くなると思う」
いつもの気心が知れた冗談のつもりが、思わぬ方向に話が進む。アイリの言葉は普段の柔らかさを残しながらも、その真剣さだけは確かだった。
「アイリにそこまで言われるくらい強くなりたいとは思うよ。でも流石に贔屓目じゃないか?」
「ううん。きっとそうなるよ。だってアインは『英傑』と『月輝』の息子なんだもん。でも、それ以上に私はアインがずっと人に見えないところで努力してきたのを知ってるから。あと、私の弟だから!」
「弟ではないけどな?」
他人に両親と比較され無責任な期待を掛けられることは苦痛でしかないが、アイリに言われるのは不思議と嫌ではない。それに、アイリは俺の努力を認めた上で期待してくれている。それが分かるから敢えて言葉にすることはせず、軽口で返す。こんな何気ない日常のやりとりが心地いい。
「そういえばアインはお昼はどうする?」
「ああ、もうそんな時間か。言われてみれば腹減ったな……。食堂で適当に済ませるか?」
今の会話の流れで別々に食べることなんて考えても居ないのでアイリに問いかける。すると、アイリは「ちっちっち」と舌が鳴らせないからか、言葉で言いながら指を振った。
「めでたいことがあったのに隊舎の食堂で済ませるなんてもったいないよ! お店に食べに行ってぱーっとやろうよぱーっと!」
「それアイリが飲みたいだけなんじゃ……」
この居住区では一六歳から飲酒が認められているが、アイリは初めて飲んだその日から、幼く可愛らしい容姿から想像できないほどの酒好きになってしまった。家族以外にはその一面は見せていない様子だが、俺はその危険性を知っている。
「細かいことはいいのっ! お祝いは、お酒!」
無言で両手をあげて降参する。酒が絡んだ時のアイリの強引さは折り紙付きだし、最早抵抗する意味を感じない。それに、俺のことを祝おうとしてくれているのは本当だろうと思ったから。ただ酒を飲む前から俺は頭が痛くて仕方なかった。
「よーっし! 今日は飲むわよー!」
アイリはめちゃくちゃ酒癖が悪いのだ……。
今回もここまで読んでくださりありがとうございました!
連日更新できてて何故か作者自身驚いてます!
明日はお休みさせてもらって次回更新は明後日のこれくらいの時間にしようと思いますのでよろしくおねがいします!
ではでは、また次回に~。