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#2

 迫るソルデから目を逸らさず素早く旧街道へと飛び出す。

(まずは足場の確保っ!)

 グレイとの稽古の中で繰り返し聞かされた基本に忠実に、より摩擦力のある足場を求める。しっかりとした足場を得た次は相手の初手をその体捌きから推察。ソルデの右手に握られる大振りな剣にこちらの剣を合わせ……。


「ぐっ……!?」


 ソルデの放った右からの袈裟斬りに左下段から逆袈裟気味に合わせようとするも、その膂力は想像以上の物で受け止めることを瞬時に諦めると剣身に沿って滑らせ受け流す。

(見誤った!)

 柄を握る手が砕けてしまうのではないかと思うほどの衝撃は受け流すと同時に地面を抉り取った。本能的に距離を取ろうと後ろに跳びかける足を奥歯を食いしばり強い意思で押し止める。距離をとってしまえば相手の踏み込みの距離も伸び、剣戟の威力が増してしまう。袈裟斬りならまだしも薙ぎ払いをされればこの踏み込みの差異は命取りになる。少しでも相手の攻撃の手段を狭めなければならない。こちらの剣がぎりぎり振り切れる距離になるように震える右足を無理矢理に踏み出し、右肘を当てる。僅かに軸を揺らしたソルデが半歩後退し、思い通りの距離になった。この状態を常に保つ事を意識しつつ一合、二合と互いの剣を打ち合う。その度に響く鈍い鋼の音は腹の底まで揺らした。この距離ならまだ流すだけなら出来る。しかし、半機半生の魔獣であるソルデとは違いこちらは人間だ。当然体力にも限界がある。このままではこちらの状況が悪くなるばかりだ。こちらからも打ち込まなければ、幾分も経たず死ぬだろう。

(覚悟が足りなかったな)

 なんて、今更後悔したところで遅い。ならどうすれば良いかなんて、最初からきっと選択肢は一つしかない。


「足りないならここで覚悟を決めろッ!!」


 直前の一合で踏み出している左足を引きながら今度はこちらが右袈裟に斬りつける。僅かな硬い感触を手のひらで感じ、一刀を浴びせることが出来たことを確認する。が、浅い。ソルデが体勢を整える前にそのまま手首を返し逆袈裟にもう一刀。今度は確かにその肉を抉る事が出来た。粘性の高い赤く半透明の液体が斬撃の軌跡を遅れて追いかける。一歩、二歩とたたらを踏むソルデを追いかけ、更に右からの横薙ぎ体当てへと繋ぎ攻め手を決して止めないように注力する。この一連の攻勢が止まればそこが死線となることが理屈じゃなく本能で分かるからこそ、必死になる。しかしそれは相手も同じ事で、最早体勢を整えず無理矢理にこちらの攻め手に合わせ、こちらの攻めを乱そうとしてくる。

 打ち込み、逸らされ、打ち込み、受けられ、疲弊していく。打ち合わされる剣の音と相手の姿だけを残し周囲の全てが自分の視界から消えていく。初めて触れる正真正銘の命のやり取りは、まさに死闘と呼ぶに相応しい物となっていく。

 繰り返される剣戟の度、心臓はその鼓動を早くした。どれ程の間そうしていたか分からなくなった頃、不意にソルデの体勢が大きく崩れ、その膝を地に着かせた。

(ここしかない!)

 そう確信し、剣を大上段に構えると力の限り振り下ろす――。


 びりびりと痺れる手のひらの感覚と甲高い金属音が響いた。


「しまっ……!?」


 決め手を確信した瞬間が最大の隙きになるなんて基本中の基本を失念していた事を後悔したときにはもう既に、手の中の剣は半ばからその剣身を無くしていた。狙ってやったのか、それとも偶然そうなってしまったのか。そんな事が脳裏によぎるが、今はそれどころじゃない。武器を失ったこの状況で、如何に生きるか。その一点のみが問題だ。ソルデはこちらの武器が壊れたことを認めると、まるで嘲笑うかのようにその口を開く。ぎいぎいと軋む機械の音がそんな印象を更に強くさせた。膝をついた体勢のままでありながらに、完全にこちらが見下されている。しかし、その顔を見ると不思議と先程までの恐怖や焦燥が最初から無かったかのように消え去り、穏やかな気持になった。

 どうせ、このまま何もしなければ俺はここで死に絶えるだけだ。なら、最大限のリスクを負ってでも、僅かな可能性に賭けるしかない。どちらにせよ、これが最後の一撃になる……!

 ソルデもこれで最後にするつもりなのだろう。柄を強く握り直しその足に力を込めている事が見て取れた。


「おああああああああ!!」


 持てる全てを吐き出す咆哮を上げると、それを合図にソルデが地面を踏み砕きながら鋭い突きを放ってくる。その付きを最小限だけ避け、全体重を乗せ折れた剣身をソルデの喉元へと突き立てた。ゾルデの放った突きが俺の左肩を捉え灼ける様な激痛を植え付けてくる。そしてこちらの放った突きもまた、相手の地面を蹴る勢いも加わりぞぶりとその刃をソルデの喉元へと埋めていく。チカチカと爆ぜる視界だけがまだ自分が生きていることを伝える永い静寂の中、ソルデが完全に沈黙したことを確かめると緊張の糸が切れたのか自分の体を支えることも出来ず、ずるずると倒れ伏すとそのまま視界が真っ暗になった。


昨日の投稿後、早速の応援感想を下さった方が居て嬉しくなったので珍しく2日連続での更新になります!

創作をする人ってその辺チョロいのでちょっと褒められたり応援して頂けるとそれがきっかけで頑張れたりするものなんですよ!

さて、今回の本文中においてこれまた自身初の戦闘描写というものを書いたのですが少し伝わり難いかもしれないと思ったので注釈としてこちらに書かせていただきます。

袈裟斬りですが、こちらは斜め上から肩を捉え対角線上の脇腹に抜けるように斜めに斬りかかる動作として使用しました。

対して、逆袈裟は斜め下から脇腹を捉え肩に抜けるように斬りかかる動作として使用しています。

どうもこの辺りは流派により異なるそうなのですが、私の作品内では上記の扱いということでよろしくお願いします!

また、薙ぎ払いは胴を横に薙ぎ払う動作としての使用になります。


本文中に主人公アインと魔獣ソルデの扱う剣の長さが違うような表現を使用したのですが、実際どんくらいちゃうねん?って方がもしいらっしゃった時の為にちらっとお答えしておきますと、アインの剣は大体70cm程で今回のソルデの扱う剣は約1m程となっております。また、両者共に両刃の西洋剣だと考えていただければと思います!

その他にも「ここ気になってんけどー?」等ご質問下さればお答えしますのでどうぞ気軽にお声がけください!

今回もあとがきが長くなってしまいましたが一旦この辺で。

ここまで読んで下さった方はありがとうございました!

良ければ応援やらなんやらしてやってください!ではではまた次回に~。

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