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「ここを発つ前に、行きたいところがあるの」
私は打ち明けた。
そして頼んだ。
出来れば、みなで一緒に来て欲しいと。
ワイゼルが荷馬車を出してくれたので、四人でそれに乗って郊外へと向かう。
おぼろげな記憶をたどり、途中で何度も道を尋ねて、陽が傾きかける頃に、ようやくあの場所へたどり着いた。
今度は、入り口の石柱をじっくりと見た。
痛んでいて、おぼろげにしか読み取れないが、聖獣の姿が彫られているようにも見える。
みなに促されて前へと進む。
前に来た時には気がつかなかったけれど、道の両脇の藪や森の中に、点々と像のような石細工が置かれているのが見えた。
おそらく、かつての参道は、石細工までの幅があったのだろう。
そして森を抜けると、夕映えの空を背景に佇む、黒く陰った建物が目に入る。
「ここは、そうか」
クレイズが呟く。
草原に分け入り、建物に向かって足を進める。
正面の、固く閉ざされた玄関の扉の両脇には、巧みな細工で聖獣たちが彫られている。
翼ある蛇や、獅子や、翼なき鳥や、世界より大きな亀、そして扉の上には、ひときわ大きく立派な狼の姿。
ずっと見つめていたい心を抑えて、建物の裏へ回る。
草原を進み、真新しい四つの墓碑の前に立つ。
”長き黒髪の乙女”のそれをそっと撫でながら、みなの方へ振り返る。
「私は必ず帰ってくるつもりでいるけれど、もし万が一、私が戻らない時には、年に一度で良いから、ここへ花を供えて欲しいの」
マーサが、私の手を取った。
「しゃーで もどる? かならず」
「そのつもりよ」
肯きながら、ゆっくりと口にする。
「この場でなんだけれど、もし自分にも何かあったら、家のことはよろしく頼む」
クレイズがワイゼルに言った。
「ふたりして何言いだすんだ。こんな場所で縁起でもない」
努めて明るくワイゼルが返す。
「万に一つもないだろうが、もしもの時は一切合切面倒見てやる。安心しろ」
そのやり取りを聞きながら再び墓碑に目をやり、いつか感じた違和感を思い出した。
今度は理由がすぐに分かった。
オラシアのものだけ、日付のところが一段盛りあがっているのだ。 これには、一体どのような意味があるのだろう。
もし、陛下ともう一度話す機会があれば、尋ねてみようと心に留めおく。
夕陽が、森の樹々の中へと沈んでゆく。
私は、墓碑たちから数歩下がると、草地に跪き、指を組んだ。
マーサが、私の後ろで膝をつく。
クレイズとワイゼルは、その場に立ったまま、瞳を閉じる。
今は亡き大切な人たちの前で、私は、降餐の祈りを唱える。
静寂の中、ただ微かな風の音だけが、私たちを見守っていた。




