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「ではなぜ」
「税だ」
「税?」
「シャーデは、教団の者達が食する麦を、どのように購うのか、知っているか」
「信徒の方々の寄進では……」
自分が見た、信徒たちの姿を思い浮かべた。
彼らの信仰がいくら篤くとも、教団のために、多くを割けるとは思えない。
かといって、果樹から作る薬や、祝別した教具を売ったお金で、質素とはいえ教団の暮らしを、すべて支えることはできはしまい。
けれど、領主や諸侯ならば、寄進することができるだろう。
現に、何度か寄進に謝意を表すために、泉で聖詞を詠むことがあった。
だが、それを一体どこから、取り出すのだろう。
空中から、財が湧いてくることがないのなら、誰かから取り立てるということになる。
しかし、それでは……。
「そう、税なのだ」
私は、掌を堅く握りしめた。
王は、私に視線を走らせ、目を細める。
「土地の広さに応じて、収穫の五分から一割、税とは別に取り立て、教団に納める。それが公会の決まり事、だった」
王は、私から視線を外すと、前を向いて続ける。
「その年も、前の年も酷い不作で、国中の穀物をかき集めても、翌年の春まで保つかという有様だった。国王は、猶予を願い出た。答えは否だった」
王は、軽く手を握る。
「重ねて願ったが、やはり認められず、逆に賦課を増やされた。教団領が不作であると。武装した徴収官が送り込まれ、片端から取り立てていった。それこそ床板も剥いで、しまってあった種籾も根こそぎ。たまりかねた時の王は、徴収官を国から叩き出した。小競り合いで、死人も出たと聞く」
そんな経緯があったことは、初めて耳にする。
自然に顔が俯く。
「教団を強欲と責めることは出来ぬ。そうせねば、民が教団の者が飢えて死ぬ。だが、それは我らとて同じこと。他領の者達のため、飢えて死ねとは口が裂けても言えぬ」
俯きながら肯く。
それは、人としてとても自然なことだ。
「祖先に代わって弁明すれば、公会の義務を果たさぬことと、教えを投げ捨てることは同義ではない。だが、対価を払わず果実を受け取ることは、誇りが許さなかった。そして、出した答えが、”教えなきもの”だ」
「教えなきもの?」
呟いてみる。
「そう、”教えなき”だ。教えを信ずると口には出せぬし、祈る術も持たない。が、違うものを信ずることも出来ぬ。だから何もない」
何も、ない?
クレイズもワイゼルもお母様も、あんなに熱くて美しい心を持っている。
彼らだけが、飛び抜けて気高い心の持ち主とは思えないから、この国の人々のありようも、また同じ筈だ。
なのに、何も、ない……。
目的の場所は、まだ先なのだろうか。
森の中の荒れた道は、まだ続いている。
王の話も続く。
「教えそのものを、禁じたことはない、教団の聖職者を国から逐った訳でもない。公会諸公との争いの最中でさえ」
王はもう、私を見ずに、まっすぐ歩く。
「今のこの国に、教えを説くものはない。教えを良く知る者も。だが、奥底には、かつて翼なきものの同胞であった記憶が沈んでいて、時に姿を現すことがある」
森が途切れた。
丈が腰まである草原の向こうに、立派な尖塔を持った、白い建物があった。
「聖堂教院、の蹟だ」




