一期一会
ガクガクと手が震え、頭の中が不安でいっぱいになっていく。耳がキンキンし、頭の側面から血の気が引いていく。
「はっ……」
息は荒くなり、心臓の音が激しく早くなる。それがさらに不安を加速させた。
歯を食いしばって、必死に見えない不安を耐えようとする。
(バッドトリップ……)
学校の裏庭に着いた途端、心臓の鼓動が早くなり、身体に力が入りにくくなったのを感じた。
通過儀礼かと思いきや、そのまま苦しさが募って来たのが今。
ベンチに無造作に座り、俯く。けれど、ベンチからずり落ちてしまいそうな脱力感と、それに伴う不安感。
苦しかった。何もかも消えて失ってしまいそうな感覚。限界まで行う呼吸。
頭から血の気が引き、貧血のような吐き気を催す。
「あー、くだんねえ……」
ひとりごちる。幸か不幸か人の姿は見当たらない。ここで薬効が切れるまで待つのが吉か。
(しかし——甘めに見てあと二時間……)
最近このようなことは無いからすっかり油断してしまっていた。
(見積もりが甘すぎる……)
何も考えたくなくて苦しみから逃れるようにずるりと身体をベンチに預けると——目の端に、心配そうな顔を浮かべる女の子の姿が見えた。
(……人!?)
俺が思わず後ずさるように後ろに身体を引くと、それにあわせて彼女も驚いたようにびくりと震えた。
俺は上を見上げた。
少女は黒く綺麗にまとまったロングヘアに、白いがほんのりと赤みのある血色の良い肌。乱暴にしてしまえば壊れてしまいそうな華奢な身体。
そして首には——普段見ることは無いアクセサリー、黒いチョーカーを身につけていた。
ドラッグの効果も相まったのかはわからない。ただ、彼女が何か特別な存在のように思えた。
宝石箱に入った宝石、あるいは秘密基地に生えているちょっとした果実のような。
こういう状況で無ければ、家に帰って良い一日だったと振り返れるかもしれない。
けれど今は気が気じゃなかった。
彼女は心配そうな顔をして、そっと口を開いた。唐突さに驚きながらその声を聞きとる。
「だいじょうぶ、ですか……?」
まだ成長仕切っていない、高い声。鼓動が早くなる。俺は反射的に答えた。
「……いや、大丈夫だから」
保健室なんて連れて行かれればドラッグをキメている今、更なるバッドトリップ一直線は間違いないし、そこから使用が発覚すれば——それこそ面倒なことこの上無い。
俺は努めて冷静に口早に答えた。
「大丈夫だから、気にしないで。放っておいて」
口ではそう言ったものの、嫌な想像をしてしまった故か、鼓動は更に高鳴り冷や汗がぽたぽたと垂れ、血の気は引き息が荒くなった。
(頼むから向こうにいってくれ……)
彼女は一旦この場を離れようとした——が、何か覚悟を決めた面持ちで言った。




