オトナ
僕は家に帰った後、トイレで限界まで吐いて、寝た。
起きると、リビングにはラップのかかった夕飯が置いてあった。
——一瞬、それが一華の家のそれとダブり、えずく。
ぺりぺりとラップを剥がして、吐き気を抑えながらそれを食べた。
その後、シャワーを浴びながら、思ったことがあった。
あれは僕が住んでいる世界とは違うものだということ。
一華はたまたま僕が観測できる世界に混じり、たまたま僕が交わったこと。
僕の頭に浮かぶのは、一華との思い出を、胡蝶の夢として処理し、自身の日常に戻ること、だった。
× × ×
次の日、学校の昼休み、屋上階段へと向かったがそこには誰もいない。
僕とグルーミングを行った彼女の形跡は——まるで何も無かったかのようだった。
僕は彼女の痕跡を探すように秘密基地へと向かう。
まだお昼休みで、グラウンドがガヤガヤとうるさい中、僕は隅にある藪の方へ入った。
秘密基地はそのままだったが、一つ変化を見つけた。
秘密基地に隠していた、それが無かった。
家に隠しとくのは少し不安だからと——秘密基地に置いておいたドラッグ。
これを知っているのは隠した僕と——共にそれを摂取した一華、だけ。
ガラスパイプはそのまま放置してあった。
考えられる可能性は——彼女がドラッグを——
僕はかぶりを振って、残り少ない昼休みを秘密基地の切り株の上で過ごした。
× × ×
僕はこれからのことを考える。
自分にはいくつか選択肢がある。このまま日常に戻るか、それとも——。
彼女を助けられるのだろうか?
親があれでは僕にはどうしようも無いように思えた。
あれの説得をする自信は——もう僕には無かった。
思い出すと、えずきそうになる。身体が震える。自分の力が通じない、無力感に襲われる。
彼女のことは、彼女のことは——僕がホンモノの人生を手に入れられるかもしれなかった彼女のことは——諦める、しかない。
こうやって人は大人になっていくのかなと思ったが、一華のことを終わったこととしている自分にも腹が立った。
立ったのだけれど、僕はそれに折り合いをつけて生きていこうと、していた。




