麻痺
「また……すってみたいな——」
そう一華から持ちかけられた時、僕は少し戸惑った。僕から最初彼女を誘っているにせよ、彼女からそれを言い出したことに心がざわついた。
もし——もし、彼女が道を踏み外してしまったら?と不安に思った。
それはあの言葉も多分に影響してるのだろう。
けれど僕は、また一華の違うおもてを見られると思ったら、あの一華と心を開いて触れ合えると思ったら、そんな事はどうでもよくなってしまった。
「——分かった。じゃあ、今日の夜、秘密基地で」
僕らは二人の秘密、あの場所で示し合わせることを約束する。
そう、二人だけの、僕たちだけの、秘密。
× × ×
夕闇が深くなった頃、僕は家を出た。夕ご飯の香りがする住宅街を抜けて、学校に足早へ向かった。
「一華——」
秘密基地に向かうと、切り株に座る人影はあるが返事がない。
少し不安に思いながら近づくと——一華はひっくひっくと何かを耐えてるのが分かった。
僕は一華を安心させようと、極力優しく声をかける。
「……何かあったの」
泣きはらした顔で、一華は言った。
「おとうさんが——」
最後は言葉にならなかった。その場で一華は泣きじゃくる。
——自分が一華のために出来ることは何だろう。
それは彼女の悲しみを受け止めてあげること、そっと傍に寄り添ってあげること。大切にすること。
僕が、最初に一華にして貰った時のように。
自分の手で、一華の悲しみを拭い去ってやれるように、膝に誘った彼女の頭を優しく撫で続ける。
「……」
しかし、一向にその重みは減らなかった。無力感に苛まれる。
——これは、反則かもしれない。ただ僕は一華の悲しみを軽減させたくて、持ってきたガラスパイプに火をつけた。
量は——いつもより多めにした。
「今日言ってた……約束のやつ。吸ってみて」
一華はうなずき、パイプを受け取る。膝の上にいる一華の薄い唇に、白い煙が吸い込まれていく。
「ぁ……」
小さく一華が声をあげる。緩む一華の手に、自分の手を添える。
一華の泣きはらした目が緩んでくる。
「何にも考えなくていいよ、思ったことを口に出してほしい」
頭を胸で抱え込む形で、一華の頭を撫でつける。指の腹で頭を緩急つけて撫でる。
「きもちいい……」
一華の頰はかすかに火照り、匂いが強くなった。
「——したいことを口に出してみて。考えている、そのままに」
暗示がかかるように、ゆったりとした口調で一華を促す。
「……もっとふれてほしい」
とろんとした瞳で一華は訴える。
僕は頰を手のひら全体で包むようになでつけ、そのまま手のひらを首筋に滑らせていく。
ちょうど、チョーカーに触れたとき一華の喉が震える。
「ぁ……」
僕の手にはじんわりと汗が滲み、彼女の皮膚と馴染むのが分かる。
包み込むように首に手のひらを密着させる。かすかな鼓動が手のひらまで伝わってくる。一華が息を飲む。
「っ——」
僕も煙を一息吸って、頭のネジを緩めて言う。
「可愛いよ。とっても」
いつもなら、言えないような言葉も、何かの力になったらと思って発する。
「ありがとう……」
首から手を離す。一華が名残惜しそうに首を手のひらに押し付けるのを感じる。
そんな一華に答えるように、彼女の半身を手を貸しながら起き上がらせ、そのまま抱きしめた。
「あ——」
一華がぎゅっと抱きしめて返してくれる。彼女はほろほろと泣いていた。
——僕は、今の僕なら、根本原因を解決出来るんじゃないかと思って、彼女の家に行く算段を立てていた。




