表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

麻痺

「また……すってみたいな——」


 そう一華から持ちかけられた時、僕は少し戸惑った。僕から最初彼女を誘っているにせよ、()()()()それを言い出したことに心がざわついた。

 

 もし——もし、彼女が道を踏み外してしまったら?と不安に思った。

 それは()()言葉も多分に影響してるのだろう。

 

 けれど僕は、また一華の違うおもてを見られると思ったら、あの一華と心を開いて触れ合えると思ったら、そんな事はどうでもよくなってしまった。

 

「——分かった。じゃあ、今日の夜、秘密基地で」

 

 僕らは二人の秘密、あの場所で示し合わせることを約束する。

 

 そう、二人だけの、僕たちだけの、秘密。

 

 × × ×

 

 夕闇が深くなった頃、僕は家を出た。夕ご飯の香りがする住宅街を抜けて、学校に足早へ向かった。

 

「一華——」

 

 秘密基地に向かうと、切り株に座る人影はあるが返事がない。

 少し不安に思いながら近づくと——一華はひっくひっくと何かを耐えてるのが分かった。

 

 僕は一華を安心させようと、極力優しく声をかける。

 

「……何かあったの」

 

 泣きはらした顔で、一華は言った。

 

「おとうさんが——」

 

 最後は言葉にならなかった。その場で一華は泣きじゃくる。

 

 ——自分が一華のために出来ることは何だろう。

 それは彼女の悲しみを受け止めてあげること、そっと傍に寄り添ってあげること。大切にすること。

 

 僕が、最初に一華にして貰った時のように。

 

 自分の手で、一華の悲しみを拭い去ってやれるように、膝に誘った彼女の頭を優しく撫で続ける。

 

「……」

 

 しかし、一向にその重みは減らなかった。無力感に苛まれる。

 

 ——これは、反則かもしれない。ただ僕は一華の悲しみを軽減させたくて、持ってきたガラスパイプに火をつけた。

 量は——いつもより多めにした。

 

「今日言ってた……約束のやつ。吸ってみて」

 

 一華はうなずき、パイプを受け取る。膝の上にいる一華の薄い唇に、白い煙が吸い込まれていく。

 

「ぁ……」

 

 小さく一華が声をあげる。緩む一華の手に、自分の手を添える。

 一華の泣きはらした目が緩んでくる。

 

「何にも考えなくていいよ、思ったことを口に出してほしい」

 

 頭を胸で抱え込む形で、一華の頭を撫でつける。指の腹で頭を緩急つけて撫でる。

 

「きもちいい……」

 

 一華の頰はかすかに火照り、匂いが強くなった。

 

「——したいことを口に出してみて。考えている、そのままに」

 

 暗示がかかるように、ゆったりとした口調で一華を促す。


「……もっとふれてほしい」

 

 とろんとした瞳で一華は訴える。

 

 僕は頰を手のひら全体で包むようになでつけ、そのまま手のひらを首筋に滑らせていく。

 ちょうど、チョーカーに触れたとき一華の喉が震える。

 

「ぁ……」

 

 僕の手にはじんわりと汗が滲み、彼女の皮膚と馴染むのが分かる。

 包み込むように首に手のひらを密着させる。かすかな鼓動が手のひらまで伝わってくる。一華が息を飲む。

 

「っ——」

 

 僕も煙を一息吸って、頭のネジを緩めて言う。

 

「可愛いよ。とっても」

 

 いつもなら、言えないような言葉も、何かの力になったらと思って発する。

 

「ありがとう……」

 

 首から手を離す。一華が名残惜しそうに首を手のひらに押し付けるのを感じる。


 そんな一華に答えるように、彼女の半身を手を貸しながら起き上がらせ、そのまま抱きしめた。

 

「あ——」

 

 一華がぎゅっと抱きしめて返してくれる。彼女はほろほろと泣いていた。

 

 ——僕は、今の僕なら、根本原因を解決出来るんじゃないかと思って、彼女の家に行く算段を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ