9枚目
「……うまい」
ヴィネットが作ったハンバーグを食べて、思わず口に出た言葉だった。ギャラハットの料理もかなり美味かったが、ヴィネットの作る物とは少し違う。
なんというか、ヴィネットの料理は包み込まれているような気がする。自分でも何を思っているのか分からないが。
「まぁ、アイちゃん嬉しい! 作った甲斐があるわぁ~」
ヴィネットが笑みを綻ばせ、俺を本当の息子のように見てくる。こんなことは初めてだから、少し恥ずかしくなって目をそらした。水を飲んで気持ちを誤魔化す。
「……なんか、俺の友達もそういうんだよな。『そんな美味しそうに食べている顔を見てると、作りがいがある』って」
「アイちゃんってばお友達がいるのね。どんな子か、教えてもらっていい?」
ヴィネットがカウンター越しに椅子へ座り、にこやかな笑顔で尋ねる。俺は言うべきか迷ったが、自分から言い出したことなのでギャラハットについて話すことにした。
「俺が勝手に思ってるから、あいつはどう思ってるから分かんねぇけど……。とにかく優しい奴なんだ。最初は気味悪いとか思ってたけど、一緒に過ごしてるうちに、なんかいい奴だなって……」
頬が赤くなってるのが自分でも分かる。酔っている訳でもないのに、友人としてギャラハットのことを話すのは照れくさい。そもそもこういう話をするのは初めてだし、友情に花を咲かせるなんて無縁だったし。言い訳を並べればキリがない。
「そう。アイちゃんが言うのだから、その子は本当に優しい子なのね。良かったじゃない、いいお友達に出会えて」
「ま、まぁな。お前とは世話になったし、また来る……と思う」
席を立ち、帰る準備をする。そろそろ帰らないと、いつまでもここに居座ってしまいそうだから。
「もういいの? まぁ、アイちゃんにも都合があるものね。気をつけて帰りなさいよ」
「……ま、またな」
「えぇ、いつでも待ってるわ」
照れ隠しに背を向いて別れを告げる。ヴィネットの優しい声を聞いて孤児院へと帰る。帰り道でも嬉しい気持ちになったのは、たぶんこれが初めてだ。