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8枚目

 俺は覚えてる限りの辛い思い出をヴィネットに話した。ある日突然、母さんが俺に暴力を振るうようになったことや、学校でクラスメイトがわざわざ直接俺に悪口を言いに来ることなど。どのくらい話したのか分からない。


「それで、そのせいで俺は母さんに怯えるようになったんだ……。あの時は、本当に怖かった……」


 水を飲み、パーカーの袖で流れた涙を拭う。友達や親戚でもないのに、こんなに親身になってくれて話を聞いてくれるのは心強かった。不思議と心が落ち着いていくような気がする。


「なるほどねぇ。辛いこと全部忘れなさいとは言えないけど、少しずつ心のケアをすればいいと思うわ。まずはゆっくり休んで……そうね。散歩したり、美味しいものを食べたり。次はあなたが幸せになる思い出を作るのよ」


「俺が幸せになる、思い出……」


 それは思いつかなかった。俺は平穏な日々を望んでいたが、自分が幸せになろうとはあまり考えたことがない。まぁ、ギャラハットのおかげで少しは幸せな日をつかめているのだが。


「えぇ、あなたは幸せになってもいいのよ。何かあったらアタシが守るから」


 ヴィネットが優しく微笑む。一瞬、こいつが俺の母親だったらいいのにという考えが頭をよぎる。本当にそうだったら、俺はどれだけ幸せな毎日を送れていたんだろう。


「あ……。ありが、とう……」


 たどたどしくヴィネットに礼を言う。誰かにお礼をするのは久しぶりで、言葉にするのが変におかしくなる。けれどヴィネットは気にせず、「いいのよ」と言って頭を撫でる。


 恥ずかしかったけど、そこまで嫌ではないと思った。


「さて。アイちゃんの悩みも聞けたし、夜食を作ってあげるわ! 今夜はハンバーグよぉ!」


「マジか……!? っていうか、アイちゃんってなんだよオカマ!」


「もちろん、あなたのあだ名よ。それにやっと心を開いてくれたわね! ママは嬉しいわぁ!」


「お前をママと思ったことはねぇ!」


 あぁ、でも。こんな夜もたまには悪くないな。

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