7枚目
店の中から出てきた変な奴に、俺の体が固まった。短く切り揃えられた水色の髪にピンクの瞳。淡い色のリップと肩をあらわにした服や、ショートパンツにヒールの高いブーツ。
「ひっ」
こいつを見た瞬間に、俺の体が拒絶反応を起こした。冷や汗をかき、息が荒くなる。落ち着こうと思えば思うほど苦しくなる。
「ちょっと大丈夫、あなた!? アタシはオカマだからセーフティよ! グレーゾーンよぉ!」
「グレーゾーン……オカマ……」
こいつの正体がオカマだと聞いて、気持ちが少し楽になる。これで落ち着く俺も変なのだが。
「そうよ、アタシはオカマなの。とにかく! 店でちょっと休んでいきなさい」
オカマに心配され、なす術もなくお姫様抱っこされる。俺が軽いのと、こいつの力がゴリラなせいで、抵抗もできずに店の中へ入れられた。
「少しは落ち着いたかしら。アタシはヴィネット、このお店のママよ」
カウンター越しに椅子に座る。オカマがヴィネットと名乗り、グラスに冷たい水と氷を注いで俺に差し出す。俺はどうにかうなずき、水を一口飲んだ。
「アタシはね、あなたみたいな年頃の気持ちがよーく分かるわ。繊細な心を持っていて……何よりあなた、女性に対する強いトラウマがあるのね」
なるべくヴィネットと目を合わせずにうなずく。こいつが何をしでかすか分からないし、まだ完全に気を許すわけもないからだ。
「嫌なことや辛いことがあるなら吐き出しなさい。言葉に出した方が楽よ。もちろん、無理にとは言わないけど」
「けど……」
話せば今すぐにでも母さんがよみがえりそうで怖かった。地獄の果てから這い上がって来て、俺を地獄に引きずりこむんだ。そう考えてしまうと、途端に涙があふれてくる。
「……今まで辛かったわよね。大丈夫、アタシはあなたの味方よ」
俺の味方。その言葉を聞いて俺は顔を上げる。涙でぼやけているが、なんだ。結構整った顔してるじゃねぇか。
俺はしばらくの間、ヴィネットに元気づけられながら涙を流した。