6枚目
美味しい夕飯を食べ、テレビを見て温かい風呂に入って寝る。なんて幸せな日々なんだろう。と、少し前まで思っていたのだが。
一向に眠れない。
母さんに殴られた時や、いつまでも飯を出してもらえずに夜中こっそり盗み食いした頃を思い出す。幼い頃から植えつけられたそれは俺の心をすり減らし、恐怖に陥れた。
「寒い……」
体が震える。冬でもないのに手足が冷える。愛が欲しいのではなく、未だ母親に怯える自分が嫌いだった。
「外に、出ないと」
深呼吸をしてなんとか部屋を出る。リビングの電気を点け、コップに注いだ水を一気に飲み干した。適当な場所にコップを直し、万が一何があってもいいようにメモに書き置きをする。これならギャラハットの奴も心配しないだろう。
「行ってきます」
誰もいないリビングで言い残し、外の街へ向かう。ここまで来れば大丈夫だ。親への恐怖や苛立ちを紛らわすためにやってきた夜の散歩は、意外と落ち着く。嫌な思いが闇に溶けていくような気がするからだ。
実際、ネオン街に行けば他のことを意識しない限りメンタルは安全だし、しばらくは問題ない。
「なんだ、これ」
ネオン街の外れに、寂しく置かれていた一冊の手記があった。拾ってみるとほとんど汚れはなく、新品同様だった。この街のことだ。誰かが捨て去ったに違いない。
「ありがたく使わせてもらう……って、あれ」
改めて周りを見ると、目の前には派手な照明が消えかかっているバーがあった。ピンク色の塗装に、何やらよく分からない英語で店の名前が書かれている。
その場で呆然としていると、男なのか女なのか分からない変な奴がドアを開けて歩いてくる。
「あら、ずいぶんとかわい子ちゃんじゃない。アタシの店に寄ってかない?」