21枚目
「よ、よろしくお願いします」
緊張して声が変になる。でもアクターは気にせず話を続けてくれた。
「君本当に女の人が苦手なんだねぇ。なんか訳ありな感じ?」
「おいアクター」
ヴィネットがアクターを睨み付けて、これ以上言うなという顔をしている。ヴィネットは本当に優しい。できることなら、俺はこの二人の家族になりたかった。
「む、昔から母さんに虐待されてて、それからずっとトラウマなんだ……。ごめんなさい……」
今までの辛さがこみ上げてきて、俺の目から涙がこぼれた。アクターの反応が怖くてうつむいてしまう。俺はこの数年ですっかりもろくなってしまった。精神的にも、感情的にも。
「君が謝ることはないよ。お姉さんが抱きしめてあげよう」
そう言って、アクターは怖がらせないようにゆっくり俺を抱きしめる。反射的に体が震えたが、頭を撫でられるうちに心が落ち着くようになった。母親のぬくもりと言うのは、こんなに暖かく優しいものなのか。
「ありがとう……」
「いいってことよ。いつでも私を頼ってね」
そんなひとときもつかの間、外からはパトカーや消防車が走り去っていった。サイレンが鳴り響き、またもや体がこわばっていく。
「ちょっと! これを見て。ニュースになってるわよ!」
ヴィネットがテレビをつけると、画面の先には孤児院が火事になっていることがメディアに取り上げられていた。しかも、被害者が名家のオトゥール家だけあって大事にされていた。
『被害者のギャラハットさんは軽症で火傷を負っており、警察は事故と事件の両方で捜査を進めています。また目撃情報に、火事の直後でバイクの走り去る音が……』
「嘘! え、だからヴィネっちバイクで爆走してたんだ!」
「できるだけ何も気づかれたくなかったんだけどね。ここまで報道されたら、もうこの街を出るしかないわね」
この街を出る。ろくな思い出がなかったし、いい思い出は少ししかなかったけど、街を出るのは不安だ。何より、ヴィネットとアクターに別れを告げるなんて。
「大丈夫よ、アイちゃん。ほんの少し我慢するだけでいいの。それに、アタシのおばあちゃんはとっても優しいから」
ヴィネットは俺を優しく抱きしめて、柔らかい笑みを浮かべて言う。
「あなたに出会えて嬉しかった。できることなら家族になりたかった。本当にありがとう、アイちゃん」