〜 伝説の胎動 〜 第九話
†GATE9 時の悪戯
ログの村の真上に太陽が位置する頃、昼食後庭先のテーブルでくつろいでいる……というか疲れている様子でテーブルに突っ伏していた。
朝の騒動で長い時間水に浸かっていた後の様な疲れが出たシオンは今日の探索を取り止めた。
食事の時、何時もは賑やかで楽しそうに話すアイナは一言も喋らなかった。
アイナはどうやら今朝の出来事から、ご機嫌斜めの御様子で終始剥れている。
テーブルに肘を着き手に頬を乗ているランスに向かいシオンは口を開いた。
「何かあいつ怒ってるみたいだけど、何かあったのか?」
「さあ、知らないよ」
ランスがテーブルに息を吹き掛ける。
「俺、なんかしたか? あいつに」
「知らないよ。僕は」
次いで布で磨き上げる様拭き出した。
「そういや、夜になったら何話してくれるんだ?」
「シオンとオークの一戦についてと……それに関する事だよ」
拭き上げたテーブルを覗き込む。
「今、話すのは不味いのか?」
「ちょっとね」
満足げにテーブルを見て微笑んでいる。
「記憶……戻るかな?」
「大丈夫、戻るよ。きっと、戻らなくても僕らがいるよ」
ランスがそのままの微笑みで応えた。
ランス達は三日後王都に入る前、奉公先の公爵が立ち寄っているフェリナスの街で奉公先の領主と合流する予定なっている。
シオンも一緒に来るのなら領主に奉公人として使って貰える様に頼んでみると言ってくれた。
ナタアーリアも記憶が戻っても戻らなくとも家に居てもいいと言ってくれている。
「ごめんな、せっかくの休暇なのに」
「気にするなよ。結構、楽しんでるしアイナなんか、ちょっとした冒険気分みたいだしね」
ランスが家の方に目をやった。
ランスの目に家の裏側から、もくもくと上がる黒い煙が飛び込んできた。
「な、なんだ?」
ランスが驚き声を上げた。
「火事か?」
シオンが叫んだ。
二人は、顔を見合わせると一目散に煙の方に走り出した。
煙の発生者はアイナだった。
「けっけっけっ……燃えやがれですぅ」
不適な笑い声を発しながら、アイナは火に向かい何やら放り込んでいる。
二人が駆けつけたるとアイナを火から引き離し怒鳴る様に声を上げた。
「「火事か」」
二人が声を揃える。
二人に目もくれずにアイナは二人を振り解き火に向かうと腕の中に抱え込んでいる何かをひたすら放り込み始める。
火に放り込まれていく物……それは今朝方、ブレスレットから飛び出したシオンの持ち物。「俺の記憶の破片がぁぁ」
アイナが火の中に投げ込む物を見たシオンが叫んだ。
持ち物の中から出てきたシオンのいかがわしい本だった。
それに気づき、慌ててシオンとランスが止めに入った。
「お前! 何してくれてんだ。俺の記憶の破片を――!」
アイナは、わなわなと全身を振るえながら口を開いた。
「こ、こんなものが大事ですぅかぁ? シオンは!」
「大事に決まってんだろ!」
「こ、こんな、け、けけ、汚らわしい絵画が……そんなにいいですぅかぁ!」
そう言うとシオンの目の前にアイナのご機嫌斜めの原因を突き出した。
シオンの荷物から飛び出て来た、俗に言うおとな本だった。
「こんな絵画がそんなにいいのですぅ。シオン?」
「こんなに綺麗に描かれた絵画、見た事無いですけど、そ、そりゃアイナの……ち、乳はこんなにないですぅけどぉ」
この世界には、まだ写真はなく絵画集として王宮にでも持っていけば国宝扱いになるだろう。
他の持ち物の中には立体ホログラフの出る機器(エロ含む)もあったが使い方を知らない。 シオンにも使い方の記憶が無いので使えず結果的に燃やされていなかった。
他の物が無事である事を知るとシオンは「はぁ――」と溜息を吐きアイナに尋ねた。
「他に物は何も燃やしてないだろうな」
「他の物は一応ぅ、しゃ――ねぇ――から残しておいてやったですぅ」
「お前、朝から何をそんなに怒ってるんだ?」
シオンが尋ねるとアイナは僅かに頬を染めて俯いたて黙ってしまった。
ふと、アイナは思った。
何を自分はこんなにも怒ってるんだろう……。
アイナ自身もその原因をよく分からずにいた。
慌ただしい一日も終わり夕食を取った後、いよいよ本日の本題に入る事になる。
オークと一戦交えた時のシオンの使った力と思われる事柄についてだ。
オークとの一戦を知るアイナが口を開いた。
「夢の中の様で、ぼやっとした記憶しかないのですがぁ」
アイナは、昨日の話を切り出し始めた。
「シオンが剣を抜いて一瞬で二匹切り倒した動き、普通の人間が魔法を駆使せずに出来る動きじゃないですぅ。戦闘の事や剣術、体術の事はアイナには解りませんが、最後にオーク三匹を倒した時、シオンは何らかの魔力を使ったのは確かですぅ」
アイナは一度言葉を切り一呼吸置いて続けた。
「精霊の振動は感じなかったのですが、魔力に似たものを確かに感じたですぅ」
「俺は、魔法なんて知らないけど魔法とか精霊とか、なんでお前等には分かるんだ」
シオンがアイナに尋ねた。
「アイナにランスも母様も魔法が使えるからですぅ。シオンの傷を治した時も使ったのですぅよ」
「シオンを家に運んだ時もね。僕達は人前で魔法を使わない様に気を付けてるけど、あの時のシオンの状態は担いで運べる様な状態じゃなかったんだ」
ランスがアイナの言葉に付け足しランスが言葉を続けた。
「アイナはシオンに水と大地の精霊に力を借りた錬金でシオンが失い不足した血を補い、僕は風の精霊に力を借りてシオンを家まで運んだんだ。幸い深夜だったから他の人に見られなかったんだよ」
アイナが、その後を引き取り言葉を続けた。
「魔法を行使出来る者は少なく戦に借り出される事は少なくのですぅ」
「僕達は戦争が嫌いだ。そんな事に魔法を使いたくないから人前で使わないんだ」
「アイナが言う俺が使ってオークを倒したものに精霊とやらをなんで感じなかったんだよ」「それは、シオンが使った魔法は精霊魔法じゃなかったからだよ」
「魔法とやらには何種類もあるのか?」
「あるよ。僕やアイナが使うのは精霊魔法なんだ。幼い頃『自分の身を護りなさい』と父様から教えて貰ったんだよ」
「どんな魔法も魔法陣が深く関係するんだけど、陣を用いない特殊魔法もあると聞いてる」
アイナとランスが使う。魔法は四大元素の「火・風・水・地」の「精霊」と契約し自分の持つ「精神力」「秘力」(魔力)を触媒に用いて「精霊」の力を借り行使する精霊魔法。 魔法の行使時に「精霊」の振動を感じられる者は、かなりの使い手だけで使える者全てが感じられるものではない。
二人は相当の使い手か潜在力を持っている。
ナタアーリアの使う魔法は次ぎの部類に属する。
ナタアーリアは精霊の振動を感じる事は出来ない。
同じく「火・風・水・地」の「理」を理解し〔人〕が言霊に改し自分の「精神力」(魔力)と「道具・聖具」を触媒として「魔術書」を用いて精霊世界に干渉し、精霊の力を引き出し行使する。
これを「理論魔法」と言うが「四大系統魔法」と呼ばれる。長けた者は「魔術書」を用いる事から魔術と呼ぶも者達もいる。
「精霊魔法」と「四大系統魔法」の違いは幾つかあるが、大きな違いは魔方陣を用いるかどうかにある。
「四大系統」の用いる「陣」は何らかの力を任意に引き出す指標の役割を果たし中継した人が言霊に乗せ放つ。「四大系統」は「精霊魔法」に比べ、魔法行使までの工程が多いのである。
それに対し「精霊魔法」必要ない。勿論、長所、短所はある。
等しく共通する点は詠唱の長さに比例し威力が異なり使用する魔力は大きい。
詠唱が長いと強力な魔法になるが、長い詠唱には時間が掛かってしまう。
魔力には使用限界があり、威力、効果、範囲は用いる者の資質による所が大きく同じ魔法でも魔力の違いで変わる。
二つの魔法と異なり神への信仰者である僧職者達が用いる神や天使の力を祈りと誓いにより借り入れる。
光の属性(系統)と呼ばれ「精神」秘力を触媒に力を行使する「神聖魔法」がある。
(魔力であるが僧職に就く者は秘力と称する)
五芒魔方陣の頂点に位置する「光」「火」「風」「水」「地」の特徴を持つ力を借りる。
かっては、存在したとも、存在しないとも伝えられる負の力を用い悪魔、闇の世界と儀式によりる血の契約を交わし己の生命を触媒に行使する暗黒魔法がある。
また、今日まで暗黒魔法と呼ばれる存在は開発段階で完成例もなく用いる者はいないとされていた。
その他にも魔力の持つものなら簡単に使える。
物を取ったり浮かせたりする簡易魔法、結界魔法(継続魔法と呼ぶ事もある)特殊魔法(次空間魔法、召喚魔法等と呼ばれる)魔法も存在し魔法の理は奥が深い。
一通り魔法に関しての話を聞いたシオンだが、さっぱり解らない。
「で、俺がオークを倒した時の動きは魔法なのか」
「う――、分からんですぅ。精霊魔法ではないと思うのですがぁ」
「シオンの動きが素早くなったのならそれを補助する風系統の魔法じゃないの?」
「精霊の振動は感じなかったのですぅ」
「じゃあ、四大系統の風の呪文かも」
「感じた事のない不思議な感覚でした」
「もしかして暗黒魔法かな?」
「怖いこと言うなですぅ」
ナタアーリアが口を開いた。
「あなたが練り出した不思議な感覚を覚えていませんか?」
シオンは無意識だったので覚えていない。
朝方、懸命に思い出そうとしたが駄目だった。
アイナもぼんやりしている記憶を練り出し、ハッとした顔で声を上げた。
「あ、ちょっとだけ、思い出した。確か……」
アイナは頭の中で一瞬、仮説を立てるが直に振り払う。
そんな事の出来る術者等いない。
「ほんとに? そう言えば前にアイナが治癒の魔法唱え掛けた時、シオン何か反応してたし魔力か精霊を無意識に感じてるんじゃないかな?」
ナタアーリアには、何か思い当たるのか真剣な表情で考え込んでいる。
「シオン……どうですかぁ、もう眠いですぅ」
アイナは、先程の仮説を知られない様にとぼけて見せた。
「もうちょっとだ」
オーク戦を思い出しているとシオンの中に感覚的に甦ってくる、あの時の精神力と集中力。「なんとなく思い出して来た」
アイナもランスもその精神力に秘められた不思議な感覚を感じた。
アイナとランスは秘められた精神力の大きさに気付きながらも胸が躍っていた。
「そこまでよ」
危険な感覚を感じナタアーリアが静かにシオンを制した。
「未知の魔力、古代語魔法が存在すると聞いた事があるわ。古の高等魔法よ。とても強力な魔法唱えられる者はいないわ。それを唱えられる者は“スペルマスター”だけよ。今は、その名称だけしか伝わってないの。歴史の記録にすらないの。遺跡で古代語は幾つか見つかっているけど、詳細な事までは分からないままなの」
「すげぇぇですぅ」
アイナは、驚きと関心が交じらせ驚いて見せる。
アイナの立てた仮説をナタアーリアが、呆気なく語り出した。
「それと仮説だけど自分の周囲に時空の歪みを生み出す次空間魔法(召喚)か或いは……暗黒魔法……負の力ね。考えられない事だけど……異なる魔術を組み合わせ行使したのかも知れません」
シオンが行使した魔法は、結界魔法で範囲を限定し回路の違う魔法を組み合わせ修正し行使した超高等魔法だ。
ランスは何故か嬉しそうに騒いでいる。
シオンも自分の記憶の破片に触れて嬉しいくて一緒になって騒ぎだす。まだ、これから始まる運命に気付かず、三人は今を幸せに思うのであった。
その頃、ログの村に向う夜道にローブに身を包む三人の姿があった。
To Be Continued
最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回をお楽しみに!