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〜 伝説の胎動  〜 第七話

 †GATE7 戸惑う想い

 

 ラウル湖が夕陽に照らされ湖面が紅く染まる側道をシオンとアイナはログに向け歩いていた。

 先程までアイナはシオンにお姫様の様に抱っこされていたが今は歩いている。

 アイナは、俯いてシオンの隣を歩くアイナの頬に赤みが差していた。


 シオンも大人しく隣を恥ずかしげに歩くアイナの様子に気付いてはいたが、頬の赤みが夕陽のせいか抱っこされていたせいなのかは分からない。

 何となく気にはなっている。

 しかし、今は自分がオークとか言う豚の化け物を倒した時の事で一杯だった。 


 アイナは、年頃の男の子にお姫様抱っこされていた事が今更ながら恥かしい。

 今日まで怖がりで人見知のアイナは人に対して警戒心が強く、近しい人物以外に心を開く事などついぞなかった。 

 意識が戻ってからも暫らく大人しくシオンの腕の中にいた事等、今までの自分からは考えられない事だ。

 何時なら状況に構わず。

「いつまで、触ってやがるのですぅかぁ!」

「早く、下ろしやがれぇですぅ」

 等と照れ隠しに悪態を口から放つってしまうところだ。

 何時もの自分とは様子がおかしい。

 何だか頬が熱いと感じ両手の平で頬を挟んだ。

 意識が戻って大人しくしている筈はないのだ。

 誰にでも一人見知りをする自分を良く知っている当然の事ながら異性に対しての免疫など更にない。

 気にする事無く気軽に話しをしたり出来る異性と言ったら、弟のランスくらいのものだった。

 アイナは恐かった時、寂しい時に弟のランスによく抱きついたりするが、双子の弟を異性として意識した事は無いからだ。 

 シオンはまったくの他人でましてや何処の誰だかも分からない怪しい事この上ない人物だ。

 シオンの腕の中に大人しく抱っこされていた自分が、何だか不思議に感じた。 

 シオンが初めて目を覚ました時は一瞬、少し風貌の違う少年に警戒心を強めランスの背中に咄嗟に隠れたが、看病をしている内に何時の間にか慣れていったのだろうか等と思ったりもする。 

 自分の中に湧き上がって来る二つの感情に気付き、その気持ちに戸惑った。

 恥かしい……でも……何だか心地いいと思っている自分がいる事が驚きであった。

 シオンはどう感じているのだろう? 何だか少し気になりアイナはシオンの顔をチラッと横目で見てみた。

 シオンは気にも止めてない素振りでログの村に向い歩いている。

 そんなシオンに何だか腹が立った。


 シオンは、自分の先程の行動を頭の中でなぞり考えていた。

 豚の化け物を倒した感覚は、今は夢のような感覚で何故、あの様な動きが咄嗟に出来たのか分からない。 

 オークの身の丈は平均、約二メール程もある。

 オークの持っていた鉄の棍棒が、かすっただけでも人間には致命傷だろう。 

 圧倒的な恐怖心と殺られる逃げなきゃと思う理性と同時に助けなきゃと思う気持ちが湧き無意識に剣を抜き自分が気付いた時には身体が動いていた。 

 アイナが襲われそうになったのを見て、自分の内側で何かが弾けた。 

 不思議な感覚がうねり出し、その感覚は無意識の内に研ぎ澄まされオーク三体を切り倒していた。

 

 シオンはアイナ達が魔法を使える事も、この世界に魔法がある事も自分が過去?(未来?)で何をしていたのかも知らない。

 シオンは、この世界での記憶喪失者としか思っていないので不思議な力が自分にあった事に戸惑いと驚きで頭の中は混乱している。

 シオンは勿論、自分が未来人? である等と露ほども思ってない。


 それは、アイナ達も同じだがシオンとは少し違う感覚でシオンを見ていた。

 普通の人間では考えられない程の尋常ではない回復力、少し違う顔立ち、着ていたヘンな服……あの夜の光と共に来たのか、何かに襲われたのかは分からない。 

 アイナは、シオンがどの様にしてオークを倒したのか、はっきり覚えてないなかった。

 薄れる意識の中、シオンが助けてくれた事だけは確かである。 

 アイナは思った。

 グラジ二アス大陸は広いし他の大陸もあるかも知れない。

 少し違う顔立ち、着ていたヘンな服は自分達の知らない外国の物かも知れないしあの光は関係ないかも知れない。

 様々な出来事が続き、タイミング的に結び付けているだけで何の確信はない。

 自分とランス、(母は四大系統)が使う魔法は四大元素の火・風・水・地の精霊と契約し自分の持つ、精神力、秘力(魔力)を触媒に用いて精霊の力を借り行使する精霊魔法である。 アイナは、精霊魔法以外は使えないが他にも魔法の種類がある事ともその違いも知っている。母が教えてくれたのだ。 


 もしかして、エルフ? そんな疑問が湧き上がってくるエルフは魔法に長けているから自分達の知らない魔法を使うかも知れない。

 そんな事聞いた事もないけど……そう思いアイナは再び、シオンの顔を、ちらっと目をやってみる。

 先程と違い今度はある事を確かめる為だった。

 シオンの耳を見るが尖ってない。どう見ても人間だ。

 いろんな事を考えモヤモヤしながら歩いていると不意にシオンが口を開いた。

「ありがとな」

 シオンが短く呟いた。

「なんですぅ。急に……」

「いや、ランスとナタアーリアさんにも言わないとな。いろいろ世話になったから」

「ほ、ほんとですぅ。ありがたくおもいやがれぇですぅ」

 アイナは、僅かに頬を染め恥かしいそうに言い言葉を続けた。

「まったくですぅ。アイナな――んか丸二日、治癒の魔法をぶっぱなしで治してたですよ」

 嘘である。

 そんなに魔力は続かない。

 ランスとナタアーリアと交代で看病していた。

「魔法?」

 シオンは不思議そうに尋ねた。

 

 アイナは(しまった)といった様な顔をして誤魔化す。

「ア、アイナは、魔法の様に良く効く薬を、つ、作っただけですよぅ」

 更に焦っり口調でアイナが言った。

「く、詳しい事は、家に着いたら話しますぅ」

 アイナは少し間を置き自分を落ち着かせてから言葉を続る。

「明日は、どこを探しましょうか」

「いいよ。今日は怖い思いさせたな」


 シオンは、いつぞやの昼食の時のアイナの笑顔が浮かび思った。 

 ゆっくり家族で団欒してほしい。 

「そうですかぁ」

 アイナの顔が、ちょっと悲しげな表情になった。

「お、お前なんぞ知ったこちゃないですけど」

「そ、それに、アイナは、ちぃ――とも怖くなかったですよぅ」

 そう言うと頬を膨らませ拗ねたように、プィっと横を向いた。 


 ログの村の近くまで来るとランスが駆け寄る姿が二人の目に飛び込んだ。

 息を切らしながらランスが二人に尋ねた。

「どうだった? 何か手掛かりは見つかった」

「いや、何も見つからなかったが豚の化け物に襲われた」

 シオンが答えた。

「よく無事だったね」 

 オークの噂を聞いてランスは剣をシオンに持たせたのだが、お守り程度のつもりだった。 

 危険な獣もこの辺りにはいないしオークの事も噂で村人で見た者はいなかったが万一に備え持たせたのだ。 

 それに命の危機に曝される程の事が起きれば普段は使わない魔法をいざとなればアイナが使うだろうと安易な思いもあった。 

 オークを相手に訓練を積んだ剣士であっても余程の手練でなければ一対一で勝つ事は難しいだろう。

 それにオークは少数で群れ行動している。

 複数で一度に襲われれば、アイナが魔法を使っても分が悪い決して勝てないだろう。 

 戦闘経験が豊富な者なら別だが、アイナにはないので逃げる時間稼ぎ位にしかならない。 

 勝てるとすれば、気付かれていない内に不意を衝き一瞬で葬るか、後は十分な間合いを取り強力な魔法で群れごと一瞬で葬るかだ。 

 シオンが一人でオークを倒したなんてランスは露ほども思わなかった何とか上手く逃げ切ったのだるう、と思っていた。

「兎に角、無事でよかった。」


 ランスが二人が無事で帰って来た事に安堵を感じているとシオンが口を開いた。

「手掛かりは見つからなかったが、オー……げほっ」

 ランスに状況を説明しようとした時、アイナの鉄拳がシオンの脇腹にヒットした。

 強烈なレバーブローがシオンの脇腹に炸裂する。 

 シオンは、続きの言葉を発する事無く、そのままその場に膝から落ち前のめりに崩れ落ちた。

「余計なこと言うなですぅ! 下僕のくせにですぅ」

 アイナが澄ました顔で言った。

「あ――疲れたですぅ――腹も減ったしですしぃ――取りあえず家にいきますかぁ」

 アイナはそそくさと家に向かって歩き出していった。

「……だ、大丈夫、シオン」

 シオンは気を失っている。 

 どうしたんだろう? アイナ? とランスは思った。

「せっかく怪我、治したのに……」

 ランスが切なげに呟いた。 


 家では、ナタアーリアが夕食の準備を整え待っていた。

 家の玄関口でどこまでもやさしい笑顔で出迎える。

「あら、あら、ご苦労様でしたね」

 四人が食卓を囲み歓談しながら食事をしている。

 ランスもアイナも楽しそうだ。 

 シオンは、会話に入れないがアイナの無邪気に何時もの調子で話す会話は見てるだけで楽しくなるのを感じていた。

 団欒中アイナが意を決した様に口を開いた。

「シ、シオンの事なんですが」 

 シオンは反射的に思わず脇腹を押えた。

 レバーブローを思い出す。

「何か分かりましたか?」

 母が尋ねた。

「何も手掛かりになるものがなかったんだろ?」

 ランスがシオンに確認するかの様に言葉を母に告げた。

 

 アイナは迷っていた魔法の事を話して良いものか、シオンには家で話すと言ったのだが……自分達が魔法を使える事も話さなければならなくなる。

 戸惑いがある為、なんだか落ち着かない様子のアイナを見てランスが尋ねた。

「シオンの事、何か分かったの?」

「あ、明日にしますぅ」

 歯切れの無い口調でアイナが言った。 

 シオンの記憶は取り戻してあげたい……でも……。 

 薄らと記憶に残っているシオンの人間離れした素早い動き、一瞬感じた魔力が作用した感覚が頭に浮かんだ。

 シオンにその事を伝えるのは、母とランスに相談してからにしょうとアイナは思った。

 暫らく他愛もない会話が続いていたがシオンが口を開いた。

「そういえば……」

 その言葉にアイナは、びくっと反応した。

「そういえば、お礼言ってなかったから、ありがとう」

 アイナは、胸の内で(お礼の事か)と思い胸を撫で下ろした。

「いいよ。そんなの当たり前だし」

 ランスが笑顔で言った。

「いいのですよ。気になさらなくて」

 ナタアーリアも笑顔で答えた。

「俺の怪我酷かったのか?」

 シオンがランスに尋ねると「まあね」とランスが答えた。 


 シオンの治療の事についての心配とシオンのお礼の言葉での安堵が入り混じりアイナが話に加わる。

「家に運ぶの大変だったのですよぅ。変な方向に手足が向いてましたですぅ」

「そうか、迷惑掛けたな。ありがとう。本当にありがとう」

 心底、感謝の言葉を繰り返す。嬉しさと温かさに目頭が熱くなった。

 シオンは、感激のあまり思わず目頭が暑くなるのを感じていた。 


 そんな中アイナが、しれっとそしてポツリと一言。

「ぐにゃぐにゃして運び難くて、ほんとに迷惑かけやがってですぅ」 

 何だか台無しである。


 To Be Continued

最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>

次回をお楽しみに!

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