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〜 伝説の胎動  〜 第六話

 †GATE6 記憶ちからの片鱗


 眩しい太陽の光がラウル湖の湖面をきらきらと輝かせている。

 太陽の輝きを反射して輝く湖面に出れば、透き通るラウル湖の水は何処までも澄んでいる事が分かる。 

 その美しさは、まさに自然が作り出した神秘だろう。

 ラウル湖に通じる道から二・三メール離れた茂みの中にシオンとアイナの姿があった。

 その場所は、あの夜にシオンが倒れていた場所だった。

 シオンの腰には、一・二メール程の長さの剣を帯剣している。

 今朝方、男の話を聞いたランスが剣をシオンに一振り持たせてくれた。全長一・二メール程の見事な剣だ。


 売れば相当の値が付くだろう、と思われる剣の鍔には細かく繊細な細工が施され、それぞれ色の違う四つ宝石もあしらわれている。

 騎士が持っても遜色ない見事な出来栄えだ。到底平民の身分で買える代物ではない。

 

 アイナとランスの父は、錬金鍛冶をしていたとランスが話をしてくれた。

 目利きがシオンの持っている剣を見れば、それを鍛えた錬金鍛冶師が相当の腕だったと見当をつけるだろうが、素人のシオンは初め聞いた時、錬金鍛冶が何なのか、さっぱり分らなかった。

 ランスの話を聞いている内に何となく分って来たくらいである。

 錬金鍛冶をしていた二人の父は、アイナとランスが幼い頃、ログに来て間もなく亡くなったと聞いた。 

 シオンが形見かと聞くとランスは首を横に大きく振ってシオンを家の中の物置に連れて来ると物置の中を見せた。

 納屋の中には、大剣からレイピアまで豊富な種類の剣、ハルバート、長槍、果物用の皮むきナイフ、蒔き用の斧等、日常品から武器まで豊富で様々な物がところ狭しと並べられていた。 

 ログに来る時に持って来た様で現在住んでいる家には鍛冶場と思われる作業小屋は見あたらなかった。

 ログの村に来るまでに打った物だろうと、シオンは当たりをつけた。 

 二人の父親は、この村に来て間もなく亡くなったそうだが、話をしてくれたランスの様子から、おぞましい何かの出来事があったらしい事をシオンは感じ取り、それ以上の事情は聞かなかった。

 ログの村に流れて着き居つく様になった事にも何か理由がある様だったがシオンはその理由までは聞けなかった。 

 シオンが出掛に手渡された剣を感慨深く眺めていると茂みの前に立ったアイナがシオンを助けた時の状況を話し始めた。

 話を一通り聞いた後、二人は茂みに入りシオンの倒れていた場所の茂みの周囲を念入りに記憶の手掛かりを探した。 

 何か手掛かりがほしい。

 何処の誰だか分からないままでは、何かと大変である。

 生まれ故郷も分からないのだから、帰るところも分からない。

誰も知り合いはいないし住む所もない。

 現状でのシオンの知り合いといえば、自分を助けてくれたランス、その母のナタアーリア、そして、ここに居るアイナだけだ。 

 シオンが倒れていた茂みを中心に、二十メール程円をなぞる様に白樺の林、湖の辺、茂みの中を探したが何の見つからなかった。

 当のシオンは何も思い出せないままだ。 

 陽も高くなっている。そろそろ昼頃かなとシオンは天を見上げた。

 何だか腹も減ってきたなと思っているとアイナが溜め息混じりに呟いた。

「はぁ……何も見つかりませんねぇ」

 一呼吸置いてアイナは屈託の無い笑顔を浮かべて言った。

「お腹も減りましたし、めしにしますぅかぁですぅ」

 アイナの微笑みがとてつもなくかわいく見える。

普段悪態を吐きまくるアイナとは、まるで別人の様に見えシオンは瞼を擦って見るが、その天使の微笑みは、そのままだった。


 アイナが湖畔の辺に敷物を敷くと持ってきたバスケットから黒いパン、チーズ、干し肉、葉野菜、ミルク、幾らかの香辛料を取り出した。

 好みの物を硬くて苦いライ麦パンに挟み食べるのだ。

 その後、クッキー等、甘い香りがする菓子類も取り出した。

 ピクニック? とシオンが一瞬、思っていると次の瞬間耳を疑った。

「アイナの絞りたての乳から作った特性バターですぅ――」

 などと、ほざき微笑みを向けてきたのである。 

 シオンは一瞬、自分の耳を疑った思い違えると、みょ―うにきわどい言い方だ。

 乳の前に牛なり山羊なり付くのだろうけど……。

  まあ、アイナに母乳が出る理由は見当たらないが、これまで対して気にならなかった部分。

“胸”要するに“ちち”なる二つの丘を無意識にシオンの視線がロックオンし見ていた。

 アイナは鮮やかな若草色のワンピースを着ている。

 腰のあたりは絞られ上半身の起伏は分かり易い。

 すらっとした身体に細い腰には十分なボリュームがある様に見えたのは気のせいだった。  

 前屈姿勢でバスケットを漁る胸元の生地がそう見せていた様だ。

 アイナが身を起こすと、その膨らみは見事に消えてなくなったのである。

 そんなシオンのいやらしい視線に気付かず、アイナは美味しそうにパンを頬張っている。  

 シオンもアイナの絞りたての乳から作った特性バターなるものをパンに塗り干し肉、チーズ、葉野菜等、好みで挟み食した。

 

 食事が終わり暫らくするとアイナが口を開いた。

「もう少し東に行ってみるでぅか?」と言いだした。

 ここから一時間程のところに今朝方、話に聞いた廃村があるらしい。

「東は危険じゃないか? ほら、今朝方おっさんが言ってたしオーク? て蛮族が出るらしいし」

「だ、大丈夫ですぅ。この辺にオークはいませんですぅし、ただの噂ですぅよ」 

 アイナは、今朝の会話を思い出して顔をほんのり赤らめ誤魔化す様に言った。

 怖がりの割りに恐いもの知らずで危なっかしいアイナを見ていると〔守ってやりたい〕という思が湧いてくる。

 動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・サル目(霊長目)・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト科上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種・ヒト……オスの本能なのか。

 シオンが感慨に(ふけ)っていると次の瞬間、アイナの口から頼もしい言葉が飛び出した。

「出たとしても、アイナが引き肉にしてやりますぅ」

 かわいらしかった天使の微笑みは、凶悪な笑みに変わっていた。

 嗚呼! 今思った事は撤回しよう。

 思わなかった事にしようとシオンは思った。


 アイナの話ではログの近くに今、アイナ達の奉公先である領主の立ち寄っている街は大きいと話していた。

 ラウル湖の東側は観光名所になっていてラウル湖の周辺は王宮からの軍や治安部隊が配備されていて治安がいいのだとい言う事だった。

 知能のそれ程高くないオーク達でも餌である人が多いという事は、逆を言えば自分達に危険も多いという事を本能と経験から知っていて近寄って来る事は滅多にないと言う。

 ログは小さい村だが、その恩恵を受けてオークや他の魔物達に、これまで襲われた事はなのだとアイナは言った。 

 シオンは、事情を知らないのでアイナがそう言うなら、そうなのだろうと思った。

 自分には記憶が無いし何より、アイナ達の見た光はログの東北東の方から現れたらしい。

 東に行けば何か痕跡があるかも知れない。 

 シオンとアイナが、ラウル湖沿いの地道を痕跡がないか丹念に探しながら廃村まで歩いたせいもあり二時間程掛けて、ようやく廃村に着いた頃には大きく陽も傾いていた。

 陽が沈む前にログに帰るには、村を探索する時間はない。

 シオンは、もともと廃村の中に今日は入るつもりはなかった。

 アイナはただの噂と言っていたが、噂だとしてもわざわざ危険な目に遭いに行く事もない。 記憶の手掛かりは欲しいが、噂と言っても無理に危険を冒す事もない。

 帯剣はしていても自分は剣など使った事があるかないのかさえ分からないのだ。


 アイナも同じ事を考えていた。

 シオンの記憶が戻る切っ掛けがあればと思う一心で、ああは言ったものの怖がりで臆病で喧嘩が嫌い。魔法を扱える事を知られれば、争いに駆り出される。

 そんな思いからアイナは魔法が使える事を誰にも言わないのだ。

 自分は攻撃系の魔法はどちらかと言うと苦手だと言うものの、治癒魔法というものは事実上存在しない。

 そもそも完全な治癒魔法が存在すれば医者や薬解師の存在す理由が無くなる。

 シオンの怪我を直したのは、薬草を使い錬金魔法で調合し精霊魔法で薬の効力を高めただけに過ぎないのだ。

 アイナが得意とする魔法は精霊魔法だが強力過ぎて使う事すら、はばかれる。

 それに人目を忍んで魔法を使うには、錬金魔法で小さなゴーレムを作り出すのがやっとの事だ。


 その頃、廃村の中で自分達の餌に気付いた者がいた。

 村の入り口は風下に位置していた。

 壊れた寺院の陰、オーク達が餌の匂いに……つまり人間が近くにいる事に気付いたのだ。

 それも好物の子供でしかも、その内の一人が若くてやわらかい肉の女である事に気付いている。 


 村の外ではシオンとアイナが村の入り口から中を窺がってみたが、崩れた建物しか見えない。

「今日は、もう帰ろう」

 シオンは、アイナに声を掛け元来た道の方を振り返った。 

 すると背中の方からアイナの声が聞こえる。

「ごめんですぅ」

 俯き悲しそうな声でアイナが言った。

「なんで、おまえが謝るんだよ。ありがとな」

 アイナが振り返ろうとした時、村の中にある寺院の近くで陽の反射で光る小さなものに気付いき村の中に駆け込んだ。

「おい、どこ行くんだ」

 シオンは声を張り張り上げた。

「今、何か光ったですぅ」

 アイナが短く答えた。 シオンは、後を追う様にゆっくりアイナの方に歩き出した。 アイナが光った物を見て溜め息を吐いた。

「はっぁ――鏡の破片でしたかぁ」

 残念そうにアイナが言った。

「帰ろう」

 シオンが、そう言うとアイナは頷いた。

 アイナとシオンとの距離は、五メール程ある。

 普通の歩幅で八から十歩位だ。

 アイナがこっちに向かうのを確認してシオンは再び振り返った。 

 その時、アイナは後で何かが動く気配を感じ同時にオークの放つ獣臭に気付く。

 アイナが気付くと同時にオーク達がアイナに襲い掛かった。 

 その距離は三メール程、数は五匹。

「きゃぁ――!」

 アイナの悲鳴が廃村に響いた。

 アイナの悲鳴でシオンが振り向くとオークがアイナに襲い掛かっていく光景が目に飛び込んできた。


 アイナは恐怖で動けないでいる。

 魔法はもちろん間に合わない魔法の詠唱には時間が掛かる。

 恐怖と驚き、咽かえる様な嫌な獣臭がアイナの意識を遠ざけていく、徐々に意識が薄れていく事を感じた。


「アイナ――!」 

 シオンの中で何かが弾けた。

 眠っていた破片(きおく)を見つけたかの様に反射的に剣を抜き、一瞬で気を失い掛け倒れそうになるアイナを左側に抱え上げ右手に握った剣ですれ違い様に向って来る正面のオークの首を切り落とした。 

 アイナとシオンの距離、五メール、アイナとオークの距離、二・三メール。

 アイナを抱えたままオークとの距離五メール、合わせて十二・三メールを移動し、アイナを抱えた状態でオーク一体を切り伏せる。

 シオンは、瞬きする程の一瞬でそれだけの事を遣って退けた。 


 子供の剣士に仲間を切られたオーク達は何が起こったのか分からない。ただ、目の前の人間が消え風が吹き抜けた。


 シオンは、アイナを壊れ物を扱うかの様に地面に下ろすと再び、残りのオークの群れに向い(きびす)を返す。

 後ろから一体の首を切飛ばすしオークの背中を蹴りアイナの傍に戻り間を取った。


 アイナは、薄れていく意識の中シオンがオークを切った瞬間を夢の中の出来事の様に見ていた。

 

 シオンは、自分の中の冷静な部分で何処か違う自分を見ていた。

(何故……こんな事が出来るんだ俺は……)

 記憶は戻ってない。意識の奥底の何処かで……身体が感覚で覚えている。 

 その感覚が徐々に戻ってくる力をシオンは感じていた。

 一瞬で二体の仲間をやられた残り、三体のオークが何かを感じる暇もなくシオンに振るう剣に切り刻まれた。

 シオンは、剣を一振りし刀身に付着しているオーク達の血を払い、布で軽く拭き取り鞘に納めるとアイナを抱き上げるとログに向かい歩き出した。


 半時程、経った時アイナが小さく息を吐く様に「ふにゅーふうぁ……」と、かわいらしい呻き声を漏らした。

 「大丈夫か?」

 シオンがアイナに声を掛けた。

 アイナはシオンの腕の中にいる事をまだ、理解出来ないでいた。

 オーク達が目の前で鉄の棍棒を振り上げた態勢を見て、もう駄目だと思った時から意識が薄れ良く覚えてない。

 薄れる意識の中の出来事が、ぼんやりと浮かんでくる。

 アイナは、記憶を失っているシオンは今、こんな感覚の中にいるのだろうか? と、ふと思うのだった。


 To Be Continued

最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>

次回をお楽しみに!

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