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〜 伝説の胎動  〜 第五話

 †GATE5 『名』と言う『形』



 木のテーブルを囲み、銀髪の少年を見つめる三人の姿があった。

 銀髪の少年は、先程までのにぎやかな空気が一気に冷え固まっていく雰囲気を読み取った。

 銀髪の少年は『そんなに見んなよ。大して思い出せてないんだから……』と心の中で呟いた。

「どうしたんだい?」

 バツの悪そうな顔をしている少年に気付きランスが尋ねる。

 アイナは興味深そうに見ている。

 ナタアーリアはやさしく微笑んでいる。

 銀髪の少年には重い空気だ。

 異様な空気が張り詰める中、銀髪の少年は静かに口を開いた。

「よくは解らなけど、いろんな呼ばれ方をしいてた気がする。ような……」

 銀髪の少年は言葉を続けた。

 思いつくままの順に明確、不明確に関わらず思い出した部分を話た。

「Seed…Factor…」

「Intelligehce…Mediation…」

「Oberon…」

「Nullification……」 

 三人は不思議そうな顔をして少年を見ている。

 三人には聞いた事の無い単言ばかりだった。

 銀髪の少年は、ハッとした表情で叫ぶ様に言った。

「そう! だ! ……NO、四零零五」 

 そう呼ばれてた。

 どうして、いろんな呼び方をされたかの理由まで少年は思い出していなかった。

「……?」

「……?」

「……?」

(……へヴィーな空気が流れる?)

 銀色髪の少年は、頬を時折吊り上げ苦笑いを浮かべた。

 重い沈黙を初めに口を開いたのはアイナだった。

 アイナが思いのままに言葉にした。

「へ、へんてこりんで長ったらしい名前ですぅ」

 アイナが言葉を続ける。

「そんなに長い名前覚えられんですぅ――。長いだけなら兎も角、聞いた事ない言葉を吐きやがったですぅ」

 ナタアーリアは固まった微笑みを浮かべたまま、きょとんとしている。

 ランスもよく解らない様で首を傾げている。

 普通に会話は出来るが所々聞き覚えのない言葉が双方に交じっている。

 多少変わってはいるのだが、極端には変わってない語源は同じなのかも知れない。


 ランスは、困ったような顔をしていたが、ハッとした顔になり部屋を出ていった。

 暫らくするとランスが戻って来ると手には羊皮紙とペンを持っていた。

「取り合えず、紙に書いてみてよ」

 ランスは、銀色髪の少年に羊皮紙と羽根ペンを差出した。

 銀髪の少年は頷くと先程の言葉を羊皮紙に書いた。

「Seed」「Factor」

「Intelligehce」「Mediation」

「Oberon」

「Nullification」

「NO、四零零五」

 銀髪の少年は羊皮紙に書き終えると、くるりと向きを変えランス達の方に差し出して見せる。 


 ラナ・ラウル王国で字の読み書きが出来る者は、全体の半分より少ない。

 貴族や高貴な生まれの者は読み書き出来るが、平民の生まれの者は文字の読み書きが出来ない者が殆どだ。

 ログの様な小さな村の者は読み書き出来ない者が大半を占めている。

 ランスやアイナのように何処かの屋敷に奉公に出る者は教会などで習ったり、奉公先で覚えたりするが、二人の母も読める様だ。

 二人は、恐らく母に教わったのだろうと思われた。

 三人は、この世界ではまだ、見慣れない表現の単語に首を捻っていた。 

「わ、わからんですぅ。どれかひとつにしやがれですぅ」

 アイナが首を捻りながら呟く。

 ランスは「しぇ」だの「にゅ」だの発音しようと懸命に声を絞り出している。 

 ナタアーリアは、ただ真顔で文字を見つめている。 

 ランスとアイナは「数字が名前なのはおかしい」だの『どれが本当だ』など、ああだこうだと話している。

 良く考えてみれば記憶の無い少年は、どの名を名乗ってもいいのだが……。

 銀髪の少年は見ず知らずの自分を助けてくれ治療し看病してくれ一生懸命に名前を探す三人を見て心打たれ、何だか感動すら覚えた。

 嬉しさと感動が入り混じり自然に感激の涙が頬を撫でていた。

 

 ――その時。


「え、え――い。SION(シオン)にしときやがれですぅ」

 アイナが苛ついた様子で、やけくそ交じりな声を張り上げた。

 ……台無しだ。

 単語の中にシオンなんて何処にもない。

 どうやら大文字で書いた部分を縦に読んだ様だ。

「今日から、お前はシオンですぅ! アイナの忠実な下僕として生涯仕えるでぇすぅ」

 半ば強引にアイナが決めた。

 そんなアイナにランスが怒鳴る様に声を張り上げる。

「僕は、四零零五の方が個人的には良いと思う。珍しいから」

 (こいつもかぁ……)

 と頭が痛くなるが思いながらも頬が緩むのを少年は感じた。

 シオンか……この世界での名、記憶を失っている少年の唯一のかたち。

 

 夕食後、シオンの居る部屋で夜遅くまでランスとアイナはシオンの名前で大激論になっていた。

 アイナは、別にシオンという名が特に気に入っている訳でもないが、自分の言い分を通したい一身で譲らない。


 ランスは『NO、四零零五』を内心でちょっぴり気に入っている様だ。

 別にシオンでも良いのだが、アイナが剥きになるので面白がっている様に見える。

 シオンは、傍で自分の名前で激論する二人を見ながら思った。『NO、四零零五』と呼ばれていたのか解らないが、本能の何処かでそれは無い。

 それだけは止めてくれと思った。

 『シオン』銀髪の少年の中でどことなく懐かしい響きに思えた。 


 翌日、ランスとアイナがログの村に帰郷して五日目の朝、二人とナタアーリア、そしてシオンと無難な名前に落ち着いた銀髪の少年がやさしい朝陽の中、家の外で朝食を取っていた。

 昨日の昼後、シオンはゆっくり休んだお陰か怪我は、もう完治している。

 身体の痛みも殆ど無い。

 アイナの献身的な看病と薬草の効果も手伝ったが、シオン自身の驚異的な回復力に尽きるところが大きい。

「あの夜に着ていたヘンな服では目立ですぅ」

 アイナに言われてシオンはランスに借りた服を着ている。

 背丈の寸法は、ほぼ同じだったものの、細かい所までナタアーリアが寸法を仕立て直してくれたお陰でシオンにぴったりの着衣になっていた。


 やさしい朝陽の中に和んでると、側の地道を仕事に向かうログの村人がランスとアイナ、ナタアーリア、そして、二人と同じ年頃の銀髪の少年に気付いた。

 側を通った四十過ぎの男が、アイナをからかった。

「おはよう。ランス お、その子はアイナちゃんの恋人かい?」

「ち、ちがいますよぅ」

 僅かに頬を染め、慌てるそぶりでアイナが答えた。

「み、みみ、道端で倒れていたので、し、しかたなく家に泊めてやってるのですよぅ」

 怒った様に口を尖らせ頬を膨らませた。

 そんなアイナは、とんでもなく可愛いらしい。

 怖がりで人見知りで口は悪いが、根は真面目でやさしい。

 ログに居た頃からアイナは村の人気者であった。

 アイナを知る者の大半は、アイナをからかうとむきになり面白いからだ。

 ランスも良く働き、面倒見が良いので好かれている。

 四十過ぎの男性は、去り際に言った。

「そうそう。最近、この村の東の廃村にオークが住み居着いたらしいから気をつけろよ」

 そう言い残すと男性は大声で笑いながら仕事に向かっていった。

 二人は一瞬、びくっとした。

 小さい村であるログは、みんな顔見知りだ。

 見慣れぬ顔は直ぐ分かる。

 あの夜の光体の事は二人と母のナタアーリアしか知らない。

 誰か見ていたら、今頃は騒ぎになっていただろう。

 シオンを治療した際、アイナとランスは魔法を使っていた。

 そうでなければ、シオンの命を救えなかったに違いない。

 アイナとランスが魔法を使える事を村の者は誰も知らない。

 そして母、ナタアーリアも使えるが決して人前で使う事はない。 


“魔法”は“破法”とも“覇法”とも呼ばれ扱える者は恐れられ、時には異端者、蛮族等と言われ審問とは名ばかりの処刑に処される。

 一度、戦が起これば掌を返した様に持て囃し、都合良く兵器として扱われる事等、日常茶飯事だった。


 朝食の後、片付けが済むとナタアーリアは機織りに向かった。

 昨夜、シオン、アイナとランスは相談をしシオンの体調をみて体調が良いようならば湖に行く事になっていた。

 何か記憶を探す手掛かりがあるかも知れない。

 ランスは家に残り母には、きついだろうと思われる捲き割り等、力仕事をするのでシオンとアイナで行く事になっている。

 人見知りで恥かしがり屋のアイナは当然嫌がった。

 シオンも湖まで近いし一人でいいと言ったが助けた時の状況を話した方がいいんじゃないかとランスに言われてしぶしぶ引き受けた。 

 アイナは、シオンの手当と看病を数日てしたが、大して会話をしていなかった。

 まだ見知らぬ男の子であるシオンに慣れてない事もあり何だか気恥ずかしかった。 

 それに追い討ちを掛ける様に先程のおやじのせいで妙に意識してしまう。

 年頃の女の子なのだから年頃の異性を意識してしまうのは至極当然の事であった。 

 それにシオンの容姿は、アイナの好みでもあった。

 何時ぞや、それを匂わせる様な事を呟いた事を覚えている。

 シオンは別段気にした風はないが、そんな態度が気に掛かり更にアイナを苛立たせた。

「さっさといきますぅよ。着いてきやがれですぅ! 下僕」

 アイナが少し顔を赤らめ怒った様に言った。


 シオンは、なに怒ってるんだと思いながら気付いた。

 (不味い) 

 俺……まだ、礼言ってない。

 シオンは、先に歩き出したアイナの後を追った。


 まるでアイナに仕える本当の下僕の様に。


 To Be Continued

最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>

次回をお楽しみに!

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