〜 伝説の胎動 〜 第三話
†GATE3 失われた記憶
木のベッドと木の丸テーブルと椅子の置かれた質素な部屋に銀髪の少年は寝かされていた。
やさしい日差しが差し込む部屋で銀髪の少年が目をゆっくりと開くと、そこはベッドの上であった。
自分は気を失っていたらしい。
銀髪の少年は見慣れない部屋を見渡し呟いた。
「ここは……何処だ?」
やさしい光が差し込む窓から外の様子を窺がった。
どうやら朝のようだが窓から見える景色も雰囲気も自分の知っている風景とは、ずいぶん違っている様な気がした。
見慣れないのは当たり前である。
この世界は、少年のいた世界より七千年余りも文化が遅れている世界なのだから。
頭の中は、まだぼんやりしていて今の状況をよく飲み込めない。
「俺は……」
良く思い出せない。
大半の記憶が失われている。
銀髪の少年は、痛みの奔る身体をゆっくり起こした。
ぼんやりした頭に激痛が奔る。
己の身体を見ると、所々包帯が巻かれている在り様だ。
痛む頭に手をやるとそこにも包帯が巻かれていた。
「痛っ――」
銀髪の少年は頭を抱え呻き声を上げた。
「目を覚まされたんですね。まだ、無理はいけませんよ」
やわらかい声色が銀色の髪の少年の耳に届いた。
銀色髪の少年は声のする方向に視線を向けた。
部屋の入り口に金髪の少年とその背中の後ろに隠れるように白金髪の少女が立っている。
「扉を叩いたのですが、返事がなかったので寝てるものと思いまして」
申し訳なさそうに金髪の少年が笑顔を浮かべている。
少女は手に薬箱が見える。
包帯を取り替えに来たのだろうと思われた。
「お、お腹減ってませんか? 大したものはないですが……」
少年が尋ねた。
「今はいい。お前達が助けてくれたのか?」
感情を窺がい知れない冷たい声で銀髪の少年は尋ね返した。
「はい。星を眺めていたら物凄い光が落ちて来たので、光が落ちた場所を見に行ったらあなたが倒れてました」
少年が答えた後、銀髪の少年に尋ねた。
「貴方は、何処かの王国から来たのですか?」
「……?」
「い、いいんですよ。言いたくない事や言えない事もありますし……ただ……」
その後を少女が引き取り続けて言った。
「『ヘン』な服きてますぅしぃ――、なんだか顔も胡散臭いですぅ」
なんとも酷い言われ様だ。
仕方ない少年は、異なる時間軸から来たのだから、着ている服は勿論の事、服の素材もデザインもこの世界の物とは、まったく違う。
その前に銀色髪の少年が身に着けていた服は、そもそも用途が違う。
それに、この世界の人々とは若干顔立ちも違う。
「す、すいません!」
慌てて取り成すように少年が慌てて取り成した。
「姉が失礼な事を……」
一度、言葉を切るとしどろもどろな様子で言葉を続けた。
「ぼ、僕たち双子なんです。姉は怖がりで人見知りで……あの……すぐに誰かの後ろに隠れてしまうんです。口は悪いですが、根はいい姉なんですよ」
「あの! あなたのお名前を教えて貰えませんか?」
姉の『ヘン』発言を気にしているのか、すまなさそうに少年が言葉を発した。
「……」
「あ、そ、そうですね。こちらから名乗るのが礼儀ですよね。あはぁはぁ……」
少年が姉の発言に相当慌ていてる様子で謝罪の言葉を口にした。
「僕の名は、ランス」
少年が名乗った後、ついっと横に動く。
すると、ランスの後ろに隠れて様子を窺がっていた姉が恥ずかしそうに立っていた。
落ち着かない様子で細い身体を、もじもじしながら俯いてランスの裾を掴んでいる。
ランスは、恥ずかしそうに下を向いて黙っている姉の名を告げた。
「こっちは姉のアイナと言います」
直後、アイナと言う名の少女は、ランスの後ろに隠れてた。
ランスは、銀髪の少年が硬い表情をしているので気を和ませようといろいろ話をした。
ランスの顔に銀髪の少年が顔を向けて話しに聞き入っている。
ランスは、恥かしがりやのアイナが銀髪の少年の包帯を取り替える為にも、少年の気を逸らす事は都合がいいと考えた。
ランスは、この大陸の名がグラジ二アス大陸である事。
この国が大陸の南東にあたる場所にあるラナ・ラウル王国である事。
この村がラナ・ラウル王国の東にある事や湖の名には王国の名ラウルと付くほど有数の湖、ラウル湖という事。
ここはログという小さな村である事、自分達がオッドアイである事で少なからず偏見の目で見られた事、十六歳で奉公に出ていて今は休暇でログに帰って来ている事、銀髪の少年が丸二日眠っていた事を銀髪の少年に話した。
アイナの方は、銀髪の少年が話に聞き入る様子を見て頭部の包帯を替えた。
頭部の包帯を取り替え終えると上半身に捲かれた包帯を取り替える為、ランスの手を借り 銀髪の少年の身体をゆっくり起こすと手当ての準備に入った。
銀髪の少年の怪我は、外傷はそれ程でもなかったものの、数十箇所の骨折と打ち身が酷かった。
相当強く地面に叩き付けられたのだろうと思われ、酷い打ち身の痕が残っていた。
幾つか内臓が潰れていると思っていた。
正直、アイナは銀髪の少年が助かるなんて思ってもいなかった。
ログの様な小さな村には、医者なんていないし薬は高価な代物だった。
家に運ぶ際、アイナが応急措置を施したが、それでどうにかなるとも思っていなかった。
銀髪の小年が生きて話をするなんて思いもよらない事だった。
包帯と外傷用の薬草を磨り潰した薬が出来上って準備が整い包帯を外しに掛かった。
外していく内にアイナの目が驚きに満ちていく。
それはランスも同じだった。
外傷は血止めと気休め程度の塗り薬を用いが擦り傷は消え深めの傷も、ほぼ塞がり掛けている。
前に包帯を取り替えた時は気付かなかったのだが、傷の治りが尋常じゃない。
「若年白髪おじじ少年。お前は一体何者ですぅ? それに若年おじじが死にそうになっていた場所の近くにあったゴーレム……あれは、若年おじじのゴーレムですぅかぁ? 若年おじじは、もしかして人形使い(ゴーレム)なのですぅかぁ?」
驚きを隠せないアイナは訝しむ表情を浮かべ、少年が倒れていた場所にあったゴーレムについて銀髪の少年に尋ねた。
「アイナ!」
ランスの声でアイナは、はっとして我に帰る。
「今のは」
銀髪の少年が尋ねた。
ランスは困ったような口調で言った。
「それは……」
気まずそうに話を逸らした。
「そういえば、きみの名は」
「覚えてない……」
銀髪の少年は、すまなそうに答えその後、言葉を続けた。
「さっきの……その子が口にしたゴーレムってなんだ?」
銀髪の少年は、不思議そうな顔で尋ねた。
「あぁ……気にしなくていいよ。それに名前……あれだけの怪我だったんだし、その時のショックで記憶を失くしたんだよ。きっと」
「すまない。俺、何も覚えてない……何も思い出せない」
銀髪の少年が答えた。
「僕たち……、家の事あるからいくけど、ゆっくり休んでください」
ランスがそう言って部屋を出て行った。
その後を追うようにアイナも出て行く。
一人になった部屋で銀髪の少年は記憶を探った。
「俺の名前かぁ……」
ぼんやりと頭の奥に眠る記憶が浮かぶ記憶は、靄の中にあるような感覚ではっきり思い出せない。
銀髪の少年は、それでも懸命に記憶の破片を探した。
To Be Continued
最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回をお楽しみに!