〜 伝説の胎動 〜 第二話
†GATE2 突然の来訪者
王都オースティンから馬車を丸一日程走らせれた場所に、ひっそりとした白樺の林の中にある小さなログの村。
小高い丘からは、透通る水をたんまり蓄えた大きく奇麗な湖が視界一面に広がる。
湖畔には緑が溢れていて実に美しい場所だ。
昼間には、そんな風光明媚が一望できる小高い丘の麓にあるログの村で夜空を、ぼんやりと眺めている少女と少年が居た。
年の頃は十半ばという所だろうか。
「やっぱり、ログで見る星は綺麗だよ」
「そうですぅねぇ」
「御奉公先のお屋敷では、忙しくてゆっくり星空なんて見る事できないしね」
「うん……」
奉公先の領主が十日程、王都オースティンに公務で来ている。
少女と少年は数人の衛士と従者と共に王都オースティンに行く途中休暇を貰う事ができ里帰りしていた。
二人の実家が、王都オースティンの近くにある事を知っていた領主が二人に里帰りにと休みをくれたのだ。
星空を眺めていた少女は、何時しか夜空に輝く月明かりを反射し輝く湖を見つめていた。
「姉さん!」
「なぁ――んでぇすぅ?」
少女が物憂げに答えると少年が夜空の一点を指差した。
「姉さん! 流れ星」
少女が少年の指差す方向に視線を移した。
「ほんと、綺麗ねですぅ。お願いしなきゃですぅ」
「はぁはっ、流れ星なんてすぐに消えちゃうよ」
少年は流れ星に願いを込め、ぶつぶつ呟く姉を見て笑った。
「今夜の流れ星は、まだ消えてないですぅ」
手の平を合わせ何事かを小声で呟いていた少女がそう言うと流れ星に眼をやった少年は息を飲んだ。
「こ、こっちに向かって来てない?」
まさかと思い良く眼を凝らして見る。
確かに光は、音も無く先程より大きくなってこちらに向かって来ていた。
「ぎあゃゃゃ――」だの「うわぁぁぁ――」だの騒いであたふたしている間に、その光体はグングン迫って来ている。
二人は『逃げなきゃ』と頭は働くものの、身体は強張り逆に見つめるばかりで地面に根が生えたかと思うくらい意思に反して思い通りに身体が動かない。
大きな光が湖の対岸あたりに差し掛かる頃、その大きさを改めて認識すると同時に余りの眩しさに目を細めた。
(もう駄目だ!)
目を伏せた瞬間、光は輝きを失い湖の中程で弾けるように消えていた。
二人の覚悟していた瞬間は、なかなか来ない。
少年は、恐る恐る目を開けて見るが、眩い光を見たせいか光の闇に視界が眩む。
眼も慣れ初めた頃、辺りは月明かりの差す闇に戻っていた。
少女は、咄嗟に頭を抱え少年の後ろで蹲っている。
地面に蹲り震えている少女に少年が話し掛けた。
「姉さん……姉さん……」
少女は、両手で耳を塞ぎ暫らく震えていたが、少年の声に気付き身体を顔を上げた。
「なっ! 何だったんですぅ――」
震える声を喉から絞り出す様に少女が言った。
「さあ?」
少年が呆けた顔をして答えた。
「い、行ってみるですぅ」
恐怖と共に湧き上がった好奇心が、あの光の正体は一体何だったのか知りたいと言っている、その好奇心が勝ったのか少女が瞳を震わせながら少年に言った。
光が消えた湖までは一本道。
距離もそんなに遠くない。
月明かりが辺りを照らし闇にも慣れ足元は見える。
二人は、顔を見合し頷くと湖に向かって歩き出した。
月明かりの中、湖に辿り着いた二人は、辺りを見渡して見るが月夜とはいえ、夜の闇は昼間の景色を隠していて良く見えない。
湖の周辺も特に変わった様子は見られなかった。
少女が湖の方に目をやった時、湖の中程で何か沈んだようにも見えたが、湖面や水位に大きな変化はなく月明かりの中、しかも一瞬だった為、気のせいかと思い少年には言わなかった。
「何も変わった事ないよなぁ」
少年が呟く様に言った。
「帰りましょうか」
少女は、そう言うと少年の手を取り元来た道へと歩き出した。
ガサァと二・三メール離れた茂みの中から草のざわめく音が聞こえた。
「ひぃぃ――!! な、何かいるですぅよ」
少女は、音に逸早く気付き悲鳴を上げた。
「うさぎか何かだろ?」
少年も気づくも音の大きさから野の小動物だと判断し少年は静な声で言った。
「そ、そうですかぁ」
不安そうに少女が呟く。
その時、先程の茂みの中から苦痛じみた唸り声が聞こえた。
「うぅっ」
微かな埋めい声が上がる。
「ひぃやぁぁ――、なんかいやがるですぅ――」
少女は、叫び声を上げ少年の後ろに隠れた。
少年も驚いて後じさりし息を呑んだ。
月明かりだけでは、はっきりとした様子を窺がう事は出来ない、何が呻いたのか分からない。
夜の闇に紛れ、禁漁区に指定されているラウル湖に密漁に来た輩が、獣にでも襲われたのかも知れない。
それとも……。
嫌な予感が二人を襲う。
唸り声を聞いた二人の脳裏に盗賊か或いは、人外のもの……蛮族と呼ばれる亜人種かもという不安が生まれた。
盗賊ならまだいい。
本当は良くないがまあいい。交渉も命御いも出来る。
もし、襲ったものが人外のものだとすれば……。
蛮族達は、決して人間と友好的とは言えない。
オークやトロールは凶暴で残忍だ。
特にオークは人間の子供が大好物で良く利く嗅覚で直ぐに見つけ出すだろう。
「うぐぅ――っ」
再び呻き声が聞こえ、人の声だと少年は確信した。
冷静に考えればオークやトロールなら月明かりの中とはいえ、人より大きい身体が見えるはずだ。
それに、この距離なら、とっくに襲われている。
それは盗賊でも同じ事だ。
もし、何者かに襲われた後、放置された怪我人がいるなら助けなきゃと震える足を地面から引き剥がし茂みに向かった。
少年は、恐怖心を殺しゆっくり茂みに近づいた。
少女も背中に隠れながら着いていく。
少年は、喉から搾り出す様に声を絞り出し問い掛けた。
「だ、誰かいるのか?」
「……」
返事は無い。
「誰か居るのですか?」
少年は、再び問い掛けた。
「そこに人が倒れてるですぅ!」
背中の後ろに隠れている少女が茂みの中に倒れてる人影を月明かりの中で見つ少年に告げる。
少年の視線から僅かに逸れた場所に確かに倒れた人影が見える。
「どうかしましたか? 怪我してるんですか?」
少年が何度も尋ねてみるものの、一向に返事は返って来ない。
どうやら気を失っている様子だ。
二人は人影に近づき覗き込んだ。
闇に慣れてきた目が、うつ伏せに倒れている。
自分達と同じ年の頃だと思われる少年が苦しそうな息を漏らしていた。
茂みの中には、銀髪の見慣れない服を着た少年が倒れている。
「大丈夫ですか?」
少年が声を掛けるとその声に銀髪の少年が僅かに反応した様だった。
「うっっ……」
短く呻き声気が洩れる。
弱いが息はある。
少女は少年の背中に隠れ不安そうに様子を伺っていた。
「大丈夫ですか?」
少年がもう一度声を掛けた。
「くっ――」
銀髪の少年が僅かに呻き声を上げ薄く目を開いた。
少年が銀髪の少年に手を貸し上半身を起こしてやった。
「うっ――」
銀髪の少年の顔が苦痛に歪んむ。
月明かりが銀髪を照らし出し弱い風が髪を揺する。
ほのかに淡くブルーが掛かっている事が分かる。
抱え起された少年の澄んだ淡いブルーの瞳が虚ろに二人を見ていた。
銀髪の少年の瞳には、少年と少女の二人の姿が映っていた。
金色の短い髪の少年とその背中の後ろに白金髪の長い髪が月明かりの中に照らし出されている。
その瞳は、二人とも左右の色が違う澄んだ赤と緑の瞳のオッドアイ。
「あの野郎……むちゃしやがっ、て……」
銀髪の少年が苦しそうに声を絞り出すと再び意識を失った。
「家に運ぼう」
金色の短い髪の少年が言うと白金の長い髪の少女は小さく頷いた。
To Be Continued
最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回をお楽しみに!