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〜 伝説の胎動  〜 第十四話(最終話)

 †GATE14 最終話 君、呼ぶ声 


 シオンが乗り込んでいるARMSは、再生を始めた半壊のゴーレムを掴み、青い炎の光跡を引き飛び立った、翼の両端から白い水蒸気の雲を引いて轟音と共に大空へと消えていった。

 暫くの時間の後、上空高くで眩い光が炸裂した。

 それは、まるで昼間の空に開いた光と煙の花火の様に思えた。

「シオン……」

 アイナの胸に嫌な予感が走った。

 ランスが顔を顰め空を見上げ、涙を零しているアイナの肩をそっとやさしく抱きかかえた。

 二人の背後ろには、この場にもう一人残された者が居た。

「我のゴーレムが……」

 透通る様な金髪を乱しがっくりと膝をついた光に包まれたままの女性。

 アイナとランスは悲しみの涙を拭うと身構えた。

 まだ戦いは終わっていない。

 ゴーレムと共に塵となったシオンの為にも泣いてなんかいられない。

 自らの命と引き換えにゴーレムを葬ってくれたシオンの為にも、自分達は生き残らなければならない、それが唯一、シオンの思いに応えられる事。

 アイナは拳を固く握った。

 もう魔力は尽きている。

 しかし、あのゴーレムを作り出し操っていた光に包まれた女の魔力は、まだまだ健在である事を嫌でも感じる。

 勝てる筈はない。


 でも……、自分達を守ってくれたシオンの命を無駄には出来ない。

 例え、勝てる見込みが無く命を落とすかも知れないとしても、本気で追われれば逃げ切れる事も出来ない事も解っている。

 命乞いをして生き延びる事も選択肢としては残されているが、シオンの事を想えば、その選択肢を選ぶ事等出来るはずはない……例え、それがシオンが望んでいない結果になっるかも知れないとしてもだ。

 戦うしかない。同じ結果になるなら一矢報いたい、シオンの為にも……。

 光に包まれた女が、ゆらりと立ち上がり二人の視線と重なった。


 数分前。 

 上空ARMSコックピット内は、けたたましく鳴り響く耳障りな音と血の様に赤い光で染まる操縦席。

 ブゥーブゥーブゥー。

 危険を告げる警報音が鳴り止まない。

 油圧、圧力、フロー、融合炉内サーモグラフ、メーター各種、その他の計器の示す数値が安定しない中、高度計だけが規則正しく回転を続けている。

「二千――三千七百――五千三百、五千七百――七千六百、八千――九千九百、一万」

 シオンは、高度計を見詰めペダルと操作操、出力スロットルを握る力を緩めない。

『WARNING』 

『WARNING』 

『WARNING』 

 高度一万メールを超えた辺りから音声警告が鳴り止まずコックピット内に響いている。 

「融合炉内の冷却が追い付かない……ここまでか」 

「融合炉隔壁閉鎖、フェイズ緊急時に際し、四から七十八、百二十から百五十五十六までカット。間に合うか」 

 シオンは『DANGER』と書かれたボックスを開け現れたテンキーに自爆コードを入力すると自爆までの残り時間の数字がカウンターを捲っていく。

 シオンは、自爆シークゥエンス起動を確認し黄色と黒のに塗装された操縦席下に設けられているレバーに手をやった。 


 光に包まれた女と対峙し身構えて凍り付いた時間が、短い様でやたらに長く感じた。

 女に動く気配は見られない静寂と緊張だけが張り詰めている。

 その静寂は、アイナが発した涙混じりの怒り声で破られた。

「よくもシオンを……」

 アイナのオッドアイの瞳から熱い液体が頬を伝った。

「勝手に殺すな」

 不意に後ろから声を掛けられる。聞き覚えのある声、決して忘れる事のない銀色髪にブルーが掛かる少年の姿が、ゆらりと現れた。

 シオンが傷だらけの身体を引きずつてアイナとランスの隣に並んだ。

「お前の負けだ。お前のゴーレムは木端微塵に吹き飛んだ。再生は不可能だろうな」

 シオンの言葉に女性は薄い笑みを浮かべた。

 その瞬間、女性が右腕を差し向けると手の平から眩い光を放った。

 詠唱破棄の魔法。

 シオンが両脇にいた二人を突き飛ばした。

 「シオン……」

 アイナの目の前でシオンは、光の中に飲まれ姿を消し光の檻に囚われた。

 光の檻の中で悶絶するシオンの影が見える。

「おまえぇぇぇ――!」

 アイナは、怒りに任せ残る限りの魔力を絞り出し魔法を放とうとした時、光に包まれた女の魔法が先にアイナを襲い掛かる。

「危ない! アイナ」

 ランスがアイナに駆け寄り抱きしめ、地面を転がる。

 女の放った魔法の光がアイナの身体を掠めた。

 ランスも残りの魔力を絞り出し満身創痍のアイナに治癒魔法を唱えた。

 光に包まれた女の魔法を己の身に受けたアイナには、その魔法の質と力の差が痛い程解った。

 光に飲み込まれたシオンを助けたい。

 しかし、身体は思う様に動かない……歯がゆくて涙が零れ出した。

「シ、シオ……ン……に手を、ださな、い……で」

 アイナは、光に包まれている女に向かい、必死に絞り出し苦しそな声で訴えた。

「おね……おねがぃ……シオ……ンをそれい、じょう、傷つけ……ない、で」

 今にも切れそうな細い声でアイナが訴え続ける。

 アイナの悲願を聞き入れたのか、光の檻は消えシオンの身体を自由にする……だが、光の檻から解放されたシオンの身体は、ぴくりとも動かない。

 アイナは、急速に弱まっていくシオンの命の息吹を感じ取った。

 アイナの大きく澄むオッドアイの瞳に涙が溢れ頬を伝う。

  悲願を続けるアイナに女が言った。

「お前達をこれ以上傷つけまい。しかし、この少年はおそらく助からないだろう。唯一の方法を除いてはな」

「唯一の方法? 禁忌の魔法……蘇生?」

「蘇生? 確かにあるがあれは成功率が低い上に術者にもそれなりの大きなリスクがある。それでも成功例のない魔法になんぞ頼れるか? お前は、こ奴をゾンビにしたいのか?」

 光に包まれた女が言葉を続ける。

「その様な物ではないが方法はある。もう既に始めている。危険を伴いあの少年の強い意志に委ねる所が大きいが……」

「ど……いう……意味」

「我らも、お前達も見た目は違えど“祖”は同じ身体なんぞ入れ物に過ぎんという事だ」 

 感受性の高いアイナの中にシオンの生命の息吹が流れ込んできて、その失われていく命の火を感じていた。

「シ……オン」

 アイナの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。 

 シオンの命の灯火をアイナは感じている。 

 その今にも消えてしまいそうな命の火を。

「い……かな……いで……シ……オン」

 シオンの命の火が更に弱まっていくのをアイナは感じた。

「やぁ、シオ……ン……いかぁ……ないで、いっ……ちゃ……やだ」

 アイナは、もうシオンの命の火を感じない。


「わ……たし……を置い……て、いか……ないでぇ――! シオン――生きてぇ――!」 

 アイナの瞳からは涙が止まらず流れ出ている。 

 光の中に消えたシオンにアイナは、何度も何度も途切れる様な細い声で呼び続けた。

「シ……オン、シオ……ン、……オン」

 アイナは、シオンの消えた辺りを名残惜しそうに何時までも見つめていた。 

 オッドアイの瞳からは、大粒の涙が止まる事無く零れ落ちている。

「お前がシオ……ンに何を」

 弱々しい声に怒りが交じる。

 光を纏った女は、地面に伏しているシオンに近付くとアイナに尋ねた。

「お前たちは、この場に何をしに来たのだ。我、友の遺産を欲してか」

「違う、ですぅ。記憶を探しに」

「記憶?」

「シオンの……その少年の……記憶、ですぅ」

 光を纏った女は、感情を窺がい知る事の出来ない声色で話し出した。

「……例え間違いであったとしても、我もあの少年もお前達も戦ったのだ。己の護りたいものを、護る為に」

「お前……な……何を護りぃ……戦ったのでぇ……すかぁ」

 途切れた声でアイナが問うた。

「我は友に託された。友の願いと遺産を護って戦ったのだ」

「我は気の遠くなる程前から友の遺産をつけ狙い奪わんとする者達から護って戦ってきた」

「それ……は、なにですぅ」

「争いを絶つ、悲しみを絶つ、恨みを絶つ、憎しみを絶つ、絶望を絶つ、それが友の願いだ」

「護る為に戦う。可笑しな話だ。戦わねば護れぬものもある」

「我は、友の願いの“ひとつ”だけでも叶えたい。何千年もそう願ってきた。これからもだ」「それが、正しいのか、間違いなのか、我にも解らん」

「時に、自分の正義が常に正とは限らん、また間違いとも限らん」

「想いの分だけそれぞれの正義が、そこにはあるのだ」

 アイナは複雑な想いで聞いていた。 女が話す“理想”と“矛盾” 

 アイナの今の願いは“ひとつ”シオンにもう一度、逢いたい。

「シオ…ン、何処に? ……いるのですぅ?」

「そこは、冷たく寒くて何も無い真っ暗な場所ですぅかぁ?」

「もう一度……もう一度だけでいい……ですぅ……逢いたいですぅ。シオン――――――」 

 シオンの意識は、真っ白な世界にいた。 

 その世界で、幾多の問いと同じ答えを繰り返していた。

「お前は誰だ」

「知らない」

「お前は何処から来た」

「知らない」

「お前は何をしたい」

「知らない」

「お前は何を求める」

「知らない」

「お前は何処に行きたい」

「知らない」

「お前は何故戦う」

「知らない」

「お前は力が欲しいか」

「知らない」

 

 お前は“無”だ。


「お前は何の為に生まれた」

「おれは……おれは、創られた」

「お前は何の為に創られた」

「おれは、絶つ為に創られた」

「お前は何を絶つ為に創られた」

「絶望を絶つ為だけに創られた」

「……ならば、お前に託そう。我の願いを」

「お前は苦しく険しく考える事が愚かしい永遠に叶わぬかも知れん思考の怨嗟を背負う」

「お前には聞こえるか。お前を呼ぶ声が」

「きこえない」 


 最後に問う。


「お前は護りたいか生きたいか」

「おれは……」

 俺は、護りたい。  

(死なないで) 

 俺は、アイナを護りたい。  

(置いていかないで) 

 俺は、生きたい。  

(もう一度、逢いたい) 

 生きてアイナを護りたい。

「生きたい」  

(シオン)  

 生きるだけでは意味が無い。

「守りたい」  

(シオン逢いたいですぅ)  

 その時、シオンにアイナの声が届いた。

「シオン――――――」 

「俺は生きる!」 

 シオンを包んでいた光は四散して消えた。 

 四散した光の中から、光に包まれたシオンの姿が現れた。 

 命の火を失ったシオンの傍らには剣の柄と鍔元だけの剣らしき物が置かれている、柄の上には、先の尖った幅広の平べったい鍔が載っている。 

 鍔元に宝石の様な物があしらわれ、液体の滴の様な形の外縁に真っ白な天使の翼の装飾が掘られていた。 

 よく見ると羽根の装飾は、十二枚の翼は鍔元から延び一枚、一枚の翼は重なりが少しずつずらされていて今、まさに翼を広げ様としている様に見える。 

 しかし、柄の大きさから見れば確かに両手持ち程の大剣のものなのだが、肝心の刀身は見当たらない。 

「フィノメノンソード……友はお前に託した。ならば、我も成さねばなるまい」 

 己の心臓を取り出しその半分程を引きちぎり光に包まれたシオンの体内に沈めた。 

 その心臓が光と溶け合う様にシオンの身体の中に消えて行った。  

 シオンの途切れかけた命が躍動するように燃え上がる。 

 アイナも再び躍動を始めるシオンの命の火を感じた。

「シ……シオ……ン、シオン」 

 アイナが叫ぶ様に呼んた。 

 シオンがアイナの呼ぶ声に反応し、ゆっくりと目蓋を開いた。

「アイナ……」

 弱々しくシオンが呟いた。 

 アイナは、自分を抱えて気を失っているランスを優しく草の茂る上に寝かせると這う様にシオンに近付き、死んだとばかり思っていたシオンの胸に飛び込んだ。 

 シオンの無事に安堵と嬉しさが入り混じり泣きじゃくった。 

 光を纏った女は何時の間にか姿を消していた。 

 シオンは泣きじゃくるアイナを優しく抱き締め、白金の細い髪が乗る頭を撫でてやった。

「ジ、ジオ……シオ…ンが無事……で、よ、よがっだでずぅ――」

 アイナが涙ながらに言った。

「ありがとな……呼んでくれて」

 シオンは、そう言うとシオンの胸でむせび泣くアイナの頭を撫でてやった。

「お前が呼んでくれたから、俺は生きている」

 シオンは、愛しそうにアイナを抱き締めながら言った。

「ぼ、ほんどうに……じんぱいぃ……ざぜやがってでずぅ――」

 アイナは更に泣きじゃくていた。

「ごめんな」

 シオンは、短く呟きアイナの頬を伝う涙を親指で優しく拭った。 

 暫らくアイナは泣いていたが、やがて安心したのか落ち着きを取り戻した様だ。 

 シオンとアイナは、暫らく見つめ合っていた。 

 自然に引き合わせられるように互いの近付き唇が重なり合わせた。  

 辺りは先程までの状況がまるで夢だった様に思わせる程、透き通る様な静けさで、さわやかなそよ風と赤い夕陽がやさしく二人を包み見守っていた。 

 二人は永遠とも思われる時間、唇を重ね合わせた。

 やさしい夕陽とそよ風に抱かれながら……。


 Fin。


 To Be Continued

最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>

御愛読ありがとうございました。

†人形使いとゴーレムナイト† 〜 伝説の胎動 〜

本編最終話です。

次回エピローグ、番外編と続きます。

お楽しみに!

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