〜 伝説の胎動 〜 第十三話
†GATE13 人形使いとゴーレムナイト
アイナの魔法に吹っ飛ばされ地面を、のたうっていたゴーレムがゆっくりと巨体を起こし体を立て直し始めている。
「何とかなるって……こんな装飾品に何か強力な魔法でも仕込んですぅかぁ?」
アイナは、モニタに映し出される羅列する文字の意味が解らずシオンに尋ねた。
「違うそんな仕掛け知らねぇ! てか、ぼんやりしか思い出せねぇし……そうだ! 俺が倒れて場所の近くにARMSが墜落していなかったか?」
シオンは、アイナにあの夜の事を詳しく思い出すよう促した。
「あの夜……、げほっ……水面は穏やかでしたが湖に沈む何かを見たのですが……それも一瞬だったのでよくは解らんですぅ……でも、人の顔の様な物に触覚の様な角が生えた物と角張った肩の様な物が水面に消えた様に見えました……アイナはシオンがゴーレムなど魔法生物を造り出し操る事を得意とするソーサラーか何かだと思ったですぅ。……もしあれがゴーレムだったとしたらログの村を襲いに来たか、他のソーサラーのゴーレムに追われて来たのかどちらかと思って言わなかったのですぅ……げほっ、げほっ」
アイナが苦しそうに顔を歪めシオンに、あの夜に見た者を話した。
「悪い無理に喋らせちまって、大丈夫か? アイナ」
アイナが苦しそうに頷いた。
「お前達……村が襲われるかも知れない危険を冒してまで俺を助けてくれたのか……」
シオンは、アイナの瞳を見詰め視線を交えた。
「ARMSーAOー03H887 Hound」
「あーむず えおう? はうんど?」
アイナがシオンの発した聞きなれない言葉をたどたどしく反芻して言葉を続けた。
「あれはゴーレムじゃない。ARMSーAOー03H887 Hound。俺のいた世界の量産型戦闘人型決戦兵器さ」
「シオン? 記憶が戻ったのですかぁ?」
「いや、文字を読んだだけだ。それに思い出した事もある。全部じゃないけどな」
心配そうに覗き込んでいるアイナに、シオンは笑みで応えた。
シオン達の背後に迫ったゴーレムの影が三人を覆った。
陽が大分傾いているせいか、ゴーレムの身体から長く延びた影が、本来の距離を狂わせた。
「しまった! 何時の間に」
シオンが振り向くと距離はまだそれ程近くは無かった。
この距離ではゴーレムの攻撃は届かない。
巨体の割に素早い、このゴーレムは油断出来ないが……。
シオンの目がゴーレムの変化を捉えた。
隙間等見当たらなかったゴーレムの口がゆっくり開かれていく事を確認した。
「何か来る! 逃げるぞ」
シオンの声に二人が反応する。
ランスが素早く、よろめくアイナの肩を担ぎシオンのもう片方の肩口に肩を入れた。
その時ゴーレムの口に魔法陣が現れ光の線が放たれた。
放たれた光の線は、大地を溶かし三人の後ろに聳えていた山を吹き飛ばし光跡にはオレンジ色に輝く一本の線が残されていた。
「なんだありゃ! 力を溜めてたせいで動きが鈍くて助かった。あんなもんまで吐き出しやがるのか! あいつらからは逃げきれない。何れ追いつかれる……、戦ってゴーレムを破壊しあの女も倒すしかない」
ゴーレムの歩幅は大きい。
いくら走ってもその一歩で、あっという間に距離を縮められてしまう。
光に包まれたシルエットがエルフにも見える女は、シオンとの間合いを把握し安全な距離を保ちゴーレムを操っている。
「ここから、ラウル湖までの最短距離はどれ位だ! ランス」
「険しい森の道を抜ければ、馬の早駆で半時てところかな」
「俺は、Houndを取りに行く……お前達は逃げろ。いいな」
「出来ないよ……姉ぇさんを傷めつけられた。それにログの村までは、それ程遠くないからね」
「母様やログの村には手を出させんですぅ」
「馬鹿野郎が……俺が戻るまで……それまであいつらを抑えていたくれ……」
「……わかったよ。何とかやってみる。死にそうになったら逃げるよ」
ランスが苦笑いで答えた。
「すまない……無理を言う……、必ず……必ず戻る。それまで死ぬな。絶対に」
「しゃ――ねぇなぁですぅ。アイナの魔法の威力思う存分喰らわせてお腹ぱんぱんの満腹にしてやるですぅよ……だから、シオンは危険だと思ったら引き返して来てはだめですぅよ」
「ふらふらのくせに強がってんじゃねぇよ」
「シオン? 馬乗れるの?」
「わかんねぇ……見よう見まねでやってみる」
「はぁ――」
アイナは、かわいらしい溜息を吐く。
ランスがアイナに掛けていた肩を抜きゴーレムの方に翻った。
「じゃ、僕が足止めするから」
ランスが魔法の詠唱に入り呪文を放った。
「大地を司る地の精霊よ 汝の友は訴える 我との契約を行使せよ 汝、地の底より出でて炎と化し 我が盾となり槍と化せ」
ゴーレムの足場に亀裂が走り裂けた地面から炎の柱が複数起ち上がった。
ゴーレムは、裂け目に足を取られ巨体を傾けながら火柱に包まれる。
暫くシオンの背中に背負われていたアイナがシオンの背中を降りその場に座り込み、ゴーレムに向き直り呪文を詠唱し始めた。
「大丈夫か?」
詠唱に集中し始めたアイナは、小さく頷いて答える。
(シオンの後は追わせんですぅ……絶対に! 逃げてシオン……生きて……)
「大気に潜む水と風の精霊よ 汝の友は訴える 我との契約を行使せよ 汝、氷の枷となり仇なすものの動きを封じよ」
辺りの大気が一気に乾燥していくと無数の鋭い氷の槍が空気を切り裂きゴーレムに向かった。
ランスの魔法に足を取られ火だるまのゴーレムにアイナの氷の槍が次々と襲い炎と交わり水蒸気を上げた。
「地の精霊よ 古の盟約により 礫と化し 我に仇なすものを穿て」
すかさずランスが次の魔法詠唱に入り呪文を完成させた。
地面から大小様々な石の塊が浮かび上がり風切り音を残してゴーレムに向かい激しい衝突音が辺りに響く。
ランスの魔法で鋼鉄のゴーレムも炎に熱せられアイナの魔法で急激に冷やされた所に石の礫を喰らい表面は無残に変形している。
それでも、致命的なダメージを与えたとは思えない。
ゴーレムは、巨体を立て直し二人に向かって巨大な拳を振り上げ向かってくる。
ゴーレムを操っている女は動じた風もなく戦局を見守っていた。
シオンがこの場を離れどれ位経つのだろうか、慣れない戦闘を双子の息の合った攻撃で何とか様になる戦いを続けていたが、ついにその時を迎える。
魔力が尽きたのだ。
「はぁはぁはぁ……アイナ……大丈夫?」
「ふぅふぅふぅ……もう魔力が空っ穴ですぅ」
「やっぱり、式紙をなんとかしないと駄目だ……、シオン……無事に逃げられてるといいね」
「ですぅ……きっと無事に逃げてると思うですぅ」
「だよね」
二人はそう言って微笑んだ。
「……あのばかちん! 吐くならもっとましな嘘を吐けばいいのにですぅ……まったく!」
アイナは何処となく嬉しそうに言った。
パチパチパチ、手を打つ音が二人の鼓膜を刺激した。
「我のゴーレムとよくぞここまで戦った。誉めてやろう。愚かな人間よ。だが、終いにしようか? この下らない戦いを」
二人の頭上にゴーレムの巨大な拳が振り上げた。
「きゃぁ――、シオン助けてですぅ」
「もうだめだ」
ゴーレムの拳がゆっくりと動き出した。
二人が振り下ろされたゴーレムの拳を見て身を竦めた時、何処からか甲高い風を切る音とも違った鳴き声の様な物が聞こえたと思うと頭上を影が飛び抜け、すさまじい疾風を伴い耳を劈く甲高い音だけを残し通り過ぎた。
振り下ろされたはずのゴーレムの腕は巨体ごと、その疾風に持っていかれていた。
「なんだ? なにが起こった……あれはゴーレムなのかな? ……あのゴーレム空も飛べるのか」
白金色髪の美しい女性が淡々と言葉を口にした。
「なんですぅ? あのヘンなゴーレムは……ヘン? もしかしてシオンのゴーレム?」
人を模したと思われる顔を持ち細長い角が一本耳の辺りから生えている。
その身体は角張った部分が多く関節の繋ぎ目には隙間も見える。
「まった――くぅ、センスの欠片もねぇ――ゴーレムですぅ。ヘンな鳴き声で鳴きやがってうるさくてしゃぁねぇですぅねぇ! シオンのセンスを疑うですぅ」
アイナが悪態を吐くが、その顔は何故か嬉しそうに微笑んで見えた。
「まったく……だよね」
ランスもアイナを見て笑みを零した。
そのゴーレムが二人の傍にゆっくりと着地し膝まづいた。
「聞こえてんぞ! アイナ」
「げぇ! シオン……地獄耳……」
ゴーレムの胸部が上下に開きたと思ったら中にはシオンがいた。
「待たせたな。ちゃっちゃとけりを付けますか」
シオンが何やら棒の様な物を動かすと二人のすぐ傍にシオンの乗るゴーレムの手の平が差し出された。
二人に手の平に乗る様にシオンが促し二人は手の平に乗った。
開いた胸の辺りで手の平が停止するとシオンの銀髪が瞳に飛び込んだ。
「早く乗れ」
シオンが二人にコックピットに乗る様に促した。
「これがシオンが言ってた あーむず、はうんど、て言うゴーレムですぅかぁ?」
「凄い! 何だか見た事もないガラクタでごちゃごちゃしてる」
ランスが素直な感想を述べた。
「こいつは、ARMSーAOー04H696 Watchdog」
「ウォッチドックだハウンドの複座の偵察型、派生機だが基本の主兵装には違いない。お! へヴィーな武装が換装されてるラッキー。二人とも後ろの複座席に行ってくれ」
シオンの脇を通り抜けランスは素早く複座に着いたが、アイナは操縦桿にスカートを引っ掛けもたもたしているとシオンに押された。
「きゃっ! 何処触ってやがるですかぁ!」
「早くケツどけろ。アイナ、もっと押すぞ!」
「きゃっ! シオンのおばか! 指がお尻に……シオンのおばかぁ!」
開かれたハッチの外に吹き飛ばしたゴーレム身を起こしているのが見えた。
その際、対装甲刀で切り落とした腕が見え、中身が空洞である事が見て取れた。
「これならいける。鉄の塊だったらどうしようかと思ったぜ」
「どうしてですぅ? きゃっ」
「アイナ、しゃべるとした噛むぞ! 一気にけりを着ける。オールウェポンズフリー。これより一斉射に入る」
胸部のハッチが閉ざされ外の様子が前方、左右、三方のモニタに映し出された。
モニタの画面を丸い黄色の丸いゲージが二つ、ちょろちょろ回りながら動きゴーレムを追う、ゴーレムを一点に捉えるとゲージが重なり赤い色に変わり、モニタにロックオンと表示された。
シオンは、ロックオンモニタに映し出された照準器が重なるのを見てトリガーを引き、全ての火器を発射した。
間の短い連射音とシャンパンの栓が抜ける様な音が連続して轟音を立てた。
AAー20mmバルカン、MG10ー100mmマシンガンの銃身は真っ赤に焼けている。 MS−ー20ミサイルがゴーレムの表面を貫通し炸裂と共に砕いていく。
弾丸を一点に集められ鉄のゴーレムの腹に風穴が空き広がった。
やがて発射音が止み、カラカラという音だけが残った。
腹に穿った穴に止めとばかりに予備装備に、たまたま換装していたMSー50対艦、対要塞攻略 大型ミサイル発射管×4器から大型ミサイルをぶち込み、ゴーレムの半身は粉々に吹き飛んだ。
「へヴィーだぜ!」
「すげぇ――ですぅ」
「すごい……」
これで終わったと思っているとゴーレムの身体が再生を始めた。
「なっ! ばかな。こつちはもう、弾切れだっうの」
「式紙が生きてるんだ。やっぱり式紙を全部剥がさないと駄目だ」
「切り続けても式紙を何とかしなきゃ何度でも再生するって事か」
「うん、そうだね。幾つ貼られてるか分からないし、そもそもそれすらあるのか疑わしくなってきたよ」
ランスがシオンに気づいた事を告げた
シオンが難しい顔をして二人に告げる。
「後は俺がやる。お前らはこいつから降りて、安全な場所で待っててくれ」
シオンは二人を降ろしハッチを閉じた。
シオンは、床のペダルを踏み込みバーニアを吹かし機体を上昇させゴーレムに向かった。
To Be Continued
最後までお読み下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回 〜 伝説の胎動 〜 gate−14(最終話)です。お楽しみに!