〜 伝説の胎動 〜 第十二話
†GATE12 覚醒
「精霊が騒いでる」
ランスが唐突に呟いた。
「なに言ってんだ? ランス」
「今し方合流したシオンは、ランスの言葉に耳を澄ましてみるが何も変わった様子はない。
聞こえて来るのは、時折鳴く鳥達の囀りだけだった。
突如、鳥達の囀り地鳴きに変り、一斉に天高く飛び立ち始めた。
同時に、先程まで眠る様に静かで穏やかな空気の中を切り裂く様な鋭い振動が響いた。
大地を揺るがす地響きと共に二人の後方で猛々しい轟音が響き渡る。
「な、なんだ?」
二人が轟音のする方に振り向くと巨大な人型の化け物の姿が目に飛び込んだ。
「なんだ、あれ? でけぇ……」
「ゴ、ゴーレムだよ! あんなに大きなゴーレムを創り出せる魔法の使い手がいるなんて信じられない」
ランスは恐怖より驚きが勝った。
突如、現れた時を経た巨木程を優に越える巨大なゴーレムは、騎士が鎧を纏っている様にも見える。
「アイナ――! 何処に居るんだ――」
シオンは叫びアイナの姿を探した。
ランスがシオンの声で我に帰る。
「アイナ――! 何処にいるの――」
大声でランスがアイナを呼んだ。
二人は辺りを見渡した。
シオンの目に天高く飛ばされ紙切れの様に宙うアイナの姿が映った。
「いた! あそこだ」
シオンが叫び指差した。
シオンの声でランスもアイナの姿を見付け魔法の詠唱に入る。
「流れを司る風の精霊よ 汝、我を纏い運べ」
シオンの中にオークと一戦交えた時の感覚が甦りつつある中、アイナの方に向かい飛び出し駆け出した。
ランスが魔法を完成させると先に飛び出していたシオンの肩口を掴みアイナが落下している地点に向って飛翔した。
このままでは落下し地面に叩き付けられる。
アイナの落下地点へと風の魔法に乗り向うが、このままでは間に合わない。
余りにも距離が離れ過ぎていた。
“数多の戦闘”の経験が無意識のシオンに教えてくれる。
「くそ、間に合わねぇ」
シオンは歯噛みし唇を噛んだ。
「ランス、魔法で何とかならねぇのかぁ」
「無理だ! 僕は今、魔法の行使中だよ。僕の今の詠唱も無しに魔法の上乗せは無理なんだ。魔力の調整で上乗せは出来ても、今の僕じゃ魔力が足りない。くそ! 姉ぇ……アイナ――!」
何時も温厚なランスが強い口調で苦々しく言った。
同時に異なる性質の同じ系統の魔法を組み合わせ性質の違う魔法を足した詠唱をし威力や範囲を変える事は出来るのだが、一つの魔法の行使中、同系統の魔法であったとしても如何なる場合でも新たに呪文を唱える事など、どんなに優れた使い手でも出来ない。
例え、それが人間より魔法と魔力に優れるエルフであってもだ。
理と法則の中で用いる魔法は万能ではない。
「シオンが魔法を使えれば、この距離なら届くのに」
ランスは苦虫を噛み潰した。
「シオン。きみの力を貸してくれ、このままでは、姉さんが……アイナが……シオン!」
シオンの中に眠っているかも知れない底の知れない“ちから”に賭ける。
「どうすれば……いいか分かんねぇ。魔法なんて知らねぇし分かんねぇよ……」
「シオン、精神を感覚を研ぎ澄まして感じるんだ。魔法じゃなくてもいい。きみの身体能力が目覚めれば届くかも知れないんだ」
「分かったやってみる」
シオンは、精神を感覚を研ぎ澄ます。
シオンの中に“眠れるちから”がのた打ち始める。
しかし、それを具現化する事が出来ない。
(俺は、無力だ……ごめん……アイナ、ランス)
シオンの脳裏に、ほんの少しの時間だけだったアイナと過ごした日々の記憶が駆け巡った。
自分をランスと共に助けてくれたアイナ、怖がりで人見知りのアイナ。好奇心旺盛のアイナ。口は悪いが憎めないアイナ。怒っている時のアイナ。拗ねる顔が愛らしいアイナ。本当は優しくて素直なアイナ。
そして……無邪気に笑うアイナの笑顔。
「ぜったいに助ける。あいつを死なせない」
シオンの“眠れるちから”が一気に爆発し蘇る。
シオンは、全身の力を膝に集約しランスを土台にし究極まで絞られた弓から矢が放たれたかの様に弾け跳躍した。
――その時、空気を切り裂きシオンは風になった。
シオンの身体がアイナの落下点に滑り込んだ。
間一髪、アイナの身体を抱きしめる事に成功する。
アイナの細い身体が地面に強く叩き付けられる事はなかった。
シオンは、アイナを強く抱き抱え、決して地面にアイナの身体が触れぬ様に地面を滑走する。
ランスが気を失っているアイナに駆け寄った。
アイナの透き通る様な肌に血が滲み、形の良いかわいらしい口元からは吐血も見られた。
両手両足も在らぬ方向に向きを変えていて意識を失ってはいるが、弱々しい息はある。
ランスが慌ててアイナの胸に耳を着けるが鼓動は徐々に弱っていく様に思えた。
「ゆるさねぇ」
シオンは怒りに震えた。
「不味い。このままでは駄目だ。早く治癒しないと」
ランスに焦りは加速していく。
「……なら、直ぐに始めろ! ランス」
シオンは強い口調で言い放った。
「近くにゴーレムがいる。ここでは無理だ」
ここで治癒の魔法に集中の魔法に集中すればゴーレムに注意を払えず、治癒中に襲われでもすれば成す術はない。
「いいから早く、俺に任せろ」
シオンがランスを促した。
「……わかった」
ランスが頷き治癒の呪文を詠唱し始める。
「生を司る水と大地の精霊よ 我との契約を果たせ 汝 彼者の息吹に干渉せよ」
魔法の光がアイナを包み込んだ。
人間如きを相手に慌てなる事等ない光に包まれた人物が、シオン達に迫り言葉を放った。「我のゴーレムの一撃を喰らい命を拾うとは運の良い人間よ。否、何かの血を引いているのか? だが、貴様らの運命は寸分変わらぬ。愚かな人間どもよ」
「シオン! ゴーレムには操る為の式紙が身体の何処かに所貼ってあるはずだ。その紙に書かれている『emrth』(真理)の文字を剥す或いは『e』を塗潰すか、切り取ると『mrth』(死)の意味に変わり動けなくなるんだ」
「紙、紙だな。分った探し出して? 剥がしてやる」
人を軽く凌駕する素早さでゴーレムの周囲を回り式紙を探した。
「紙、紙、紙……髪、髪……加味、神……紙なんて何所にもねぇ」
「人間如きが創り出す人形と同じにするな。そうそう簡単に見つかる場所にわざわざ弱点を曝していると思うのか。愚かな人間よ」
「紙がねぇ――神様――紙の場所教えてください――」
暫くゴーレムの攻撃をかわしながランスの言葉を信じて駆け回るが巨体の割にゴーレムの動きは素早い。
「くそっ! 紙ねぇ! 神はいねぇ……仕方ねぇか」
シオンはゴーレムの拳をかわすと逃げるのを止めゴーレムに対峙し剣を抜いた。
「我の魔法で創り出したゴーレムに人間如きひ弱な生き物が適うと思うか、ご愚かな人間よ」
シオンがどの様な方法で戦うか分からない、ここで始めれば巻き込まれる。
治癒の魔法の継続中に、この場を離れるにしても瞬時に遠くまで離れる手段は無い。
「シオンが任せろと言った。僕は信じる」
ランスは、シオンに任すと決めアイナの治癒に全力で魔力を使い出した。
ランスの魔法が放つ光の硬膜がアイナを包み込んだ。
シオンは正面から間合いを計りゴーレムの巨体に切り込んだ。
“キィィ――ン”と甲高い金属が激しく接触する音が響き渡った。
「やっぱ、切れねえな……それでも、これっきゃねえぇ」
シオンが素早さを生かしゴーレムに刃を当てるが、傷一つ付ける事が出来ない。
ランスから貰った剣の刀身は所々、刃こぼれが目立ってきている。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……駄目か……しかし、あきらめる訳いはいかねぇんだよ……あいつが居るんだからよ」
シオンは、ゴーレムの身体のを駆け上り力の限り切り込んだ。
渾身の一撃がゴーレムの眼球に僅かに届かず首筋を薙いだ。
――キィィ――ン
これまでの斬激音よりも甲高い金属音が響いた。
青い空に銀色に輝く光が舞い上がった。
「ちぇ! やっぱり切れねぇか……剣が折れちまったぜ」
首筋に纏わりついているシオンをゴーレムが払い落とした。
地面に激しく叩き付けられ伏しているシオンを見下ろしゴーレムを創り出した主が覗き込んだ。
「人間よ。何故? そこまでして敵わぬ敵に向う。命が惜しくないのか?」
透通る様な金髪を揺らし女性の様な声で主が尋ねた。
「知らねぇーよ。俺が聞きたいくらいだ。あいつを傷つけたお前を俺は許さない」
シオンの身体に傷も目立ち始め、至る所から血が流れ出ている。
「貴様は、なかなかに強い。我のゴーレムにこれ程立ち向かうとは……人間よ」
「はぁ、はぁ、はぁ、げほっ……」
シオンの息が上がっている。
「久しくない暇つぶしであったが……そろそろ終りにしよう。人間よ。我は眠りたい」
その言葉に反応したゴーレムが巨大な拳を振り上げた。
「悪いな、アイナ守れそうにねぇや……畜生――!」
ゴーレムが巨大な拳を振り下そうとした、その時。
「破壊を司る火の精霊よ 我との契約を行使せよ 汝、我の力と成し 仇なすものを焼き払え」
――ああ、何だか身体が熱い。景色も赤く見える……この感じ似てるな……。
一瞬、静まり返った空気の中、地鳴りが響き渡った。
巨大なゴーレムが炎の包まれ吹っ飛び飛ばされた。
「この炎は……アイナの魔法……」
シオンが治癒を受けているはずのアイナの方に眼をやった。
アイナが上半身を捻りゴーレムに向けて魔法を放った様だった。
治癒の途中のぼろぼろの身体を地面に這いつくばる様にしてシオンを見ていた。
「シ……オン。 式、紙は……ゴーレム……体内ですぅ――たぶん……内側……に」
「アイナもういい。喋るな」
「げほっげほ……何らか……方法で埋、め込んだ……描いた、かですぅ……」
「姉ぇさん。無理しないでよね。まだ治癒中だと言うのに……魔法の行使なんて、死んじゃうよ……本当に」
「正解だ。小娘」
「でもどうやって……やるってんだ」
「ゴーレムの体内に入り込むか、外から破壊するかしかない」
ランスがアイナの身を支えながらシオンに向かい叫んだ。
「なるほどな! ……て! 戦っている途中入口の様なもんは無かったぞ?」
「僕も戦うよ」
ランスがアイナを支えながらシオンに近づいた。
「無理すんな! お前達だって魔力使い果たしてんだろ? アイナは……頼むから休んでてくれ」
アイナがランスの支えを外しよろよろとシオンの下に向かった。
「ばかぁ! ふらふらしてんじゃねぇか! そんな身体で強力な魔法使いやがって……この馬鹿野郎が」
シオンは、らふら歩いてくるアイナに両手を差し述べた。
「あのま……まじゃ、シオ、ンが殺さ……れてた、ですぅ」
アイナの両腕がシオンの手首を掴んだ。
「……ありがとな。でもアイナはランスと一緒に休んでいてくれ頼む」
シオンは礼の言葉を述べ、もたれ掛かるアイナの身をランスに託した。
アイナに握られていた手がシオンの手首から離れた瞬間、シオンが着けている手首のブレスレットに光が宿った。
「何だ? 文字か……」
ブレスレットにあしらわれていた宝石の様なものから、半透明の薄い色が付いた四角い板状の物が空間に立ち上がり文字を浮き出させている。
ARMSーAOー03H887
Hound
全高:20.4m 重量:72t
標準武装:AAー20mmバルカン×1
MG10ー100mmマシンガン
対装甲刀
ロケットアンカー×2
追加武装:対ARMS、対空 ミサイル×6
グレネードランチャー
換装武装:BK30ーバズ−カ−砲
MSー20ミサイルポッド
MSー50対艦、対要塞攻略 大型ミサイル発射管×4
RA20ー120mmアサルトライフル
RL21ー125mmスナイパ−ライフル
GM117ー88mmガトリングガン×6バレル
「これ……何ですかぁ? シオン」
アイナが不思議そうな顔をして空間に浮か半透明の板、モニタに浮かぶ文字を見ていた。
「これは……思い出した。あのゴーレムを何とか出来るかも知れない」
To Be Continued
最後までお読み下さいまして誠にありがとうございます。<(_ _)>
次回をお楽しみに!
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