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〜 伝説の胎動  〜 第十一話

 †GATE11 眼を覚ます者


 何時もと変わらぬ静かなログの村に夜が訪れる頃、その夜の静けさは裂かれ様としていた。 剣の柄を握った二人がシオン達に剣を振り下ろそうとした時『ナタア−リアさんと二人は俺が守る』そう思った瞬間、シオン自身気付かぬ内に無意識に身体が反応していた。

「お待ちなさい」

 騒ぎになる寸前の張りつめた静けさの中にナタアーリアの声が響いた。

 アイナに突き飛ばされ無造作に持っていた剣をシオンが落としていた為、ダルベスとスクナ・メラの両者は、シオンに切られる事はなかった。 

 対峙した時、剣を抜き払いシオンに向って行った二人の剣士に無意識に反応したシオンは、刃をかわし当て身の体制に入っていた。

 ナタアーリアの声に反応してシオンの肘は男の顎前でぴたりと止まった。 シオンの中に眠る力は、やはり危機的状況で片鱗を見せる様だ。 

 一騒ぎの後、一同は外のテーブルで食事を始めていた。

 家の中にあるテーブルではこの人数は厳しい。

 ナタアーリアがダルベス、ベリル、スクナ・メラを古い友人と紹介した。

 ランスとアイナを紹介するとシオンをアイナの想い人(許嫁)だと紹介した。

 その方がシオン自身の事柄について何かと聞かれないだろうと思っての事だが、アイナは全力で否定した上に自分の下僕だと言い放った。

 晴れて、お互いの勘違いであっての事だと解ったところでベリルが口を開いた。

「すいません。お子様はお二人と聞いていましたし、一人が帯剣しておりましたもので、てっきり賊かと、何とぞ先程の御無礼をお許し頂きたい」

 べリルが深々と頭を下げた。

「私もだ。とんだ勘違いでした。すみません」

 スクナ・メラも謝罪の言葉を述べた。 

 三人は物取りの子供達と思ったらしい。


 しかし……と、ダルベスとスクナ・メラは思う。

 銀髪の少年の反応速度と身体の動き……只者じゃない。

 鍛錬絶やさず今日まで剣を振ってきた聖騎士の自分達が、こんな十半ばに見える少年に、あっさり剣をかわされ、しかもその拳は顔前で止まった。

 自分達は、かわすどころか反応すら出来なかったのだ『何者なんだ。この少年は』そんな疑問は湧くが姫殿下が言わぬ以上、詮索しても仕方がない。

 老人の方はシオンに二人と同じ思いの他に、もう一つ気になる事があった。 

 ランスとアイナの左右色の違う瞳、オッドアイとその瞳の奥に秘められた輝きにも見える魔力。

 姫殿下の美しい宝石の様な緑の瞳に似ている片目と、もう一方のこれまた美しい赤い瞳。

 伊達に長生きしてないダルベスには思いあたる節がある様だった。

 そんな中、例の如く怖がり人見知り毒舌天然娘のアイナが、思いのままを言葉に乗せ言い放った。

「お、お前達なんぞ知らんですぅ。アイナ家の夕食に集たりやがってですぅ」

「知らないのは当然ですよ。アイナもランスも、まだ産まれていなかったのだから」

 ナタアーリアが、毒吐くアイナに微笑み掛ける。 

 客に暴言を吐く。

 そんなアイナを叱るどころか微笑んで嬉しそうに見守るナタアーリアの目は、どこまでも幸せそうでやさしい笑顔だった。 

 王宮にいる頃から、ナタアーリアの事を良く知るダルベスは思う。

 こんな姫殿下を見るのはご幼少の頃、以来だ。よく笑いよくしゃべる活発な姫様だった。 公務が増えるに連れ失われて行った本当の笑顔。

「皆はさん、宿を求めてログにお寄りになられたのですか?」

 ランスがダルベス一行に尋ねる。 その問いにダルベスが答えた。

「おほん……実はですな、兼ねがねラウル湖の辺りは美しいと聞き及んでおりまして、その様な静かな所に住みたいと思っておりました。この辺りに住み良い場所を探しておりまして、旅のついでにとラウル湖を望めるこの村に立ち寄った所、ひめ……、うっ、うん、ナタアーリア殿に偶然お逢いましてな。しかし、この村から見えるラウルは実に美しい。静かで良い村でいたく気に入り、ここに住もうと思っております」

「そうですか。なら明日、僕が村長にお取り次ぎしましょうか?」

「それはありがたい。そうして頂けると助かります」

「今夜は、家でよければお泊め致しますがと言っても納屋しか空いてないのですが……この村には宿はないので。それに先客がおりまして部屋を提供しております。御覧の様に小さな家ですから……すいません」

「それで構いません」

「スクナさんは、僕の部屋をお使いください」

 シオンが怪我で寝ていたランスの部屋はランスが使っている。

 ランスはいいと言ったがシオンが返したのだ。

「明日、どうすんだよ」

 小声でシオンがランスに呟いた。

「アイナと行けばいいじゃない」

「あいつと二人でか?」

「いいじゃん。恋人(許嫁)なんだから」

 ランスは、にやにや笑いながらシオンをからかった。

「馬鹿いえ、心配とかしないのか?」

「アイナに何かするの? 例えば……」

 にやにや笑みを浮かべランスがにんまり笑みを浮かべた。

「誰がするかよ! ばかもの」

「じゃぁ、何の心配するの? 他の心配って何?」

「だから、ちょっとは心配しろよ。俺の命」

「あっ! そっちね」

 何やら二人でこそこそ話すのを見てダルベスが尋ねた。

「御用がおありでしたら、我らの事は、お気になさらずに」

「いえ、僕は構いませんよ。アイナとシオンは出掛けますが」

 そんな会話がアイナにも聞こえていた。


 シオンと二人で出掛ける? アイナが? 心臓の鼓動は早まり飛び出しそうな勢いで脈を打ちだす。

 何故かドキドキする。

 自分でも顔が熱くなり赤くなるのを感じる。

 母がシオンを紹介したときの言葉が甦た。

「この少年はアイナの恋人(許嫁)でシオンと申します」

 勿論恋人なんかじゃない。

「これってデート? 初デート? ……ですぅ……」 

 でも、ちょっぴり嬉しかった。


 逢い引き(デート)でもなんでもない。

 シオン記憶奪還作戦なのだ。

 流石は天然娘、以前にも二人で出掛けている事等、すっかり忘れ一人舞い上がっていた。 


 アイナは、母の言葉が頭に強く残り余計に意識的になっていた。

 何着ていこうかな? お弁当は何にしょう? なんて考えてしまうのである。

 いろいろ考えていると、一糸纏わぬ格好や胸と下半身を僅かに覆うだけの布を着けているだけの女性が描かれていたあの絵画の本(エロ本)を思い出した。 

 どうしよう……まだアイナには早過ぎるですぅ。

 まだ『アイナが好きだ』なんてシオンは言ってくれてないのですぅよと思い、はたと我に帰る。

 絶妙のタイミングでシオンがアイナに話し掛けた。

「明日は、二人で出掛ける事になったぞ」

 シオンがと漂々とした口調で言った。

 自分だけ舞い上がっていた分、シオンの態度が余計に気に障る。

 そこにシオンが自ら油を注いだ。

「どうした。顔、真っ赤だぞ」

 次の瞬間、シオンの脇腹にフルスイングのレバブローが炸裂しシオンは、そのまま夢の世界に旅立った。


 シオンが目を覚ますとアイナが不機嫌そうに立っていた。

「いつまで、寝てやがるですぅか! さっさと出掛けますぅよ」

「痛っ」

 脇腹が痛む……昨夜の事を思い出した。

「誰が、俺を眠りの世界に誘ったと思ってるんだよ」

「し、知らんですぅ」

「お前なぁ」

「ただいま。母様……て、あれ? シオン達まだいたの?」

 ランスが村長の所に昨夜の三人を引き合わせ帰ってきた。

「もう、とっくに出掛けたと思ってたのに……じゃあ、僕も行くよ」

「こいつが、なかなか起きんからですぅ」

「ご機嫌斜めだね」

 先程までは、あの本とシオンの寝ぼうが原因で不機嫌だったが、ランスも行くと聞いて別の意味で不機嫌なのだ。 

 そんなアイナを見越してランスが言った。

「邪魔なら僕は、行かないけど、明日街に向う準備しといてあげるよ。アイナの分」

 ランスは昨夜準備済ましたが、アイナはまだ済ませていない。

「いいですぅよ。アイナが後でやりますぅ」

「アイナは残って準備しといた方がいいよ」

 ちょっと意地の悪をランスが言った。

「い、いきますぅよ。ランスは治癒苦手ですし、このやろうが怪我したら治すのに困りますぅ」

 慌てた様子でアイナが言った。 

 何処か残念そうなアイナだった。


 三人が山の麓に着いたのは正午前の頃だった。

「遅くなったから直ぐに始めよう」

 ランスが言うとアイナが持ってきた弁当を広げ始めた。

「お腹すいたですぅ。ご飯の後にしましょうですぅ」

 無邪気に微笑んだ。 

 マイペースなアイナだが、そんなアイナの屈託の無い笑顔は眩しく、かわいい。

 その笑顔を見ているシオンは、胸の中に電流が走った様な感覚を感じたのだった。

 昼食を終えるとシオン記憶奪還及び、魔法の特訓が始まる。

 ランスが一緒に来たので、アイナの出る幕はない。

 昨日の事でシオンとランスに『見学していろ』と言われていた。

 シオンもいきなりあの様な魔法を繰り出されてはたまらない。

 結果的に、それがシオンの中に眠る記憶と潜在力を引き出している事になっているのだが、憶測はしていても本気でその事には誰も気付いてなかった。

 初めの内は、大人しくシオンとランスの決闘ごっこを暫らくぼんやりしていたアイナだが、その内に退屈になってくる。

 自分だけ蚊帳の外では面白くないのは、当たり前だ。

 退屈凌ぎに辺りを見渡すと山の林の陰に、ぽっかり洞窟が口を空けている事に気が付く。「お宝探検にしゅっぱぁつですぅ」

 怖がりのアイナだが、好奇心が勝ったのかアイナは洞窟に向かい歩き出した。 

 洞窟の前に着くと魔物が住むと言われている事を思い出し急に怖くなってきた。

 流石にアイナも先程の好奇心より怖さが勝りだしその比重が逆転しシオン達の所に帰ろうとした。

 元来た道を歩き出すと洞窟の中からなに男とも女とも区別がつかない声が聞こえる。

「何者だ。我の眠りを妨げる愚か者は」

 洞窟の暗闇からくぐもった声が聞こえる。

「ひぃ――」

 アイナは驚き振り返ると、そこには――。

 

 シオンとランスが休憩を取ろうとアイナの居る筈の場所を見たるとアイナの姿が見当たらない。

「何処に行ったんだ。あいつは」

 呆れた風にシオンが言った。

「アイナ――」

 ランスが声を張り上げたが返事が無い。

「仕方ない奴だなぁ、ここ危険な場所なんだろ?」

 シオンも魔物が住む山だと聞いている。

「うん、魔物や竜の眷属の事は唯の言い伝えだと思うけど、そんなの誰も見た事ないしでも現存の竜は住んでるかもね」

「探すぞ」

 二人は、それぞれ分かれてアイナを探し始めた。 


 恐怖がアイナは身体を強張らせた。

「貴様か、我の眠りを妨げる愚か者は、昨日より精霊どもの振動が煩くて眠れやしない」   アイナは、その声を聞き唯の噂話が脳裏をかすめた。

 人の声が聞こえ洞窟の中に光を纏う、すらりとした身体と美しい金色の髪がやわらかい光に包まれながら美しい女性がアイナの方に歩みを寄せた。

 見た事も聞いた事もない綺麗で可愛い妖精の様な人影が見える。

 その美しさがアイナの好奇心に火を点け、ふつふつと恐怖感を和らげていく。

 アイナも年頃の娘。

 綺麗なものに興味と持つ事は至極当然の本能だ。

「綺麗ですぅ」

 アイナは、呆けた様に妖精の姿に見取れていた。

 妖精がアイナに近づく――。

「愚かな人間は……死になさい」

 冷たい声と同時に、回りの地面が盛り上がり巨大なゴーレムが現れ、その大きな掌でアイナを弾き飛ばした。 

 アイナの細い身体は、天高く弾き飛ばされ木葉の様に宙に舞った。


 To Be Continued

最後までお読み下さりまして誠にありがとうございいました。<(_ _)>

次回をお楽しみに!

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