1万と2000年待った恋
しっとりとほんのりと暖かい物語です。
彼と出会ったのは、深き森と呼ばれる場所だ。彼の話では、夢見の森と今は呼ばれているらしい。
あの時の私は、孤独だった。触れることができない花と言われて、母以外は私を抱きしめてくれなかった。そして、年齢を重ねれば……母は私を抱きしめてくれることはなくなった。
とても、寂しかった。誰か私の孤独を埋めてほしかった。でも、神殿に祭られる巫女の務めを果たしつづけた。
そんなある日、私に興味を持った王がいた。すでに子どももいたらしい、結果的に妻の怒りを買った。
私は何もしていない。すでに相手がいる人を奪う気なんてない。もし、自分がやられたら、とても悲しいと思う。
だから、私は拒み続けた。拒んで……受け入れなかった。その結果、王の妻の怒りを悪化させた。
さらに、自分たちの地位を確立するために大人たちは私を利用した。王を惑わす魔女として、深き森にある湖の近くに建てられた祭壇に閉じ込められた。
そして、呪いをかけられて、ドラゴンに帰られてしまった。誰が見ても凶暴な姿、形にされてしまった。
こうして、とても寂しい毎日が始まった。多少、自由は得たので最初は良かった。でも、2年、3年と過ぎていくごとに、誰かと触れ合いたい気持ちが強くなっていった。
そんなある日、私を殺そうとする人たちがやってきた。私は背を向けて逃げ出した。彼らの眼は欲望に満ちたものだった。とても、不快で怖かった。
踏みつぶせば簡単に殺せたのかもしれないけれど、それが引き金で次から次へと私を殺しに来る人が来ると思うと、誰も殺せなかった。一方的にやられるだけだ。
助けてと声を発しても、それは咆哮とかわり、相手に伝わらない。とても痛くて、辛い。
涙を流しながら耐え続けた。幸いにもドラゴンの体と私自身の力のおかげで死ぬことはなかった。
それは……終わらぬ地獄が続くことでもある。もう嫌だと思って、何度も死のうと思った。それなのに、私は死ぬのが怖くて、寂しくてできなかった。ただ耐えて、100年ぐらい経過したら誰も来なくなったきがする。
おそらく、時間で死んだのだと思う。その時、私は誰も殺さなくてよかったと思った。いろいろな因果を引きずらずに済んだからだ。殺したのは、時間。私の時間の前には無力だった。
それから、200年ぐらいに2回ぐらい私を殺そうとくる人が来た。でも、すべて耐えて、時間に殺してもらった。
それ以外は、森の中で孤独な日々を過ごす日が続く。森の動物とかは私を警戒して近づかない。
誰も私に近寄らなかった。来ても、私を殺そうとする人達だ。そんなこんなで、5000年ぐらいたっていた。
終わることがない寂しい日が続く中、ある日のことだ。赤い目をした人がやってきた。赤い目をした人は、私を殺しに雇われた人だった。
その力は圧倒的で、私の命を刈り取るだけの力を持っていた。
自由になれると思った。だけど、赤い目の人は私に止めを刺さずに、剣を雇い主に向けた。
そして、1つの首飾りをくれた。
「願いを叶え続けるんだ。いつか、いつか……一緒にいてくれる人がいるはずだから」
赤い人は、私の呪いを解く力と話す力をくれた。私は話す力を使って、くれた理由を尋ねた。
赤い目の人は、空を見上げながら。こう答えた。
「悲しみを感じたから……ただ、それだけ……」
「ありがとう」
その時、私は少しだけ救われたきがする。もし、赤い目の人に出会わなければ、彼と出会うこともできなかったと思う。
今でも、感謝しきれない恩がある。もう、この世界にいないかもしれないが、出会えたらお礼を言いたいと思うほどの人だった。
ともあれ、この2つの力でのおかげで生活は変わった。まず、大きな変化は私を殺そうとする人がいなくなったことである。
代わりに、100年ぐらいに1度だけ、願いを叶うかを調べに来る人がやってくるようになった。その理由は、呪いを解く力と関係がある。
私の呪いは、とても強大な力でほどこされたものである。だから、代償が支払わなければいけない。
その代償は、その人が持つ可能性である。その人が持つ大きな夢と希望である可能性を犠牲にしなければいけないのだ。そう、私を求めてくる人は、その可能性を見るためにやってくるのだ。
人は可能性があれば、頑張れるのだ。例え、夢を叶えられなくても、生きる糧を得て別の幸せを見つけたと笑顔を見せるのだ。
私は、誰かを幸せを奪ってまで呪いを解こうと思わなかった。自分で自分を苦しめ、孤独を埋めてくれる人を待ち続けた。
けれど、誰も来なかった。それどころか、時代の移り変わりで人が来ることはなくなった。寂しい毎日が続く。
「……辛い」
あまりの辛さに涙を流した。それは小さな結晶になって、小さな女の子を救う糧となったこともあった。
たくさん、たくさん、救い続けた。でも、誰も私の願いを叶えてくれる人はいなかった。
「……」
孤独な時が数えきれないくらい過ぎていく。
そんな中、ある日のことだ。黒い髪の男の人がやって来た。見た目は、私が知っている時代のものと違って大きく変化していた。とても、不思議な格好である。
「……ドラゴン」
彼は、私の姿を見て、剣を抜いた。
「大丈夫、何もしない。あなたも夢を見に来たのね」
私は彼に、可能性の夢を見せた。
「……」
それと同時に、私は彼の夢をこっそりとのぞき見した。それは私が夢をかなえ続けたことで手に入れた力だった。
彼の夢は、とても不思議だった。見たこともない塔が縦並び、木々が見えない。かと思えば、木々が生い茂る不思議な場所だった。
見たことない食べ物を食べたり、聞いたこともない娯楽を楽しんだりと穏やかな日々を過ごすものだ。
とても、不思議な夢だった。ただ、そこに誰もいない。私と同じように寂しそうに見えた。
「……これは」
彼は、私を見上げる。
「可能性の夢。あなたが願う大きな夢」
「……そうか」
彼は、遠い目をしながら空を見上げた。
「戻れるのか、故郷に。それで、穏やかに過ごせるのか」
「故郷に戻りたいの?」
「……ああ」
彼は頷くと、自分が異世界から来た人間であることを語った。とある王国で行われた勇者の召喚に巻き込まれた彼は、僕は勇者でなかった。
元の世界に戻してほしいことを伝えたのだが、戻す方法は無かったらしい。結果、戻る方法を探して、旅をしていたら私の伝承を聞いてやってきたのだという。
その伝承は、実在することもない夢物語として扱われていたらしい。けれど、彼はわずかな可能性を探して、やってきたらしい。
「まさか、ドラゴンだとは思わなかった。夢の可能性を見せてくれる存在がいると語られていただけだからね」
「そうなんだ。驚いた?」
「驚いた。ドラゴンとは戦ったことはあるが、いい思い出はない。だから、怖かったよ」
「ごめんね、怖がらせてしまって」
「いや、いいよ。戻る可能性が見られたから」
「よかった。そうだ、あなたの世界はどんなところなの」
私は彼のいた世界が気になり尋ねた。
「そうだな……」
夢で見ていたが、聞いてみると興味深いものだった。ゲームは物語の主人公のように疑似体験ができるもの。アニメは動いて、音がでる絵と聞いて、実際に見てみたいと思った。
また、おいしい食べ物の話も気になる。
「……私も行ってみたい」
私は今までの思いが少しだけ我慢できないのか、彼に聞こえるように呟いてしまった。
「……ドラゴンが来たら驚かれてしまう。小さくなることはできないのかい?」
彼は、困った表情で言う。
「……ごめんなさい。この森から抜け出せないの」
「どうして?」
「……えっとね。私はここにいる運命なの。だから、行って……」
私は、彼のもつ可能性を断ち切りたくなかった。穏やかな日々。誰もが飢えず、穏やかに暮らせる彼の国は夢のような場所である。
多少なりと、問題があっても、毎日の食べ物に困らない地など夢物語でしかない。だから、この世界は彼にとって過酷なはずだ。
「……そうなのか。なぁ、どうしたら、ここから抜け出せる?」
彼は問う。その問いに私は……自分の思いを伝えることができなかった。
「運命なの。ここにいなきゃいけない。それを語ることはできないの」
私は泣きそうになりながらも、涙をこらえながら伝えた。
「……わかった」
彼はそう言うと、黙って頷いて立ち去ってくれた。
「……これでいいの」
私は自分で無理やり納得させるように言い聞かせた。
だけど……彼はやって来た。
「どうして…………ダメだよ。元の世界に戻らなきゃ」
「これまで、がんばり続けたんだ。すこしはゆっくりしてもいいと思ってね。」
彼は私に笑顔を見せた。
「……」
「…………………ダメかな?」
「ダメじゃない。うん、いろいろお話しよう」
「うん」
私はとても嬉しかった。彼との話は夢のような時間だった。でも、一瞬で終わっしまう。
「また、明日」
「うん、楽しみにしている」
私は明日も会えると聞いて、喜んで返事をした。
「やあ、おいしいお菓子を持ってきたよ」
その日は、彼はクッキーを持ってきた。布で入ったクッキーはとても小さいが1つ1つが宝石のように感じられた。
昔は感謝の印として食べ物は持ってこられたことが、ここ最近は食べ物らしい食べ物を食べてないので嬉しかった。
「おいしい」
「そう、よかった。頑張って作ってよかった」
「す、すごい」
しっとりと甘いクッキー。私の口には、小さすぎるが……口の中に入れて感じるのは幸せの味。いつまでも噛みしめていたいと思うものだった。
クッキーを食べ終えたあとは、楽しくおしゃべり。この日も一瞬で終わってしまった。
「またね」
「またね」
私は彼と明日も会う約束して別れる。次の日が早く来てほしいと思った。それと同時に、別れたくない思いが少しずつ強くなるのがわかった。それは、毎日、毎日、会うたびに日に日に強くなっていく。
私は自分にため込んだ思いに蓋をして彼と話をつづけた。
そして、そんなある日のことだ。
「ねぇ、どうして……ここにいるの?」
「……昔の話」
私は少しだけ自分の過去を語った。呪いでこうなった部分だけを語った。
「大変だったんだな。」
「……うん」
少しだけ心が軽くなったような気がする。こうやって、過去を話せたのは何年ぶりなんだろうと思った。
「……呪いを解く方法はないのか?」
「無理よ。とても、強力なものだから」
「そうなんだ……よし、呪いを解く方法を見つけたら、ここに来る」
彼はそう言って、彼の世界の道具“スマホ”を渡した。
「これを取りにかならず、戻る」
「うん、待っている」
私は素直に受け取って、彼を見送った。その日は涙が止まらなくて眠れなかった。
心にぽっかりと穴が空いた気分だ。1カ月ぐらいは、彼との思いでだけで耐えた。
冬になると冷たくなって、心も冷たくなる。でも、彼だけの思い出と彼が残したスマホだけが、私の心を温めた。
私は忘れようと思ったこともあったが、彼と思い出は、消えない小さな光のようで、忘れられなかった。
そして、2度目の冬がきて......その日はとても寒い日だった。
「呪いを解く方法を見つけたよ」
毛皮を身にまとって、白い息を吐きながら彼は私の元に表れた。
「……」
私は幻だと思った。
「僕は自分の夢の可能性を代償にする」
大きな声で、彼は叫んだ。
「ダメ」
私は叫んだ。でも、すでに遅かった。私にかけられた呪いは朽ち果てるように解けていく。
「どうして……」
私は涙を流しながら問いかける。
「だって、そこに君はいなかった。そんな夢はいらない」
人の形に戻った私を彼はやさしく抱きしめてくれた。寒い日なのに、とても暖かった。
「……うっ、うゎああああああああああ」
私は泣いた。彼は、私が泣き止むまで優しく抱きしめてくれた。
夜は、寂しい。暗くて深い海の中にいるような気分になる。
孤独は、寒くて辛い。例え、誰かと話すことができても、遠くにいて触れることができない。
ただ、一緒にいてほしいのだ。夜、寝るときに孤独を埋めてほしいのだ。それだけで、安心するのだ。
「……どうしたの?」
私の横で寝ていた黒い髪の彼が話しかけてきた。
「……ずっと、さわっていたくて」
触り心地のよい髪。さらさらとしていて、砂のように零れ落ちるような感覚が愛おしい。
「……あなたと出会えてよかった」
私は彼に思いを伝えた。すると、恥ずかしそうに眼をそらしまがら、
「そ、そうなんだ。う、うん、僕もだよ」
と恥ずかしそうに言う。
私は柔らかな笑みを浮かべながら、抱きしめた。暖かい。寒くないし、孤独を感じない。誰かといられる幸せを永遠に感じていたい。もし、願い叶うなら時がとまってほしいとすら願った。
でも、私は焦っていない。長い年月のなかで得た力は無限の時間を与えてくれる。ゆっくり、ゆっくり、永遠の時を彼と過ごせばいいのだ。
だから、私は
「……どこにもいかないでね」
と小さな願いを込めるように言う。
それに対して、
「……うん」
と彼は、私の願いを受け入れるかのように抱きしめてくれた。こんな生活、1万と2017年前は考えられなかった。だから、とても幸せ。
夜は寂しくない。私は温もりを感じながら、目を閉じた。
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設定情報
・私
無理やり引きこもりにされた悲劇のヒロイン
ドラゴン系超純情系ヒロイン。まっすぐに誰よりも彼を愛している。長い年月で達観した部分もあるが、恋愛面では若き少女そのものである。
あまりにも他者を気遣うあまり、自分の幸せを逃すタイプ。本当に報われてよかったと作者てきに思う人。
・彼
私と同類のタイプ。他人の為に自分を犠牲にしてしまう人。優しすぎる人。だが、私と出会ったことで……無限の可能性を手に入れた。
・赤い目の人
主人公級の戦闘力を持つ者。トリックスター的な存在として今後も登場すればいいかなと思う。
まじめな話をすると、私と同じ次元の存在。悲しみから生まれた一族の1人。
悲しみだけを殺し、他者を救う者。
私の心を埋める存在になりうる可能性を秘めていた。しかし、彼女にとってもっと幸福な道を示す彼によって、呪いを方法と話す力を与えて立ち去る。
・私に興味を持った王
すべての元凶。だが、こいつがいなければ、私と彼が出会うことができず、ロマンスも生まれなかった。なお、妻とは何とか和解できたらしい。
・私に興味を持った王
嫉妬狂いの妻。あまりにも好きすぎてヤンデレ状態。ヤンデレがなければ、超優秀な妻である。正直、王よりも政が上手。晩年は王の代わりに政をするほど。女帝とも呼ばれていたらしい。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
少しでも心が温まればいいなと思っています。
そでは、おやすみなさいです。