8.「精霊の門」
どさりと投げ出されたそこにあったものは、私には馴染みのある、きっと青年にとっては初めて目にするであろう、重々しい石造りの門でした。
門には、緑色の蔓が巻き付き、何千年もそのままこちらに立ち続けている門らしく時を経た風格を感じさせられるものとなっていました。巻き付いた蔓の先にはこちらから先にしか生息できない根源の白い花が花開き、清廉な風が吹き抜けるそこはとても心地よい空間です。
門の傍には小鬼がじっと立ち尽くしています。
小鬼は、青年の顔を見たとたんに渋い顔をしました。
青年から通行許可証を受け取って直ぐに、うろんげな目で青年をねめつけると言いました。
「……今頃、おいでなすったのかい。随分時間のかかったこって。嘗てこちらで神童と持て囃されたものと本当に同一人物かね。唯はもう、随分と待ちくたびれているはずだが……あんさん、今まで何をしよったんだ」
青年は、小鬼の言葉に目を見開くと思わず駆け寄ろうとし、小鬼にとんっと押されてしまいます。
「お前、唯を知っているのか……!唯はどこだ!教えろ、教えてくれ」
地面に身体を腰から打ち付けてしまった状態のまま、青年がせき込んで叫ぶように言うと、小鬼は、哀れなものをみるかのような目をして、青年をねめつけながら言いました。
「……あんさん、記憶がないのか……そりゃ、消されるわな」
そうして、ふむと納得すると、青年に向かってこう告げました。
「いいか、一度しか言わねえからよく聞け。お前さんは、10年前の今日、唯というガキと、この門の前に現れたんだ。黄泉の国に行ってしまった自分の祖母に会うんだって言いながらな。……どこから手に入れたか知らねえが、その古びた通行許可証を持ってな」
目を見開いたまま唖然としている青年に気にせず、小鬼は続けました。
「唯ってガキは、渡し船で川の向こうへ渡って行った。あの日は霧が深くてなぁ。お前さんは、唯ってガキとはぐれたんだな。あの川はそういう川だからな。心が迷うとすぐに逸れちまう」
「お前さんだけ、ここに再び訪れた。そうして、俺は、強制的にお前さんをあちらに返したのさ。何せお前さんたちははぐれもので、こちら側には来ちゃいけねえ奴らだったからな」
そうして、青年と私を見ると、また、小鬼はふむと今度はより同情するような顔で口にしました
「お前さんも変質してしまってるが、水の精霊と来た。あんたも因果なもんだな。結局諦めきれなかったのか」
やれやれと小鬼は一人で納得すると、唖然とする私と青年を置き去りに自己完結してしまい、説明もそこそこに精霊の門から中へ私たちを通したのです。




