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声を拾って  作者:
8/60

7.

歌い始めて直ぐに、いつもよりもずっと、歌いやすいことに私は気づきました。

のびやかな声も空気の振動も体中の毛細血管が細胞が喜んでいるかのようでした。

歌に夢中になってしまい、次第に空気の振動の中に薄い膜が出来上がっていることに私が気がついたころには、私の周りにはほのかに青い光の粒子が粒状になって浮き上がってしまっています。

幻想的なその光景はまるで水中に飲み込まれてしまったかのようでした。

ぶわりとどこからともなく清廉な風が生まれ、私を浮き上がらせました。

足元までの長い髪がふわりと空中に浮き上がります。


ふと、青年のことを思い出し、目線をそこに合わせた時、


……私は、青年は、……青年は、私を見つめていました。


切れ長な目を大きく見開いて……そして、彼は言ったのです。


「……セイレーン……いや、セイレーンじゃ、ない……透き通るような水面のような透明にすら見える薄青い透明な瞳、まるで水を縫い込んだように潤みのある髪、はじかれるように白い肌」


そこまで一気に口にすると、彼は懇願にも似た哀しみにも似た表情で絞り出すように口にしたのです。


「……これが、唯の言っていた……お願いだ……!俺を唯の元に連れて行ってくれ」


彼の特異性から生まれた特殊で濃密な空間の歪み

圧縮されたそこで

私は水の精霊の声を使ってしまいました……。

それが自らの犯したミスだったと知った時、もう既にそれは手遅れだったのです。

そして、同時に理解しました。

青年と青年の妹と唯という方が巻き込まれた出来事、そして、そこでの青年の立ち位置、唯という方の立ち位置がどういうものであったのかを、同時に理解したのです。


青年が唯という方の物として手に握りしめていたものは、どこから手に入れたものなのか、精霊だけが手にすることが出来る通行許可証。


青年の特異性。それ、人という理からも人外という理からも外された存在。咎人。


境界の狭間に置かれる、歪みの根源。時の境目。


その特異性から、決して交わることのない人の空間に精霊だけが通ることの出来る門が出来上がってしまう。


不完全な時の境目。


理解したときにはもう既に遅く、私は、せめて、青年を傷つけぬように抱き込むことしか出来ませんでした。


そして、白い嵐が私と彼を襲ったのです。



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