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声を拾って  作者:
58/60

58.「分離した魂」

シンっと静まり返ったそこで、たった一人口を開いたものが居た。

それは、唯だった。


彼女は、苛烈な目をして、真っ赤な髪を逆立てているかのような激高もあらわに、恫喝した。


「ふざけるな!」


と。びりびりと痛いそれ。


その声は、絶望に染まった俺の中のもの”それ”にも届いたらしい。感情のない目らしきものを唯に向けた。


唯は、赤い髪を振り乱し、肩を怒らせながら、俺には馴染みのあのポーズを取った。


腰に手を当てて、足をガッと開き、胸を張り、威嚇する。


「お前がしてきたことを人のせいにするな!お前は、お前の負ったものに対する責任があることをお前は自覚していない!翠が後悔しているような言い方をするな!翠が後悔するのだとしたらな!あいつは馬鹿だから、全てお前がだらしないことについてでしかありえない!お前は翠の生きざまを馬鹿にするのか!」


”それ”が、自嘲するように浮かべていた口元を引き締めたことが俺にもわかった。俺は、唯の言葉に、ああそうだな。と思っていた。納得していた。そうだよ。すべての自らの行動には責任がある。そして、普通の人間には、後悔しても時間までもを戻すことなど出来ない。だから、後悔しないように責任をもって自覚をもって生きるのだ。


”それ”が、ぼろっと涙を流しているのを、俺は知った。

そいつは俺の中にいるからだ。


俺は、一番、お前の近くにいるから、お前の気持ちがわかったかもしれない。と俺は、”それ”に向かって同情するかのように語り掛ける。


”苦しかったよな”

”けれど、もう良いさ。終わりにしよう。後悔していたんだろう。お前は。きっと納得できていなかったんだろう。お前は”


けれど、もういいだろう。俺が一緒に行ってやるから、もうだだをこねるなよ。


唯の恫喝を受けて黙り込んだ、”それ”に向かって、俺は苦笑しながら、言った。

俺がすべて連れて行こうと思った。どうせ、大した人生ではないのだ。後悔もほぼない。


……少しだけあるとするなら。ふっと俺は笑うと言った。


「水神様、火神様、俺の中の根源コンゲが、黙ってしまったので、怜である俺からも言わせてください」


水神様と、火神様は、震えながらこくりと頷く。


「俺が、根源コンゲを黄泉の国まで連れていきますから、安心してやってください。こいつ、寂しいみたいなんで、俺が一緒ならちょっとは気もまぎれるだろうし。まぁ、それをする代わりにって言ったらなんですが。交換条件良いですか?」


目を見開いた二つの神様。


俺は、にっこりと笑った。


「俺の中には、水の精霊の加護がかかった魂がある。黄泉の国へはどうせ、魂という状態のまましか渡れねえ。魂を三つに分離させて、こいつ”根源コンゲ”と、俺と翠の魂に分けてくれませんかね。まぁ、どうせ、最初からそのつもりだったのでしょうが」


そう、言った。

根源コンゲ”も、黙っている。俺はお前と一心同体だもんな。お前の気持ちは流れ込んでいた。そう。お前がこうして衆目の中、己の恥をさらしたのはこの瞬間の為。


……そして、覚悟を決めたのも知っている。


そう、”それ”は、翠の魂だけでも、自分から離して自由にしてあげたかったんだ。それが、奴の最後の願いだって俺は知ってる。


唯も、水神様も、そう言った目論見でここに連れて来たことを俺は理解していた。いまいち理解できていないのは、知の化身であるはずの火神様だけだった。おいおい通り名が泣くぜ。


根源コンゲは、俺にしか聞こえない声で


「良いのか?」

と、聞いてくる。


おう。と、俺は答える。相棒。遠慮するなよ。俺は、あんたがなんだか嫌いにはなれねえ。だから、わがままひとつくらい聞いてやっても構わねえ。


水神様は、ふぅとため息をつくと、哀し気な顔を振り払うような表情をして、俺と、根源コンゲの元へ歩み寄ってきた。


根源コンゲ様、怜、有難う御座います」

涙を流して、水神様しか作れない、銀色に輝く光の水を作り出す。(主様が、作れたのは金の色です。水神様は、それ以上のものを作り出せ、これが出来るのは水神様しかいらっしゃらない)

ずっとそばにいて、涙と鼻水をすんすんさせていた水玉の子たちが俺の耳元にやってきて、教えてくれた。この感覚も最後なんだな。俺は笑う。おう。と答えておいた。


渡された銀色に輝く液体を飲み干すと、身体が分離し始める。


身体の奥から分離する感覚と言えばよいのか、初めて自分だけの意識になったかのような自由さが、そこにはあった。


俺の身体から離れた”根源コンゲ”は、俺に目鼻立ちが似ているが、少しとがった印象で、

久しぶりに感じた懐かしい感覚は、ふわりと青く温かく光った。


翠。水の精霊。彼女は、このまままた生を受けるのだろう。


水神様は、そっと青い光をいとおしそうに胸にかきいだくと、俺たちに深く礼をした。



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