54.「根源(コンゲ)」
冷たい石の感覚に俺が目を覚ました時、そこにあった光景を俺は生涯忘れないだろうと思う。
圧倒的な存在が目の前にあるという事実。それがひどく身体になじんだものだという事実。
唯が俺を人神のようなものだと口にした理由がわかるような気がした。それは、俺の持つ雰囲気と少し似ているものだと感覚で理解したからだ。人の身体ではその程度しかわからなかったが。
水神様は、水のような色合いのうろこが美しい人魚のような姿をしており、火神様は、炎をまとった巨大な獣の姿をかたどっていた。
どちらの神様も、とても穏やかな目をしている。
俺は、身体を拘束され、ひかりの牢のようなものの中に閉じ込められていた。火神様の傍らには唯が苛烈な目を俺に向けている。
俺が目を覚ましたことを確認した唯は、カツカツと靴音を響かせて俺の目の前に立つと、火神様、水神様に一度礼をし、口上を述べた。
「知の化身、火神様、慈悲の化身、水神様、例の咎人をこちらに連れてまいりました。火神様には満足のいく知を。水神様には水神様が一番欲するものをそれぞれ手にしているものでございます」
それぞれ、頷くことで、了解したと伝えた両方の神様は、俺に向かって不思議な声で述べた。
「怜、と、言ったか。魂を見せてもらった」
お前の運命には、私たちも憂いていた。と、二人の神様は、穏やかな目をしていう。
初めは、そのうち俺の方の魂が消滅するだろう。それまで因果の鎖のまま、魂がさまようことを放っておこうとな。
けれど、俺は、二人の神様の目論見とは外れた異端だったらしい。
「お前は、魂をさまよわせる過程で、こちらの世界にいくつもの変化をもたらした。私たちは、驚いた。たかが咎人が出来ることではない。悩みに悩んだ私たちは、お前を研究することにした」
お前の魂は、興味深く、そして、私たちにとってもお前にとっても哀しい事実を伝えていたよ。
水神様はつらそうに言う。
「お前は、いえ、あなたは、根源様」
俺は、自らの身体がバラバラになっていくのを感じていた。なんだこれは。と、俺の中が叫ぶ。
発光し、飛び散るそれ。
それを、ひどく恐れおののいたようにひどく哀しいものを見るように、水神様と火神様は見つめていた。
「……根源様、私たちの、世界の根源を造りし方。なぜ、貴方はこの世界を自らがおつくりになった世界の根源を破壊なさろうとされるのですか」
最後の方は悲鳴だった。




