51.
朝食もそこそこに寝不足の目をこすりながら、俺たちは渡し船を待っている。小鬼は精霊の門前の見張りと交代すると、俺たちに手を振った。後ろ向きで。
唯のきりっとした顔を横目でちらっと見る。隙が全く見えない唯は、きっと周りの人に近づきがたい印象を与えるのだろう。俺と似ていて表情も乏しい。けれど決して嫌な奴ではない。俺は、唯と話すうちにそのような認識を持つようになっていた。幼い頃の唯を比較しなくとも、そう思える程には俺は唯に心を許している。
視線に気づいた唯がぎっと俺をにらんできた。……自意識が過剰なのだろうか。俺は唯に嫌われているような気がしてならない。
唯が口を開いた。
「あまりぶしつけにじろじろ見るな。……翠にもそうやって誑し込んだのか」
後ろの方は声が小さすぎてあまりよく聞こえなかったが……えっと俺が言うと、ぎっと唯がこちらをにらみつける。
「……忘れろ。つい独り言が漏れてしまっただけだ」
なにか引っかかったが、俺は唯を怒らせたくはなかったので黙った。それなのに、唯は朝から機嫌が悪い。
「水の精霊か?」
昨夜からの唯の言動を思い返して、俺は、あてずっぽうに言ってみた。唯がぴしりと固まる。
顔を真っ赤にしてこちらを振り返った。
「……お。ビンゴか。何だ?お前の雰囲気からして、俺に好意があるようには見えねえし、まるでお前俺を敵でも見るかのように見るもんな。……まるで恋敵でも見るかのような雰囲気で……」
唯の弱音をやっと見つけられた嬉しさで、俺はまるでいじめっ子のようにぐいぐい唯を責め立てる。まぁ、本気ですらない。男っぽい唯をからかってそうじゃねえみたいな感じになってちょっと気ごころしれたかっただけの……そう本当にそれだけだったんだ。……まさかそれがまぐれ当たりを起こすとは俺も想像もしていなかったが。
唯は俺の言葉が投げかけられる度に顔を赤くし続け、次第に涙目になっていく。そうして、観念したように告げた。
「……そんなんじゃない。ただの思慕だ。翠を慕ってただけだ」
憮然とした顔ですねたようにそう口にした唯は気づいていないのかもしれない。自らの感情に。これ以上はあまり刺激したくなくて、俺は口をつぐんだ。
「……そ、そうか」
と、だけ言って。
唯は、どうやら今まで誰にも言えなかった思慕の感情を吐き出すことが出来る状況に口が滑ったのだろう。そして、往々にしてそういったものは吐き出すと幾分か楽になるものだ。唯は聞いても居ないのに、俺に唯の感情をぶちまけて来た。
……そう、俺は聞いても居ないのにだ。




