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声を拾って  作者:
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50.「水の加護と火の加護」

「この精霊の世界では、5つの国と5つの神々の統治で成っている」

唯は、古びた地図を俺に見せながら、説明を始めた。

それぞれ、水神様、雷神様、火神様、地神様、竜神様だ。それぞれの神々がそれぞれの国々を治めてらっしゃる。水の国、雷の国、火の国、地の国、竜の国。だな。


基本的に、この国に人の世で生まれたものが入ることは出来ない……と、いうよりも、相応の力がなければ、入っても煮溶けたようにつぶれてしまう。


……唯の言う、”力”というものは、”加護”とも言い換えることが出来るのだという。

たとえば、人の世に渡ったもの、人間や動物など人の世の生き物や、人の世で生まれたもの、精霊たちも含む。は、非常に力の弱い存在となるらしい。その理由として、加護が無いからなのだそうだ。


人の世では、精霊の国のようにそれぞれの統治してくださる神々からの加護をいただくことが出来ない。もともと加護をいただいていない状態でこちらの世界に足を踏み入れるとなると、精霊や人自身の”力”がこの世界に耐えうる”力”と、拮抗していなければこちらでは暮らしてはいけないのだという。


「怜、お前は、もともとは、人の世で異質であり、はぐれものだった。しかし、私のように擬態でもない。この世に長らくいられない自らの体質をかえりみて自身でも不思議に感じているだろう……そうお前は、こちらの世でも異質なのだ」


唯は、ゆらゆら揺れる炎をじっと見つめながら俺に静かに語り掛ける。水玉のこたちや、小鬼はそんな唯の言葉を静かに聞いている。


「お前は、人の世で人ならざる体験をいくつもしてきたはずだ。お前が身に着けていたその力、そしてこちらに渡る時にお前が使用したその力、それらは、咎人の力だ」


……唯の口から不穏な言葉を聞いた気がして、俺は愕然とする。なんだ?咎人?罪人?

青ざめた顔でおとなしくしていると、その様子を察したのか、唯がこちらを苦笑したように見つめた。


「……なに、大したことじゃない。お前の呼び名は古来の伝説に基づいているもので、お前の性質を全てにおいて表しているかというとそうでもない。私が文献を紐解いて長年お前の力を見つめて、力を採取して私なりに出した結論をいうと、お前は人神ジンシンだ」


俺は、フリーズしそうになりそうな頭を何とか動かそうと努力する。そろそろ、頭の中が暴動を起こしそうだ。


俺の様子に更に唯は苦笑を深めると言った。


「……そうだな。人神というのは、私がお前の力を説明しなければならない過程で必要になって私が勝手につけただけの仮の名前みたいなものだ。……そんなに驚愕したような顔をするな。肩の力を抜け。正確に説明するなら、お前は、あちら、人の世で神といえるような力をもち、あちらの人や精霊に加護を与える存在と言い換えても良い。……過去の文献を紐解いてみると、人神が全くいなかったわけじゃない。多かったわけでもないが、嘗てはお前のような存在も偶に出現していた。人神……まぁ、ここでいう咎人はな、人が神のような力を持つというだけだから、非常に……なんというか歪んだ奴が多いんだよ。人には手に余る力を持ってしまった存在にとってはあちらは異様に生きづらいからな。お前の同胞と言える存在は、総じて寿命が短い上に、私から言わせれば人の気持ちをきちんと学べなかった可哀そうな奴が多い。その咎人の中でもお前の力は異質だがな」


その話を受けて、小鬼は鼻の孔を膨らませた。赤い顔をうっとりとしたものに変えて、とつとつと話しだす。


「だな。ここ、精霊の世界では、お前さんの魂を目にしたものたちは必ずお前さんを観察したもんだ。異様に綺麗っちゅうか、お前さんは面白いからな。なんせ、精霊の門っちゅうものまで作って、人の世への嫌悪感を最小まで抑えるために尽力したのもお前さんだ。お前さんが自分でやってきた功績を自分で知らないっちゅうのは哀しいもんがあるわな。俺はお前さんに期待していたのさ」


水玉の子たちも、真剣な顔をして俺につめよってくる。


「主様も、あなた様のことを、とてもきれいな方だと何度も何度も申しておりました。あなた様は、透明な音を持ってらっしゃる特別な方だと。あなた様を必ずお守りするのだと、私たちに何度も言い含められておりました」


目にいっぱいの涙をためて訴えてくる。


俺は三方からの視線に耐え切れず、顔を背けた。


水玉の子たちの言葉に、あからさまに唯の機嫌が下降する。


「ふん。水の加護か。……本来なら、私がお前に火の加護を与える予定だったものを」


小さく忌々し気な声が聞こえて、俺はびくっとすると、不機嫌そうな顔で唯が言葉を続けた。


「言い足りていなかったが、そう言ったもろもろの事情で、こちらの世では、加護を受けなければ生きることさえ危うい。そのため、私は何度もお前の元を訪れて、お前に火の加護を与えようと試みた。……だが、それはかなわなかった。なぜなら、お前の魂にはもう既に水の加護があったからだ」


俺は、だんだん居づらくなってきていた。俺自身のことを俺は何も知らないのだと三方から言い竦められてどうしたらよいのかわからなくなる。知らねえよ!と飛び出せたらどんなに楽だろう。それも出来ずにじっとしている。


「お前が、水の膜で毒の侵入を防げていたのはお前の身体に水の加護が微細ながらあるからだ。けれどその力はとても弱い。それは例の水の精霊のせいではない。彼女は水神様の一番の加護を与えられた水の精霊。彼女より力の強い水の精霊など水神様ぐらいだ。そもそも、お前には人神の力もある。水の精霊の加護が身体になじむはずもないものを無理やりなじませている。随分乱暴な上書きだ。私ならもっとうまくやれる」


ため息を一つつくと唯はそれ以上を口にするのをやめた。まぁ、良いと、話を切り上げる。それから、はっとしたように俺を見据えるとこう言った。


「怜、お前のせいで、大事な水の精霊が消滅したと、水神様がたいそうお怒りだ。道中何があるかわからんが、兎に角耐えろ。あのお方の怒りを鎮めるため、真っ先に謝罪にいくことがお前の初めの出発だ。私も火の加護を受ける火の精霊として口添えをしてやる。耐えろよ」


えっ。と、思った時には、唯はそろそろ寝る時間だと、高く結い上げていた髪をぱさりと解くと、俺と小鬼に寝袋を投げ捨てて言った。


「お前たちは外だ。野宿しろ。私はテントで横になる。中に入ってきたら、命はないと思え」


最後にゾッとするような目を俺と小鬼に投げかけるとテントの中へと消えた。小鬼がぶるっと震えたのを俺は目にして、哀れなものを感じると空を見上げた。今日は、水の精霊と初めてこちらに来た時のような見事な星空だ。見ていると魂まで吸い込まれそうだ。


あちらもこちらも空は変わらないのだなぁと


そう思いながら、俺はいくつもの疑問を心の奥に閉じ込めた。


消えてしまった水の精霊のことは、当分考えられそうになかった。



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