48.
「小鬼、足留めありがとう。これ、濃密なとろみと甘口のリンゴの香りがする。最近の私の気に入りの甘口の日本酒だ」
彼女は、どんっと青白くほのかに光って見える瓶を小鬼の前に置いた。ラベルがとても清々しい。
小鬼は、呼び捨てにされても全く怒らず、嬉しそうな顔をする。目線は日本酒に釘付けだ。
彼女は、その後、固まっている俺をふんっと見据えると、遠慮なく罵倒する。
「突っ立ってないで、こちらに来い。のろまめ」
赤い髪は、炎の色だが、この女性は炎というよりも鬼のように、容赦なく、口がものすごく悪いらしい。
幼い頃はもっと柔らかだったはずだと思い出補正がなされているだろう記憶を辿ってみるが、しかし、こんな感じだったかもしれない。現実はこんなものなのだ。……それにしてもひどすぎるが。
俺は、近づく前に、一応確認をしてみた。
「……唯、だよな?」
そう尋ねると、女性は、目をきっと吊り上げて、そうだ!と言い放つ。
俺の思い出の中の唯の姿は決して赤い髪ではなかったはずと思い返していると、彼女は、少しトーンダウンして、少し寂しそうに言った。
「……あの頃の姿は、擬態だったようだからな。私もこちらに初めて来た時に知った事実だ。怜、お前と一緒で私もはぐれものの一種だよ」
……私はここに来て、以前よりも幸せになったんだとほのかに笑う。
彼女は笑うと、顔の造りとの相乗効果で、より印象が華やかになる。
ぱっと辺りに明りが灯ったようなそんな変化。
俺は、その笑顔に励まされて、
「……遅くなって、悪かったよ」
と、言った。置き去りにしてしまった彼女に俺が一番にしなければならないのはこの謝罪だと決めていたから。
彼女はその言葉に一瞬泣きそうな顔をすると、バッと後ろを振り向いて、
「そうだな」
と言った。赤い髪に覆われた細い肩が揺れて、声が震えているのを見逃さなかった俺は、この全く素直ではない幼馴染の姿に苦笑する。同時に、ああこんなやつだったなと懐かしく思った。
ようやく、唯に会えたのだ。




