46.
「……読んでられないな」
俺は、頭を抱えた。
がしがしと頭をかき混ぜる。
妙な気恥ずかしさと、なんというか、サブいぼが立つような気持ち悪さがある。
俺が纏めたのだという手記の一部を半分まで読み進めたところで、俺はもうギブアップ気味だ。
……思えば、俺は、文才が無かったよなぁ。と半ばあきらめのような気持ちまで湧いてくる。俺は、元来ものを書くのが苦手だ。ちまちま順を追って書く時間があったら、ほっぽりなげて何かの研究でもした方がよっぽどましだ。と考える。このうじうじした情けない奴は本当に俺なのか。と考え込みそうになって、まぁ、俺はこんなかもな。とあきらめに似た気持ちになる。人は誰でも理想を追い求めたくなるものだ。……自分自身でさえもな。
「あんちゃんも、そう思うよなぁ。俺も思ったぜ。あの神童がここまで腐っちまった。ってあの時はどれだけ嘆いたかわからねぇな」
精霊の門の前で胡坐をかいた小鬼が、心底、よく言ってくれた!というような表情でうむうむ。と頷く姿に、俺はガクッと頭垂れた。
俺は、水の精霊が消えてしまった後、直ぐに黄泉の国へ行くことにしたのだが、一人で行こうとしたところ、水玉の子たちに泣いて止められて、私たちも行きます。と押し切られ、次いでに、精霊の番人に知恵をいただくべきだと押し切られ、水玉の子が番人がよだれを垂らす程目がないという、水の精霊特製の濁り酒を持参してきたのだ。水の精霊特製のこれを俺も味見してみたいと告げると水玉の子たちは顔面蒼白となった。……反応を総合して判断すると、この世の飲み物とは思えない程身体に毒だからやめた方がよいと。小鬼は何故これが好物なんだ?
濁り酒で顔を赤くした小鬼は、俺に気前よく色々と知恵を授けてくれた。それと、唯とも交流が頻繁にあるらしく、出会いがしらで川の向こうと言ったのは俺の様子にどこまで話して良いのか迷ったからだとも言った。
「いや、俺もさぁ、面倒ごとに巻き込まれたくねえし、唯は色々とうまい酒も持ってきてくれるし、何かと恩もあるけどよ、あんちゃんには、そんな義理もねえし。記憶を消された危ないやつを親切にしたところで俺に得なんてねえもん」
という小鬼の言葉には、どんな反応を返したらよいのか本気でわからなかったものだ。
精霊の世界から、人の世には結構簡単に行けるらしく、唯は頻繁に俺の様子を見に来ていたらしい。
ただ、人の世では黄泉の国に行った人間は魂の形しか留めることが出来ず、仮の魂を借りて、俺の様子を見に来て、俺の手記を奪ってくるぐらいしかできなかったのだとそういっていた。
実際、俺にも幾つかの分岐点があった為に予想がつくのだが、この手記を書いたと思われる過去の俺は、俺とは微妙に違う俺だ。ただ、大まかな思考回路は俺なので、やっていることは大体似通っていた。手記は残そうとはしなかったが、この後、俺は、見つけた本をたよりに、唯の記憶を徐々に蘇らせていき、
何度やってもこの世界に行くことが出来ない苛立ちから、自暴自棄となっていた。そして、水の精霊と出会うことになる。
きっと、いくつかの分岐点で、唯の介入があったのではないかと簡単に予想出来て、俺は、ほとほと頭を抱えた。手記の中の俺が度々嘆いているように、だれかの手のひらの上で筋道通りに自らの人生が進んでいく様は、何か得たいの知れない嫌悪感がある。
「唯をせめねえでやってくれや。あいつも、精一杯やっている」
そんな俺の気持ちを読み取ったのか、小鬼は、膝をぽんっとたたいた。
「お、そろそろ、おいでなすったようだ」




