43.
祖母の家に行きたいのだが、と父に連絡をすると、父が難しい声を出した。既にあの家は、人手に渡っている。何でも、祖母が懇意にして頂いていた方らしく、家を手放したいと話したら、快く引き受けると言ってくださったらしい。
祖母が居ればまだ交渉のしようもあったのだが、祖母は失踪してしまっている為、口添えしてくれる方が居ない。父は会ったことすら無いらしく、色よい返事は貰えなかった。
俺は、昔から知らない人に何故か嫌がられたり、疎まれたりする体質なので、孫だと話しても、お宅の中を見せて下さいといったところで見せてくれるような気がしなかった。
そんなわけで、手元の茶色い物体……通行許可証……というのだったか……それを目にして途方に暮れているところだ。
久しぶりに外出をせずに、ごろんと自室のベットに横になり、意味もなく天井を見上げていた。シミもなにも見当たらない飴色に磨かれた木が嵌め込まれた天井。そこに継ぎ目が見えたのは、本当に偶然だったのか、それともめぐり合わせだったのか、その時の俺は当然そんなことには気にせずに無言で踏台を用意した。
キィ……。
継ぎ目を軽く押すと不自然なほど軽く開き、同時に縄梯子がしゃらんと落ちてくる。俺は、ぎゅっと縄梯子を何度か引っ張り強度を確かめると懐中電灯で中を照らした。
すると意外にも居心地のよさそうな空間の中に、天井までびっしりと備え付けられた本棚にぎっしり嵌め込まれた本と、ランプや、石油ストーブ、後程取り付けられたものなのか、アンティークな照明と、丁寧に作られたことがわかる飴色の机と椅子が置かれている。
カチっと古びたスイッチを押すと、ジジッと少したってから問題なく明かりが灯った。
長い間使われてこなかったはずの屋根裏部屋のような秘密基地のようなそこには、締め切ったままの天窓が壁の片側に配置されており、採光の役割もはたしているのだとすぐに分かった。
天井にも光を取り入れられるように手動で開閉する形の天窓が取り付けられている。この部屋の主は、天体観測でもしていたのか、見たこともない古めかしく重そうな望遠鏡が隅に置かれていた。
部屋は、閉め切っていたとは思えない程澄んだ空気だ。
俺は、困った顔をした後、ためらいもなく机に向かうとそこに置かれていた大判の一冊の重厚なつくりの本の表紙を見つめた。
……なんでここにあるのか
とか、そんなことを言っても始まらない。
殆ど埃もないそれは、俺には読めない字で書かれており、本を開くとすぐに、数枚のページが欠損していることに気がついた。
削られたページはきっとあの挿絵の部分とその横に並べてあった文章なのだろうと俺は想像する。
ふぅ、と、ため息をついて、俺は、その本をそこに置いた。




