25.
そこは、一言、異様な場所だった。
唯や妹は夢に浮かされたようにふわふわっとした感じになっていたように思う。
彼女たちは、口々に俺に伝えた。
_良い香りがするし、不思議な音が聞こえるね。
_ゆいおねえも?わたしも。
俺は、そのような香りも音もききとれず、かといって、彼女たちのようにふわふわとした意識になるというのでもなかった。ただただ、足を進める程に大きくなる胸騒ぎと、空間が異様な場所だということがますます濃厚に感じられるだけだ。妙に、目が揺れる気がする。
一歩足を踏み出す度に、意識が揺れていくような感覚。
いつしか、唯と妹は俺よりもずっと先に進んでしまっていた。
……そして、あのことが起きたのだ。
……妹は今でもあの日の悪夢を見るという。
揺れる意識の中で、唯の声を聞いた。
_ねぇ、これなにかなぁ。怜、はやく
_えっ、きれい。あれが、セイレーン?
その途端爆発を起こしたように洞窟内に水が押し寄せてきた。
一気に呑み込まれた俺が頭の先で考えたのは妹のこと。
唯のことは思い出すことすらなかった。
俺も残酷だとは思うが、あの状況で俺は、そうせざるを得なかったのだと。
妹が着ているピンクの服が水の中にみえて、俺は出来る精一杯で濁流から流されてきた意識を失った妹を抱え込むと守るように妹をぎゅっと強く抱きしめ、
_俺は、そのまま意識を失った。




