16.「料理」
気を取り直して、水玉の子たちに沐浴後の着替えを持ってきてもらい、目を吊り上げた水玉の子たちに青年が連行されていき、私は、涙目になりながら、少しでも青年に年上らしい威厳と……威厳は難しくとも、失態を挽回するくらいのことをしたいと意気込んだ私は、小さくこぶしを掲げました。私ならできます。
早速、割烹着を身に着けて、髪を清潔に纏めて、人の世界を巡っていた間に身に着けた料理の腕前を青年に見せて、私の評価をあげなきゃ!がんばらなきゃ!と意気込みました。和、洋、中、他にも色々、修行したかいあって出来ますが、青年は何が好きなのかしらと悩みます。
その時、金の燭台をくださった神父さんの顔が思い浮かびました。彼は、英国の方なのに、日本の和食が大好きだったので、私にいつも、朝ごはんは和食に限るよ!と力強く力説される方でした。青年は、日本の方ですもの。和食は嫌いじゃない筈。と、思い立った私は、早速、綺麗に磨かれたつるつるの石の(大理石です)キッチンで、先ずは出汁を取り始めました。あらかじめ水に浸している昆布がしみ込んだ出汁を冷気で満たした(簡易冷蔵庫のようなものです。冷気は私が時々補充しています)箱から取り出し、鰹節を削り金色の出汁を用意すると、神父さんが好きだった好みの味噌と神父さんが好きだったあさりを入れて(彼はこれが鉄板だと力強くいっておりました)甘い金色の卵焼き(神父さんは甘い卵焼きが好きでした)と、人参とゴマの白和えとほうれん草のお浸し、アジの開き、大根おろし、きんぴらごぼうを添えて、お箸と炊き立てのご飯を準備します。ごはんはガスで炊きました。
ごはんをお茶碗に、お味噌汁はお椀に、きちんと和食の並べ方も、神父さんからしっかり教えられていたので完璧なはずです。
私は、整えた食卓に手作りの漬物と梅干と温めた急須にお茶の葉を入れて(お茶は直前にお湯を入れることにして)出来栄えに満足すると、水玉の子たちに青年を連れてきてもらいました。
私は、精霊なので、人のような食事は必要ないのですが、人の世を旅していた間に人の食事の楽しさを知ってしまったので、嗜好品のような感覚で食事も出来ますし、今まで関わった人がおいしいといわれる食事を口にしておいしいと思えていましたので、味覚も問題はないと思います。
青年は、整えられた食卓と割烹着姿の私を目にして、唖然として、でもすぐにうれしそうな顔をしてくれました。
「……美味しそうです」
私は、嬉しくなって、お代わりありますから、いっぱい食べて下さいね。朝ごはんは大事ですよ。と口にしました。何か言いたそうな青年はでも何も言わずに、はい。と嬉しそうに食卓に座ると一緒にいただきますをして食事を始めました。青年は料理を口に運ぶ度に美味しいです。と言って瞳をキラキラして喜んでくれるので私は、ずっと眺めていたいくらいでした。
食事が終わり、青年と一緒に食器を洗っていると(良いといったのですが、青年が手伝いたいといって譲らなかったので、それならと一緒に洗うことになったのです)青年が、お料理お上手なんですね。と言ってくれました。私は嬉しくて、
「……(赤くなったのを隠したくて少し俯きながら)私が人の世を旅していたころに出会った神父さんに教えられたのです」神父さんと出会ったのは、水神様の元から飛び出して人の世界にたどり着いた頃のことなのです。あの頃の私は泣き虫で……神父さんにはたくさん慰めてもらったのです。行き倒れたようになっていた私を保護してくださり、人の世界のことや読み書きなど勉強を教えてくれたり、和食や言葉遣い、礼儀作法を教えて下さったのも神父さんでした。とても大切な思い出です。
そう口にすると、青年が興味をひかれたのか、私に神父さんのことを色々聞いてきたので、私はその質問に考え考え答えます。
「……神父さん、ですか?和食が好きな方だったのですね」
私は、優しい思い出に頬を緩めながら、はい、と答えました。夜は一緒に寝ながら慰めてくれて、たくさんのことを教えてくれました。私の大事な方なんです。
そんな風なことを青年に聞かれたことが嬉しくて頬を赤らめながら話していると、せっかく楽しいお話なのに途中から微妙に青年の顔がかたくなってきてしまいました。
少し気になりながら、様子をうかがっていると、青年がはっとしたようにこちらを見つめ返してくれて
「……そうなんですね。素敵な方ですね」
と、にっこりしてくれました。ほんのすこしつらそうな顔をしながらです。
私は少し不安な気持ちになってしまいました。




