14.「夢」
(お前は、まだ、そんな夢みたいなことを言っているのかい)
私の母とも言える水の世界をつかさどる水神様が、あきれたように可哀そうな子を見るように私を見つめました。……これは、夢です。私はすぐに気づきます。過去実際に言われたことを繰り返し見る夢。精霊の私でも人と同じように夢を見ます。人と同じ感覚の夢かは、人ではないのでわかりませんが、私の夢の感覚を説明するのなら、感覚だけの世界に映像のイメージと音と言葉が舞っているようなイメージです。水の精霊の私には心地よく落ち着く安心する人の感覚で言えば心音に近い水雫が滴る音が明瞭に響きます。そのやわらかく硬質な音。嘗て私がずっと聞き続けていた母の音。水神様の音です。水神様は、透き通る美しく青い尾をぱしゃりと水面にたたきつけると困った子を見るかのように私を見つめ、教え諭すように言いました。
(お前は……、私を困らせるような言葉ばかり言う)
……透明な音など、言い伝えの中にしか存在しない空想や妄想の類だよと水神様は続けます。
それでも、まだ小さな精霊だった私は、納得しない面持ちで、一生懸命拙い言葉を駆使しながら、水神様に懇願しています。……そう、あれはまだ私がこの世に生を受けて、まだ数年しか経っていない頃のことでした。遠い遠い昔の話です。それこそ何千年も前の。その頃の人の世はとても話ができるような存在だとは認識されておらず、水神様は特に人嫌いの方でした。私には、目に入れてもいたくない程のかわいがりぶりでしたが、人の世は憎んですらいるのではないかと思う程の嫌いようだったのです。……水神様のみがそうだったわけではありませんでした。その頃は、精霊が人の世にわたることは禁忌とも言われ、渡ったものは厳罰に裁かれていて、人の世にいってはならないと、同胞たちも子守唄代わりに聞かされる程だったのです。
子守唄は、物語形式の歌で、精霊が人に恋をして、捨てられるそんな話でした。とても物悲しく優しい旋律のその曲を私はいつもわくわくしながら時に胸を痛めながら聞いたものです。同じころに生まれた同胞たちは私のそんな様子をいぶかしがったり、可哀そうな精霊を見るような目をされたり、不思議な感性の精霊だと異質なものをみるような扱いをされてきました。私は、そういった子供時代をおくったのです。
(……まだ、子供のお前が人の世にそんなありもしない音を探しに向かうなど、私に許可が出せるはずがないだろう)
……と。
その頃の私は、生意気な子供でした。そしてそれほどに透明な音に焦がれた子供でした。私は心配から私を諭そうとする水神様を見据えてこう言ったのです。
(……かあさま、そこまで私をゆるしてくださらないのなら、私はもうこちらには帰ってはきません。長らくお世話になりました。育てて下さった恩に報いることもできず飛び出す私のような精霊のことなどもういなかった子としてお考え下さいませ。申し訳ございません。今までお世話になりました)
そうして、水神様の制止の言葉を聞かなかったことにして私は生まれた場所から飛び出しました。この世に生を受けて3年目のことでした。




