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短編(超短編)

サナトリウム

作者: 芝田 弦也

 

 何処からか何かが擦れあう音が聞こえてきて、その音に意識が向けられてか、重い頭の状態で目覚めた。 音の出所は玄関先から流れてくる様で、音に意識を向け始めたと同時に全身に怖気が走った。誰かが鍵を開けようとしている。



 その事実に、寝ぼけ眼だったのに目は見開かれ音を聞き逃すまいと全神経が張り詰めてしまって肌が粟立った。万事に備え、警察に連絡できる様に携帯を持とうと手を動かそうとしたが動かない。手ばかりではなく体が金縛りにあったのか全身が動かない事実を知り、全身に冷や汗が吹き出てくる。金属音に合わせて脈打つ心臓がどんどんどんどん高まって加速していく。


 擦れあう音が止んだと同時に、外の空気と室内の空気が混ざり合う風の音がし、錆び付き始めた留め具が摩擦して発する音も聞こえてきた。焦燥と恐怖で脈打つ鼓動は最高潮に達した様で、全身は汗でぐちゃぐちゃになり意識は現実逃避を始めようと朦朧としかけてくる。何かがゆっくりゆっくりと、寝室に向けて動いてくる振動が伝わり、死刑を身近に控えた死刑囚の気分とはこんな感じなんだろうかと、場違いな想像が駆け巡るのを無理やり振り払って、体を動かそうと意識を向けてみるが眼球以外動く様子をみせない。



 音がドアの前で止み何かが佇んで、焦らすように時間をかけて引き戸をゆっくり、ゆっくりと開け放ち何者かが姿を現わす。 人の形をした全身が真っ黒で輪郭がボヤけた何かがゆらゆらと佇んで、こちらを見ているように感じる。

その姿に言葉通り視線を奪われ、目を逸らしたくても動かせずこの現実から逃げようと瞼を閉じようにも動かず、見開かれた目は正体不明な何かに釘付けにされた。



 何かは私の前にただ佇んでいる。

 何をするでもなくただ、佇んでいる。

 たた、たた、たた、たた、佇んでいる。

 


 突然意識が飛びのいて、再度目を開く。

 そこには何者かの姿は無く、就寝する前と何ら変わらない景色があった。先ほどの金縛りは嘘のように無くなり、いつ間にかに汗も引いていた。念のため、玄関先に向かいに鍵を確認すれば確りと錠がかかっていた。



 安心してカーテンを開け放して、眩い太陽を室内に取り込んでいつもと変わらない日常を繰り出そうと振り返ると、太陽によって作り出された自分の足元から伸びる、黒くてぼやけた輪郭が、ゆらゆら、ゆらゆら揺らめていた。

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