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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2017参加作品

多鳥羽隊長、アクアツアーの怪生物を探す!!

 俺は今、数年前に閉鎖された裏野ドリームランドという遊園地の跡地に来ている。

 俺の本業は役者で、最近では良くバラエティ番組にも出ているのだが、探検隊隊長のようなキャラが受けたようで、よくこういったような企画に対する出演依頼が来るのだ。

 こういったような企画、と言うのも、未確認生物を探すだの、UFOを探すだのだ。

 俺自身、小さい頃から人には見えない物、いわゆる幽霊の類が見える体質であり、そういった体験談をテレビで話したりする事で、心霊番組やUMAなど不思議現象系の番組に良く呼ばれるようになったのだ。

 そして俺の胡散臭い噂を本気で信じて一生懸命に探すバラエティ用の演技から、隊長のようなキャラが確立されたというわけだ。


多鳥羽たとばさん、こちら管理会社の方です。一応VTRの中でアクアツアーのアトラクション跡地で不気味な生物を見たかインタビューさせてもらう段取りですので、よろしくお願いします」


 管理人の方と挨拶をする。

 白髪の男性で、定年を過ぎて継続雇用としてここの管理部門を続けておられるそうだ。

 元々遊園地の営業中も同じ会社が警備担当として入っていたそうで、営業当時からここの事を知っているとの事。


「営業当時からアクアツアーで『謎の生き物の影を見た』なんて噂はありましてねぇ。閉鎖された後もそれを探そうと、夜中に入り込む輩が結構いるんですわ。正直、テレビで取り上げられるとなるとさらにそういう不届き者が増えそうで、あんまりお手伝いしたくないんですけどねぇ」


「そこ何とか、お願いしますよー」


 ディレクターが業界人っぽく軽い感じで両手を合わせて拝んでいる。

 この男は実に空気が読めない男で、いい意味では自分で空気を作って周りを巻き込んで進んでいくタイプだ。

 しかし、俺としては正直な方、大いに結構である。

 管理会社の方にはもちろん取材協力費として、多少の謝礼を渡していると聞いているが、現場で仕事をしている管理人さんにとっては堪らない話だろう。


「ご安心下さい、私が出演する企画の放送後、そういった不届き者がさらに増えたなんて事は少ないんですよ。自分で言うのも何ですが、結構胡散臭いんですよ。明らかに子供だましなカッパや雪男なんかを、一生懸命探すのを見るのは面白がってもらえるんですが、みんな本気にして見てるわけではないですからね。ちなみに、ご覧になった事はありますか?」


「ありますよ、役者さんなのに大変なんだなぁと思って見てます」


 本当に正直な方だ。


「ありがとうございます、これも仕事ですので。見て頂いた事があるなら、ある程度雰囲気は伝わってますよね?それで本題なのですが、噂の不気味な生物を管理人さんは見た事ありますか?」


 黙ってしまった。

 おいおい、実は噂は本当なんですよ、なんて止めてくれよ?

 俺も不思議な体験は結構している方だが、このような企画でマジもんに遭遇した事はないんだから。

 マジもんだったら取材なんてせず逃げるからな?


「ああ、すみません。ここで黙ってしまうと意味深ですよね。いやいや、私は見た事ありませんし、その噂も信じてはおりません。ただね、この裏野ドリームランドには複数のそういった噂がありまして、その噂のせいで経営が傾いたんじゃないかという見方も出来るもんですからね。いや、うちの息子が好きだったんですよ。お父さんがこのドリームランドを守ってるんだね!って言ってくれててね」


「そうだったんですね、でしたらなおさら一生懸命取材させてもらいますよ。徹底的に調べて、そんな不気味な生物が隠れている余地がないくらいに放送出来るようにしましょう」


 事前の打ち合わせは終わった。

 大捜索をする以上、朝から撮影を開始する。

 最終的に暗くなって、これだけ探し回ったけどいなかった、でもこの闇のどこかに謎の生物がいる気がする、というエンディングの流れである。

 入口のゲート前で外観が分かるようオープニングを撮影し、管理人さんに鍵を開けてもらう。

 そして、管理人さんにインタビューをしてから奥へと突入するわけだ。


「私は閉鎖される前の営業中からここで警備の仕事をしていましたけど、アクアツアーで謎の影を見たとか、不気味な生き物だとかは見た事ないですね」


「そうなんですが、ですが夜中とか、明け方過ぎとかに活動している痕跡があったとか、思い出す事はありませんか?」


「う~ん、ないですね。閉鎖された後も園内を見回りますけどね、ほら、落ち葉やらゴミやら掃除するのも仕事のうちですから。ですが、そんな人影を見た事はないですわ」


 俺達が園内に入った時、ゲート前に花火の跡や酒の空き缶やらが散乱していたのだが、このまま放送してしまえば同じような輩が来るかも知れないという事で、事前に片付けてもらったのだ。

 こういうところはいい意味での演出だと、俺達は思っている。


「管理人さん、今人影と仰りましたが、不気味な生物が人影だという噂もあるんですか?生き物と聞いたので、何となくワニやオオトカゲをイメージしていたんですが」


 違和感があったので切り込んでみる。

 管理人さんはちょっと焦ったように山の方を見ながら、言い間違えたましたと答えた。

 一度ディレクターと相談し、今の内容はカットして撮り直す事にした。


「う~ん、ないですね。閉鎖された後も園内を見回りますけどね、ほら、落ち葉やらゴミやら掃除するのも仕事のうちですから。ですが、そんな痕跡は見た事はないですわ」


 ここまで撮り終え、実際に噂の現場であるアクアツアーへと移動した。


「見た目は普通のジャングルクルーズ物ですね、船で川を探索するアトラクションでしょうか。今も水があるのは何故ですか?」


「実際に川の水を引き込んで、そのまままた川へと戻しているので、水がなくなる事はないですね」


「なるほど、じゃあ水を流して底をさらうという事は出来なさそうですね」


 事前に用意した大型の魚用の仕掛けを複数設置し、その場を離れる。

 噂では生物がどれくらいの大きさなのか、陸に上がって来るのかなどの詳細な特徴までは伝わって来ない。

 ので、事前に噂だけで判断したイメージが先ほど管理人さんに伝えた、ワニやオオトカゲである。

 そこに人影は見た事がない、との証言。

 撮り直してしてそんな証言はVTR上なかった事にしたが、俺はどうしてもそこに引っかかりを覚える。

 このじいさん、何か隠しているんじゃないのか?


 実はこういうケースは珍しくない。

 自分に都合の悪い事を隠して取材に協力する一般人はよくいるのだ。

 例えば、管理人さんが最初に言った『いやいや、私は見た事ありませんし、その噂も信じてはおりません』が嘘だった場合。

 実は何かしら心当たりはあるのだが、『正直、テレビで取り上げられるとなるとさらにそういう不届き者が増えそうで、あんまりお手伝いしたくないんですけどねぇ』という思いから、自分が見た影や形跡などを隠しているという事もあり得る。


 俺としてはここに本当に不気味な生物がいるとは思っていないし、管理人さんの言うように不届き者が増えたりしても、今後の企画に差し障るので困るのだ。

 管理人さんが最後まで隠し通してくれればいいのだが、ボロだけは出さないでほしいものだ。


 何て考えているうちに、別の捜索班から謎の影を捉えたと報告があった。

 場所はアクアツアーから少し離れた、木々が植えてある広場のような所だそうだ。

 俺が隊長として撮影している以上、そんな報告があっては駆けつけなければならない。


「やっぱりいるんだって!閉鎖されたから自由に動き回れるようになってるんだって!!」


 本気で思っているわけではないが、俺のキャラにはこういうセリフが必要だ。

 そんな役者魂を見せて走っていると、後ろから管理人さんが追いかけて来た。

 別にあんたまで走る必要はないだろうと思ったが、撮影中なので気付かないフリをしておこう。

 報告のあった場所に着くと、捜索していたメンバーから情報を聞く。

 曰く、木々の間を人影が走って遠ざかって行った、との事。

 ほら、人影だ。

 じいさん、何を隠しているんだとチラリと見やると、ぶつぶつと何か言っている。

 VTRが回っている状態で管理人さんへ話を振ると、演出上は面白いかもしれないが現実としてはちょっと躊躇う。

 一回VTRを止めてもらった方がいいのかも知れないと思い、ディレクターに目線で管理人さんの方を指すと、カンペで話し掛けろと来た。

 ったく、空気読めねぇなお前は!はいはい、やりますよ演者ですからね。


「管理人さん、どうしました!震えてますけど何か心当たりあるんですか!?」


 放送を見ている視聴者からしたら、ここでじいさんが祟りだカッパだ山神だと言い出したらもうB級映画である。

 俺としてもそんな流れは本意ではない。


「イチロー、イチロー・・・」


 うっわ、マジもんじゃねぇかじいさん。

 俺はディレクターにVTRを止めるよう指示し、詳しく話を聞く事にした。


「もう20年以上前の事だ、私の息子の一郎がこのドリームランドで気が狂ったんだ。ミラーハウスに入って、出て来たら別人のようになっていた。獣のように奇声を発し、四つん這いになって跳ねて、山の中に消えていったんだ。もちろん警察に届けようとした、そしたらドリームランドの運営会社から私の会社を通して圧力を掛けて来た。そんな事実はない、お前の息子はただ行方不明になっただけだと。不気味な噂が出始めた頃でな、やれ拷問部屋があるだの、ジェッドコースターで事故があっただの、いろんな噂が突然降って沸いたように出始めた。ミラーハウスの人格が変わる類の噂も同じ時期だ」


 無表情で語り出した管理人の話を、俺とディレクターの2人で聞いた。

 ミラーハウスで人が変わってしまった息子、その時以来行方不明となり、その数週間後にアクアツアーで不気味な影を見たという噂も出始めたそうだ。


「あの噂は一郎だと思った。狐付きのようなものだと思った。アクアツアーなら水があるし、辿って行けば川がある。魚でも捕って生活しているのかも知れない。私達夫婦は行方不明になった現場は分からない事にして、警察に届けた。捜索願を出したんだ。駅前でビラを配った事もある。ただ、以前の姿で一郎が帰って来る事はないと確信があった。私達はあの時、人が変わったように鳴き続ける息子の目を見たんだ。あれは人間のそれではない・・・!だが、息子だったモノはこの敷地内で生きている、それだけが心の拠り所だった」


 運営会社と自分の所属する会社に思う所はあっただろう、だが自分達の生活もあり、変わり果てたとは言え、息子から離れた場所で生活する気にもなれず、現在に至るという内容だった。


「出勤日であろうが、休みの日であろうが好物だった食べ物なんかを人目の付かない場所に置いておいてな、それが次の日には無くなっているのを見て、あぁまだ元気なんだなと確認する毎日だった。それが何故か、ドリームランドが閉鎖された直後から置いておいた食べ物が次の日もそのまま残るようになった。今でも毎日好物を置いているんだが、さっきあんた達が撮影している間に回収したよ。一郎はもういないんだ、大好きだったドリームランドが閉鎖されて、この場所を離れたんだと思っていた。それが、人影を見たという捜索班の人と話で取り乱してしまった、済まない」


 話は分かった。

 俺も心霊現象が見える人間だし、こんな仕事をしているが世の中には理解出来ない現象があるという事も信じている。

 息子さんが突然人が変わってしまった事については信じる。

 信じる以上は、この場はもう撤収するしかない。

 テレビで放送する分には胡散臭い噂話を辿って行けば、別の噂話へと繋がって会社の陰謀、そして親子の悲劇となり視聴者は面白がるかも知れない。

 だが、俺としてはそんな一時の娯楽の為に、一つの家族を世間に晒すようなマネはしたくない。

 ディレクターを説得し、このロケはなかった事にしようと決定した。

 その時・・・。


「アクアツアーの上流の仕掛けに反応があったみたいです!」


 別のスタッフの声を聞き、管理人が走り出した。

 慌てて俺達も付いて行く。


「一郎!まだお前はここに居たのか!?」


 じいさん、走るの早いなおい。

 さすが警備員歴が長かっただけあるなと感心している場合じゃない、俺だって負けてられん!

 時間的にはもう夕方で足元も暗く、転ばないように注意しながら管理人の背中を追う。


 辿り着いた場所は、アクアツアー用の水を川から取り入れる為の取水口の近く、園内敷地ギリギリの場所だった。

 あまり人が立ち入るような場所ではなかった。

 罠を設置した周りにはすでにそれらしい獲物はおらず、鱗のような物がいくつも落ちており、転げ回ったであろう痕跡が見られる。

 設置した仕掛けはイノシシ用の足くくり罠で、縄が途中で千切れているので逃げた後のようだ。

 このような企画の際は罠に定点カメラをセットしておくのが基本で、もちろん今回も捕獲された状況が映っているはずである。

 ディレクターに捜索班全体へと今回のロケの中止を通達してもらうようお願いし、その後で管理人とそのカメラの映像を確認する事となった。


「何だこれは・・・、これが一郎なわけがない・・・!」


 そこに映っていたのは人型の半魚人のような何かだった。

 目は鋭く尖り、口は耳まで裂け、全身を鱗のようなもので覆われている化け物だ。

 罠にかかった後の取り乱し方は、どう見ても知性があるようには見えない。


「管理人さん、これは息子さんじゃないよ。ただの化け物だ」


 慰めにも何にもならないだろうが、声を掛けずにはいられなかった。


「仮にですよ、仮にですが、管理人さんが毎日置いておられた好物の食べ物を食べてたのって・・」


「それ以上言うな!!」


 怒鳴ってディレクターを黙らせる。

 空気が読めないだけならいいが、仮定の話で不必要に関係者を混乱させるような事は絶対にダメだ!


「す、すみません・・・」


 じいさんは未だ驚愕した表情のまま、息子さんの名前を呼んでいるから、その可能性まで頭が回ってないだろう。

 どんな状態であれ息子が元気に生きていると信じていたのに、実は自分が置いた好物を食べていたのがこの化け物なのだとしたら・・・。

 とうの昔に、この化け物に息子さんが殺されて食べられている可能性もあるんだ。

 そんな残酷な話、可能性でも聞かせていいもんじゃない。


 辺りが真っ暗になった頃、ようやく我を取り戻した管理人さんを連れて、出入口のゲート前まで戻って来た。


「とんだ事になってしまって、申し訳なかったね」


 頭を下げるじいさんの肩を叩き、気にするなと告げる。


「じいさん、もうこの仕事辞めな、ここから離れた方がいいよ。奥さんにどう説明するのかまでは分からんが、もうゆっくりと休みな」


 人生を掛けてこの遊園地跡で働いて来たじいさんには酷だが、誰がか言ってやらないとな。

 くしゃくしゃっと皺を寄せて、じいさんが答えた。


「いや、私にはまだやり残した事があったようだ、時間はまだたっぷりある。今日はあんた達が来てくれて良かったよ」


 それだけ告げて、じいさんは再び裏野ドリームランド跡地へと入って行った。


 了



 文章内の花火の跡や酒の空き缶などのゴミは、私が書いた別小説『いるわけない子供が消えた後に戻って来た話』の同窓会二次会の跡です。

 こちらも夏のホラー2017参加作品として投稿しておりますので、よろしければ合わせてご覧頂ければ幸いです。

 ちなみに、どちらか一方のみ読んでも全く問題ないストーリー展開となっております。

 ちなみにちなみに、『ミラーハウスにおんねん。』もよろしくお願い致します。

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