5.Rubble.
いくつかの希望にすがることでなんとか保っていた、理性だとか冷静さだとか、そういうものがぷつりと切れてしまえば、後に残るのは半狂乱の自分だけだった。
わめいて、叫んで、手当たり次第にそこらじゅうのものを投げまくって、それでもどうにもならない気持ちが、あたしを部屋から飛びださせた。
ウンともスンとも言わないエレベーターを諦めて階段を駆けおりて、瓦礫におおわれた道を走る。
どこに行こうとしてるのか、考える余裕なんかなかった。
どこを走ってるのかすら、いつものようにはつかめない。
だって、景色も空気もいつもと違う。
どうちがうのか、は。考えられなかった。
何かを意識することにさえ耐えられなくて・・・何も、考えたくなくて。
あたしは、とにかく走った。
目の前のすべてから、逃げ出したかった。
だけど、運動不足の体はすぐに音をあげた。
血の味が口の中に広がり、ぜいぜいと鳴るのどから気管がむせこむような痛みを訴える。
呼吸ができなくなったあたしは、崩れるように足を止めた。
見覚えがないようで、ある場所。
そこには、大きな穴が在った。
「……っ……」
呼吸の苦しさを忘れて、あたしは茫然と立ち尽くした。
だって、ここには二階建ての小さなアパートがあるはずなのだ。
その2階の端には、いつも洗濯物がかかってて・・・。
『さきっちはあれだね〜。きれい好きだね〜』
『ん〜? ってもたかがしれてるっしょ一人暮らしだし。クラブのユニフォームがなきゃもうちょっと減るんだけど』
苦笑して、クッキーを口に放り込んだ親友が・・・美咲が住んでるはず、なのに。
「……さき! みさき! いないの!? 美咲!!」
思わず、叫んだ。
叫んで、叫んで、叫んで。
でも、美咲の声どころか、誰の声も聞こえなかった。
往来で、叫んでるのに。
このアパートの周りは古くから建ってる家が多いから、こんな叫び方をしたら誰かが、それこそ隣の口うるさいおばさんとかが、注意してくるはずなのに・・・それも、ない。
思考が止まった頭で、あたりを見回す。
瓦礫、瓦礫、瓦礫
・・・そして、穴と黒焦げの廃墟。
「……っ……」