表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

1.The world ended.

 轟音(ごうおん)に、たたきおこされるようにして目がさめた。

 遠く、近く。

 断続的に響く音にちょっと遅れるようにして、布団が揺れる。というか、跳ねる。

 しがみついた毛布ごと、床に投げ出されたのは次の瞬間のことだった。

 したたかに腰をうった痛みで、ぼんやりとしてた頭が覚醒する。

 

 何これ。地震?


 戸惑いながらもとっさに頭をかばう。

 寝る前に見るともなく見ていたテレビの受け売りだ。

 いつか来るといわれてた都市型大地震の特集。

 なんてタイムリーな番組だったんだろう。感心していたあたしの耳に、またも轟音が響く。

 その直後、目の前の冷蔵庫が宙に浮いた。もちろん、あたしも。


 ワンルームで一人暮らしをしている人間が地震に遭ったとして、家具に押しつぶされて死ぬ可能性ってどのくらい?


 その思いつきに途方もない恐怖を感じて。

 またしてもうちつけた腰をかばいながら、冷蔵庫から遠ざかる。

 とにかく逃げ道を確保しなきゃ。

 その一心で、断続的に揺れつづけるフローリングの床の上を匍匐前進みたいにはって、窓の方へ向かう。

 うちのマンションのベランダには、非常用のハシゴがある。

 立って動くことができないほどの揺れの中で、そんなものが使えるのかどうか分からなかったけど、廊下に出るよりはまだ安全な気がした。だって、ここは3階で、廊下はマンションの真ん中にある。建物がつぶれたりしたら真っ先に巻き込まれるのはそこじゃないか。

 考える間にも、床がうねる。狂ったようにジャンプし続ける机や、パソコンやテレビなんかを横目に、じりじりと進んだ。

 そうして、なんとか窓際にたどりついて、息をひとつつく。

 分厚い青色のカーテンと薄いレースのカーテンをいつもするように開けはなって、さぁベランダに出ようと思った瞬間。あたしは目をぱちくりと見開く羽目に陥った。

 だって、窓枠はあるのに窓ガラスがなかったのだ。

 ここ、借り物なのに!

 ガラスって一枚いくらだっけ?

 まさか弁償?

 大学の地震保険きかなかったらどうしよ・・・

 とりとめのない思いつきがばくぜんと浮かんで、頭の中にたまっていく。

 悲観的な方向に流れていく思考を止められずに、叫びだしかけたその時だった。

 新たな轟音が遠くから響いて、床が大きくゆれて、そんなに大きくはない硬質的な音がごく近くから耳に届いたのは。

 音の発信地に目をやる。

 右手でつかんだままの青い生地からガラスの破片が落ちていくのが、スローモーションで目に焼きついた。

 そういえば、今日の1限って必修なんだよね

 遅刻したら出席点が削られちゃうんだよね

 うわ、単位やばいじゃん! 大変!!

 てか、こんなこと起きるはずないし

 どう考えても夢だよね、これ

 現実逃避は夢のなかでも成立するのかな、と思いながら、視線を窓枠の向こうにやる。

 その行動を悔やむのに、1秒もかからなかった。


 焔

 サイレン

 舞い上がる埃

 空気をつんざく爆音

 目を開けていられないほどの閃光

 崩れる高層ビルと、形の変わった向こうの山

 ガソリンを一面にぶちまけたような、タイヤが焼け焦げたような異臭


 嘘でしょ、と頭をふる。

 視界が、闇に侵蝕されていくのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ