12.Walk the streets.
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。
毎日は平穏無事にすぎていった。
曇ってたり雨が降ってたりしてラジオからノイズだけが響きつづけるような日には、もう二度と男の声を聴けることはないんじゃないか、と心底怖くて毛布をかぶって震えたりもしたけど。何度かそういうことが続く中で、次の晴れた日には声が届くと信じられるようになって、あたしは徐々に慣れていった。ラジオが在って、男の声が届く日常に。
だから、油断していたのかもしれない。
・・・こんな、現実から目をそらしてるだけの穏やかな日々が、そう長く続くわけもなかったのに。
いつものように本を盗りに行った帰り際。
あたしはちょっと浮かれ気分で自転車を漕いでいた。ペダルの重さも、そんなに気にならないくらいに。
それもそのはず、前のカゴは大量の本・・・気になっていたファンタジー小説の続きだとかそういうのが入った紙袋でいっぱいだったし、道もわりかし走りやすかったからだ。
道。
これまで気にも留めていなかったそれが、必要不可欠な社会基盤なのだということを今のあたしは思い知らされていた。アスファルトで舗装された、石ころ一つ落ちてないような道。いつもそれなりにメンテナンスされて、道路標識一つでさえ整然と並んでいたあの道が、懐かしくてならない。
だって今のこの街で、そんな道におめにかかることは稀なのだ。1ヶ月前はメインストリートだったこの道も、あたりのビルがほとんど崩れて街路樹も焼け焦げて倒れてたり炭化してたり穴があいてたりで、標識なんてカケラも残っちゃいない。はじめて通ったときは何度も迷ったし、次に通ったときもやっぱり迷った。
にもかかわらずこの道を使っているのは、道幅がある程度広かったおかげか他の道よりも瓦礫が少なくて走りやすいからだ。特に、中央分離帯のあたり。
行く手をさえぎるガラスの破片やなんやかやの山を自転車をおしながら超えるのも、もう慣れたものだった。そうなるまでに7台分くらいのタイヤをパンクさせたのは、考えないことにする。ついでに鍵を壊す腕も上がったのはあんまり嬉しくないけど、背に腹はかえられないから仕方がない。
こんな風に開き直ったのは、3台目がパンクしたときだったかなぁ、と思いながらペダルを踏む足に力を入れた。
そのときだった。
道端に転がる、茶色に近い赤黒いモノに気づいたのは。