見える目
僕はずっと悩んでいた。
これは現実で夢なんかじゃないと…。
でもあり得ないよ。
僕はみえない筈なのになんで見えるんだ?
そう、事の発端はあることがきっかけだった。
駅の改札を通り、ホームへ続く階段を歩こうとした時足を踏み外して一気に転がり落ちたことだ。頭を強く打って救急搬送された僕は搬送先の病院で不可解なものを見たのだ。
透けて見える人人人。
はじめは目を疑ったさ。
でもな、時間が経っても見えるそれはもう現実逃避をしているものだとばかり考えいた僕の考えをあっさり否定した。
死んだ人が見えるのだ。
それだけじゃなかったのは入院することになったその日の夜の事だった。
消灯が9時という事で早々に電気を消され、眠る事もできなかった僕はカーテン越しに不気味なものを見る。
それは真っ黒な影だった。てっきり看護師が来たのかと思ったが、ドアを開けた音がしなかったので違うとわかった。
じゃあ何?
恐怖と好奇心が僕の心を支配した。
見たい、でも怖い…。
どうしよう…。
考えた。考えているうちに影は動きふっとかき消すように消えた。
その時だ。
アラーム音が響き出したのは。
僕はすぐに看護師を呼ぶブザーを押した。
程なくして看護師が走ってやって来た。
そして音がなる方へと走って言った。
「大丈夫ですか?斎藤さん。」テキパキと動き他の看護師と医師を呼ぶ。
走りこんで来た医師と看護師はカーテン越しに何かをしていたようだ。それでも音は鳴り止まない。
ツーーーッ。
心停止したようだ。
必死の蘇生の努力もむなしく斎藤さんと呼ばれる人は亡くなった。
僕は何を見た?
あの黒い塊は何だったんだ?
もしかして死神?
そう考えると怖くなってしまい、ガタガタと震えていた。
するとカーテンをめくって看護師が入って来た。
「大丈夫?真っ青だけど。」
「はい。…大丈夫です。」
「そう…もしかしてあなたがブザーを押したのは…。」
「はい。向かいの音が気になったので…。ただ事ではないかもと。」
「知らせてくれてありがとねー。でも結局助からなかったのよ。残念だわ。」
そう言ってカーテンを閉めて看護師は部屋から出て言った。
亡くなった方を乗せたベットを持って…。
それから翌日、僕は検査の結果なんの異常もないという事で退院となった。
自宅に帰る途中も道のあちこちで透けた人を見た。多分もう亡くなっている人ばかりだ。
正直怖いという気持ちはとうに消えていた。ただかわいそうという感情に支配されると霊がついてくるみたいなのでその感情だけは殺して。
慣れは怖い。
見えることに慣れてしまった僕は、目で追っていた。そう、歩きながら死んだ人が取る行動に見入っていたのだ。
そのまま立ってボーッとしている人、その場をグルグルと回り続ける人。
泣いてる人など。。。
あまり見過ぎると相手が気づいてしまうかもしれないと視線をそらすこともした。
そんなある日、僕は見たくないものをまた見る事に…。そう、例の黒い塊だ。
それはある人の頭上に浮かんで見えた。
そう、母親の頭の上だ。
たまにしか会わない母親は歳もとってはいたが、元気そのものだったはず。けれども今見ている母親は疲れ切った顔をしていた。
きっと毎日の生活の中で疲労がたまっていたのだろう…。
でもどうして…としか思えない。
入院しているでもなく、普通に生活してるのに何で?と聞きたいくらいだ。
それでも黒い塊は頭上から消える事はなかった。
それから数日後、母が倒れたと父親からの連絡を聞いて僕はいてもたってもいられずに病院に急いだ。
マスクをつけて機械に繋がれている母親を見るのは痛々しく見ていられなかった。
そこに黒い塊が…いた。
人の姿をとることはなく、ただ何と言ったらいいのだろう…塊が母に近づいて行く。
僕は慌ててその塊から母を守ろうとしたのだが、看護師に遮られた。
「今はまだ無理なのよ。麻酔で眠っているから。起きたら教えるわ。そうしたらいらっしゃい。」そう言って僕の目の前でカーテン越しに遮られた。
僕はイライラしたが黙ってその場から離れた。その時黒い塊はまだ天井にへばりついていたが、再度見て見た時には消えていた。
心配だったが、どうしようもならない。
諦めてドアを開けて病室から外に出た。
重たかった空気が軽くなった気がした。
それから数日ののち、母は帰らぬ人となってしまった。あの塊を見たせいだと僕は思った。でもどうして…その思いは消えない。
今度見たら捕まえてやろうと考えていたのだが、そういう時に限ってなかなか現れなかった。で、次に現れたのは友人の頭の上だった。友人はその手の話を信じ、唯一仲がよかったやつだった。そいつの頭上にあの塊が。
正直話そうかどうしようか悩んだ。
でも結局話さないままそいつとは別れた。
どうしよう…あいつも死んじまうのか?
やりきれない思いが僕の心を支配した。
とにかくあの黒い塊さえなくなればなんとかなるはず。
でも…どうすれば無くなるのかなんて分からない。
困った…。
そこでネットで手当たり次第に調べてみることにした。そこでわかったことは少ない。
そもそもその黒い塊なんぞ見た人がいないのだ。ネット上にはそんなことどこにも書かれていない。ただ、死期が近くなると顔色が悪くなると言うのは興味深かった。
確かに母さんの時はそうだった。でも友人の時はどうだ?顔色までは見てなかった気がする。そこで友人に電話をして見た。すると電話越しに咳き込む友人の声が。
「風邪?」
「多分な。でも大丈夫だ、そんなにひどい咳じゃない。」
「病院へは?」
「大丈夫だって。たいしたことないよ。きっとただの風邪さ。最近ちょっと体調が悪かったからさ。」
「…僕がついてくから行こうぜ?嫌な予感がする。」
「なんだよ、それ。まるで大病の扱いじゃん。」笑っているであろう友人の顔が目に浮かぶ。
だが僕は安心できなかった。
そう、塊は彼の頭上に浮いたままのはずだから。
すぐに友人宅に行くと笑って出迎えてくれた友人の顔色は悪かった。
「何だよ。きみわりーな。お前こそどこか悪いんじゃね?」
そうは言われてもそいつの事が心配で本当のことを言えずにいる自分が嫌だった。
「あの…さ。信じられるか?」
「何を?」
「死神が見えるんだ。」
「またまたまた…悪い冗談言っても何にも出ないぞ?」
「だよなぁ〜。普通はそうくるよなぁ〜。」
ため息をついた僕の姿を見て友人は何かを感じ取ったように話し始めた。
「おい、もしかしてまじか?」
「ああ、マジもマジ大マジだって〜の。だから困ってるんじゃん。」
「お前いつから…そんなことはどうでもいい。じゃあ何か?もしかして俺のそばにいるってか?」
「ああ。」
「マジかよ〜〜。でどうなってる?」
「そばに浮いてる。…気持ちわり〜。」
友人はガタッと音を立ててその場を離れたが、黒い塊も移動する。その事を告げると顔色が悪くなっていく…。
「俺、死ぬのか?死ぬんだな。おい、正直に答えろよ!いつだ?いつ死ぬんだ?」そう言いながら両肩を揺すられて何も言葉が出なかった。
はっきりとはわからないのだ。
いつとは言えない。
両肩をガックリと落としている友人の姿は見ていてつらかったが、何とかしなければという思いしか思い浮かばなかった。
診察は特に問題なく終え、今は帰宅の途中だ。友人は1人になるのを怖がり僕は一晩泊まる事になった。僕も正直怖いよ。今日は良くても明日は?明後日は?
友人のパソコンを借りてネットで色々と調べ始めた様子をただボーッと見ていた友人だったが、僕が何をしているのかを知ると積極的に動き始めた。とにかく動いて気を紛らわせるしかない。そう思ったのかもしれない。
実際がそうなのだから仕方がないのだが…。
そんな時、一件ヒットした。
死神を追い返す方法。
食い入るように見つめる友人。
藁にもすがる思いで書き込みページを開いた。するとそこには真っ暗な画面が。
暫くすると血が流れ落ちるような画面に変わりサイトが立ち上がったのがわかった。
【ようこそ。ここは死神から助かるための特別な場所。本当に知りたい方は覚悟を決めて見て下さい。では。】
そう始めに画面が出て、エンターキーを押した。
するとおどろおどろしいイラストが。。。
そして本題に入った。
内容を読んで真っ青な顔がさらに真っ青になっている友人を見るのはつらかったが、助かるためにやらなければならないことがあった。
生贄が必要だったのだ。
代わりの命が必要だ。
どうする?どこから調達する?
ためらっている暇はなかった。
なぜなら友人にもはっきりと見えたのだ。黒い塊が。
なぜ見えるようになってしまったのかはわからないが、時間がないであろうことはわかった。
友人は1人になって考えたいと言って僕を追い出した。
何をするつもりだ?
まさか生贄を差し出すつもりか?でも何にするのかは聞いていない。
ぶるっと背筋が震えた。
それから数時間、友人の頭の上からあの塊は消えていた。
どうやらいなくなったようだ。でも気になった。生贄は何にしたのかという事を。
友人に何度も聞いてたのだが、何も答えてはくれない。そんな時、学生時代の友人の1人から連絡が。
いじめっ子が亡くなったって。
まさか…ね。
きっと偶然だろう。
友人の顔を見た時、一瞬だがニヤリと笑う顔を見た気がした。
しかしそれ以降僕はその塊を見ることはなかった。
夢でも見ていた気分だ。
友人とはそれ以降あっていない。
何故って?
聞きたくなるからじゃないか…。
生贄は誰だったのかを。




