〈一章〉中二病生徒会長、参上(1)
『幸せと不幸せは、同じ比率で存在するものである』
子供の頃、父親に読んでもらった本にそんな一文があったことを覚えている。今は亡き研究者・反旗翻牙の言葉だ。
彼はこの言葉の後にこんなことを述べている。
幸せなことがあれば、不幸せなこともある。逆に不幸せな出来事の後には、必ず幸せなことがあるとも言える。
その比率は一対一になっている。幸せや不幸せと呼ばれるものは、言ってしまえばコインの裏と表のようなもので、それが訪れるのは二分の一の確率なのだ。
そしてそれは、この世界に生まれてきたものすべてが、同じように与えられるものである。死ぬ時が早かろうと遅かろうと、生活環境に恵まれていようといまいと、その比率が覆されることはない。
しかし悲しいことに、それらの概念は人によって感じ方が異なる。ある者が幸せと感じていても、他者には不幸せと感じることもある。
幸せとはまったく持って曖昧で不安定な存在だ。
それでも私たちはそれに憧れ、追い求め、感謝するのである。
私はその不確かな存在が、人を生きようとさせる動力の一つなのではないかと思う。
それから時が流れ、こうして高校生にまで成長した今でも、この本を読み終えた時の記憶は鮮明に覚えている。
そして多分、これからも忘れることはないと思う。
根拠は何一つないけれど……。