第六話
今回は短めです。
アンクセス側の視点
「何が起こっているのだ」
リガード王は目の前で繰り広げられている惨劇に恐怖した。僅か千足らずの部隊が篭っている陣地など鎧袖一触であると、第一陣に突撃を敢行させた。途中にある障害物に差し掛かり突破に手間取っている瞬間それは起きた。銃声が鳴ると同時に第一陣の兵士達に対して12.7mm弾が50門のM2重機関銃から斉射されバタバタと血飛沫を上げ、12.7mm弾の被弾により着弾部位は吹き飛び、衝撃が前進に伝わりショック死する。まだ生きている兵士も出血多量により死亡していく。リガード軍本隊は目の前で起きている殺戮の嵐を目撃し、激しい動揺をきたしており、部隊の隊長達が必死に部隊を鼓舞し、戦列の瓦解を防ごうとしている。また本隊中央で指揮をおこなっているリガード王や家臣達の間にも衝撃が走った。
「陛下どうかお下がりください。一旦引き体制を整えるべきです」
将軍の一人がリガード王に撤退を求めるが、リガード王は怒りに満ちた目で発言した将軍を睨みつけ、腰に差した剣を抜き放ち、将軍の首を跳ねた。
「臆病者や逃げようとする者は、余が直々に首を跳ねてくれる。あの場所を突破し、敵との白兵戦に持ち込めば勝機は訪れるはずだ。全軍突撃用意、大規模魔法であの陣地を吹き飛ばせ」
リガード王が剣を掲げ突撃を命令した瞬間、アンクセス軍の後方に左右の森を低空で飛行し、後方へ回り込んだAH-64D アパッチ・ロングボウが将兵たちの後方に姿を現した。そしてリガード王達が驚き振り返った瞬間、AH-64D アパッチ・ロングボウのM230 30mmチェーンガンとハイドラ70 FFARロケット弾が発射された。王宮魔術師達が咄嗟に魔法障壁を展開するが、障壁をあっさりと貫通した30mm弾が暴虐の限りを尽くし、肉片を量産していく。またロケット弾による熱や爆風により、広範囲の兵士達が殲滅され細切れになった肉片が散乱し、焼けた肉の臭いが充満した。そんな悪夢のような光景を見つつリガード王が自分の体を見つめると、右足が吹き飛び大量の血液を流している。まだ息があり意識があるのは、上級の魔石により生命力を強化しているからである。周囲は血の海となっており、リガード王はその光景に戦慄した。
「一体何が起こっておるのだ、誰かおらぬか余を助けぬか」
必死になって助けを呼ぶが応答するものはいない。そして絶望に打ちひしがれているリガード王の体を再び射撃を開始した30mmチェーンガンが吹き飛ばした。
王を失い錯乱したアンクセス軍は恐慌をきたし、逃げ場所を求めるように平原中央へと追い立てられていく。途中、荒い息を吐きながら誰かが隊列を組むように支持する者がいるが、すでに敗残兵の体を晒しており、統率された動きは不可能であった。
「どうなってるんだ畜生」
「楽勝な勝ち戦じゃなかったのかよ」
「あの糞王め、次会ったら必ず殺してやる」
「指揮官もほとんどやられた、これからどうすりゃいいんだよ」
「とにかくここから逃げるんだ」
誰ともなく、そのような言葉が出て、バラバラに逃げ出そうとした瞬間、戦車と自走砲から発射された榴弾による攻撃が開始され、ほとんどのアンクセス軍兵士がその命を落とした。左右の森に逃げ込んだ者も
クレイモア地雷などのトラップにより壊滅した。
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平原中央の敵部隊が殲滅されると、後方にいたアンクセス軍が白旗を上げ降伏を示している。一頭の騎乗した人物が白旗を持ちながら陣地へと向かってくる。キリエは数人の兵士を迎えに行かせ、武装を取り上げた後に降伏の使者との面会に臨んだ。
「アンクセス王国王子アーガイル=アンクセスだ。リガード王及び私以外の王子は戦死したため、私が現在のアンクセス王国のトップであります」
「この部隊の指揮官のキリエ=バーンハルトです」
陣地内に張られた天幕の一つに入りアーガイルが名乗り、キリエも名乗り返す。自己紹介が済むと椅子に腰掛け会談が始まった。
「我が国は貴殿達に対し無条件降伏をいたします。こちらから侵攻しておきながら身勝手ではありますが
どうか認めていただけないでしょうか」
開口一番にアーガイルがテーブルに頭が着くほどに頭を下げた。キリエ達は無条件降伏を勧告するつもりであったが、平身低頭なアーガイルの態度に困惑を隠せずにいた。その疑問を解消するためにキリエは質問をした。
「何故、アーガイル殿は然したる交渉も行わず、無条件降伏を申し出られたのですか?普通なら、再帰を図るために撤退するとおもうのですが?」
「理由は幾つかありますが、先ほどの戦闘により貴軍との圧倒的な差を見せつけられたにより、例え撤退したとしても我が国が負けることは確実と考え、無駄な抵抗により、国民を傷つけるよりも、無条件降伏することで被害を最小限に抑えようと考えたからです」
キリエは納得し頷くと、降伏を認め、降伏の具体的な内容をアーガイルを含めて審議を始めた。数時間に渡る話し合いの結果、内容は以下のようなものに纏まった。
一、アンクセス王国は解体され、キリエを首班とした国家として再編される。
二、アンクセス軍の武装解除
三、アンクセス王家の資産の接収
四、軍が再編されるまでの間、国防をキリエ達が担う。
他にも細々とした取り決めはあるが、大まかな取り決めは上記の通りである。
アーガイルとの会談が終わると、キリエは救護所へと向かった。途中、アレドとアンクセス王国の王都の治癒師が集められた場所へと赴き、救護所での治療を依頼した。治癒師達を連れて到着した救護所内は先ほどまでの戦場とは違った戦場が広がっていた。味方の兵士は軽症者が数名いる程度であったが、アンスセス軍の兵士も同時に治療を行っているため、フェリアや衛生兵は戦闘が終わった現在も治療を続けている。最もほとんどが重症患者であり、体の部位を破損している者も多くいるため救えている人数は多くはない。
「キリエさん、どうしたんですか?」
救護所の天幕の中から上級治癒魔法を行いつつフェリアが話しかけてきた。笑顔ではあったが、全体的に青白く疲労が溜まっているのが端からみても解る。戦闘後、衛生兵の救援が基地から到着してはいたが、上級治癒魔法を使えるフェリアでなければ対処できない患者も多いためどうしても働き詰めになってしまっているのである。キリエは集めた治癒師達に治療を要請した後、疲労と交代が来たことによる安堵から意識を手放したフェリアを抱え、基地へと帰投する医療ヘリに乗せた。
負傷者の治療と同時に問題となったのが、平原や左右の森に散乱する死体の処理である。放置すればアンデット化や疫病の原因となるため早期に片付けなればならない。個人別での埋葬は不可能であるため、陣地を構築した時に使用した重機を使い、穴を掘っていく。同時に周辺の村人に金を渡し、死体の埋葬を手伝ってもらう。周囲にはすでに血の臭いに釣られ集まってきた魔物もいるため、補給を済ませたAH-64D アパッチ・ロングボウが上空を警戒し、一個中隊が分隊ごとに別れて周囲の魔物を駆逐している。
「キリやん、事後処理は残ってる部隊に任せてアレドの方へ行かんか?ここにいても何もできんし精神衛生上も良くないで」
端末からジェネルの声がこちらを気遣うように話しかけてくる。
「そうだな、ダグさんにも会わなくちゃいけないし、一旦アレドに戻ろう」
キリエは喉まで込上がっていた。胃の内容物を無理矢理飲み込み、ヘリに乗り込みアレドへと向かった。
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アレドに到着すると、ヘリの音を聞きつけダグがアレドの正門まで出向き出迎えてくれた。周囲にはギルド職員と街の有力者がいるため、アレド内の掌握が成功したことが解る・
「無事だったがキリエ、ドゥーム平原での戦いの行方は把握しているが、一向に来ないから負傷でもしたのかと心配したぞ」
「心配させてすみませんダグさん。街の方はどうですか」
「先のギルド内での戦闘の負傷者の治療は完了し、話し合いの結果アレド内の全権をキリエに委ねることで住民を含め同意させた。これで東方の開拓地はキリエの傘下に入るよ」
ダグと周囲にの人達が一斉にキリエに頭を下げる。
「いいんですか、住民の多くが魔力の無い、俺を嫌っていましたし、これまで保ってきた独立自治を放棄しても?」
キリエが驚き、真意を確認しようとする。
「構わんよ。アンクセス軍がアレドを襲えば略奪により、財産を失い、住民のほとんどが奴隷身分に落とされていただろうし、女性は犯されていただろう。キリエはこの街を救ったのだ遠慮することはない。魔力が無いことでの差別も少しずつ解消されていくだろう」
話が終わり街の中に入ると、すでにどんちゃん騒ぎが起こっていた。アンクセス軍が襲来すると聞いて絶望していたが、ダグによりアンクセス軍の侵攻が失敗したことが告げられると街を上げての祝いの祭りが開始されたのである。
キリエは祭りの中心に連れて行かれると無理矢理に飲まされ、住民たちのお礼の言葉を聞く内に夜は更けていった。
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