第三話
腕輪から得た知識により、ここが軍事工場であることを把握したキリエは、壁に記されていた地図をたよりに、工廠の制御室へと向かった。途中忙しなく動き回る影を見かけはしたが、埃がたまり、物が散乱している以外障害になるものはなかった。
「兄ちゃん、誰や」
制御室に到着すると突然部屋に声が響いた。
「誰かいるのか?姿を表せ!」
「それは、わいの質問やて兄ちゃん」
ザザザと目の前のモニターにスノーノイズが映った後、黒髪の二十代くらいの細めの男性がアップで映し出された。
「お客さんは、1万5218年ぶりやな、それと質問繰り返すけど兄ちゃんなにもんや」
キリエは目を瞑り、深呼吸をした後自分でも確認すように問いに答えた。
「俺はキリエ=バーンハルト、アレドで冒険者をしている者だ。歳は15でギルドランクはEランクだ。質問を返すがあんたは誰なんだ?」
「わいはこのセントバレル軍工廠を統括するメインコンピュータや、施設が稼働してた時にはジェネルと呼ばれてたから兄ちゃんもそう呼んでくれ」
「ジェネル、さっき人間と会うのは1万5218年ぶりとか言ってたけど、ここはどういった場所なんだ?軍関係の工場なのは解るが・・・」
「ここか?ここはセントバレル軍工廠、西暦2080年にアメリカ軍の再編成に伴い兵器の生産・整備・開発の一大拠点として建造されたんや。生産は完全自動化されててや、あらゆる兵器が生産可能なんや。ただ設計データを入れたサーバーの破損やメンテしきれんかった設備が多いから生産能力の関係上2020年くらいまでの生産しかできへんけどな。それでもどやすごいやろ!」
「アメリカ?西暦2080年?生産の完全自動化?、御免半分も分からん」
「は~まあすごい兵器工場やと思っといたらええよ。」
「そんなすごい兵器工場がなんで放棄されてるんだ?」
「え~とな、西暦2128年に宇宙の法則が変わるほどの大事件が発生したんや。自然災害や戦争により絶滅寸前まで減った人類は宇宙の法則が変わったことにより、魔法が使えるようになり、それを利用して生き延びたんや。代償として魔力を持つ人間は、精密な機械を扱うと拒絶反応が出るようになり、その過程でこのセントバレル軍工廠も廃棄されたんや。」
モニターの中でジェネルが胸を張り、鼻を伸ばした。正直イラッとくる。
「魔法は神が人間や亜人に与えたって教えられてるが?」
「ちゃうちゃう、進化の過程で偶然生まれたんや。…てゆうか亜人てなんや、もしかしてエルフとかドワーフがいるんか?」
「他には獣人とか魔族もいるけど、昔からいるだろ。特にエルフは長生きなんだし」
「いや~知らん間に世界はアニメや漫画みたいな世界になってたんやな~」
「アニメ?漫画?」
「それは気にせんでええ。しかしそれにしては兄ちゃんからは魔力が計測されへんな」
「俺には魔力が無いからな」
「マジ、それやったらちょうどええこの工廠使ってみいへんか?」
「いきなりだなおい。仮に使えたとしても兵士がいないんじゃ大したことは「兵士ならDMAマップとクローン製造装置があるからなんとかなるで」出来ないだろ」
( ゜д゜)ポカーン
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東方の開拓地の西ある新興国家アンクセス王国、長年東方の開拓地の領有権を主張している国である。キリエがジェネルと出会ったその夜、王都アンクセリアにある王宮。王の私室に夜遅く訪れている者があった。
「それで、首尾はどうなっているエンデルク殿」
アデル=エンデルク、アレドのギルド長であると共に、東方の開発地の責任者でもある人物。でっぷりとした体も精神も豚のような男であり、ライバルを蹴落とすこと能力だけは高く。偉いものには媚、弱いものをいびるのが好きな男である。キリエに対しても多くの嫌がらせをおこなっている。
「もちろん整っておりますリガード様。アンクセス王国がアレドへと侵攻した際には、城門を開けると共に、抵抗を一切できないよう、兵士や冒険者たちには眠ってもらう算段になっております。永遠に」
リガール王は「うむ」とうなずくと、立ち上がり、天井を見上げた。彼は賢王と呼ばれる父を持ち、優秀な兄が病により早世したことにより王となった男である。そのコンプレックスから東方の開拓地を手に入れることで自分を周囲に認めさせようとしている。
「今回の件が上手くいけば、東方の開拓地を我が国の領土とする悲願を達成することができる。あの世にいる父や兄も俺を認めざるだろう」
「その通りでございます。つきましてはお約束しておりました件につきましてはよろしくお願いいたします」
「もちろん、成功の曉にはお前を我が国の侯爵として迎えてやる」
「ありがたき幸せにございます」
その後。エンデルクが部屋を退出するとリガール王はボソっと呟いた。「名誉の戦死者としてな」
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あれから三ヶ月、魔力が無い俺はこの工廠の主となり、諦めかけていた自分の生きていける世界を造るという夢を実現するためにジェネルの協力を得て戦力を確保していた。クローン兵自体は一般兵用が500人、指揮官用が30人冷凍睡眠されていたので即時解凍をおこない。整備用ロボと共に基地内の掃除に始まり、兵器やクローン兵の生産を勧めていた。
「キリやん、CH47チヌークを格納庫から出しといたから三番出口から出ると近いで」
ジェネルから渡された端末から楽しげな声が響いた。
「ありがとう、ジェネル助かるよ」
地上へと続くハッチを開け50mほど離れた所にタンデムローター式の大型輸送用ヘリコプターCH47チヌークがエンジンを始動させ待機しており、護衛のロック軍曹が声をかけてきた。
「いつでも離陸可能であります。キリエ様」
キリエが乗り込むと同時にヘリは発進し、徒歩で数日かかったアレド近郊へと2時間程度でたどり着き、人目のつかない所へと着陸した。
「五日後に迎えに来てくれ、何あればジェネルに連絡するから気をつけて帰還するんだ」
「了解であります。キリエ様もお気をつけて」
ロック軍曹は敬礼をすると、パイロットに離陸の合図を出し工廠へと帰還していった。
「アレドまで2時間程度、のんびり行きますか」
キリエはあくびを噛み殺しながらアレドへと向かった。
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2時間後、キリエはアレドへと到着すると、ギルドへまっすぐに向かい、ダグさんに久しぶりに挨拶しようとドアをくぐった瞬間に腹部へと衝撃がはしり、訳が分からないまま頭を床へと叩きつけられ、路地裏へと引きずられていった。
「魔力も無い恥さらしがギルドへと顔を出すんじゃねえよ、このクズが」
「あ~あよくまだ恥ずかしげもなく生きてられるよな、俺なら恥ずかしくて無理だわ」
「マジ受ける、這いつくばってる姿が似合いすぎじゃん」
剣士の男三人、女魔道士一人のパーティがキリエを囲みつつ、リンチを開始した。殺すと罪状がギルドカードへと自動で記載されてしまうため、殺しはしないが容赦ない蹴りや槍の石突の部分での刺突が繰り広げられ、聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせかけられる。
小一時間ほど経つとキリエを嬲ることに飽きたのか、四人組のパーティーのリーダーである長身の男が笑いながらキリエの髪を引っ張りながら話出した。
「最近顔出さないから、くたばってくれたのかと清々してたのに、なんで死んでないんですかあ~あ」
「リーダ~そんなクズほっといてギルドマスターの所に行きましょアルフレッドさん。時間の無駄すよ」
「チィ、もうそんな時間か、おいクズ次に姿見かけたらこの程度じゃすまないからな!」
リーダーの男はもう一度キリエの頭を踏み付けると、最後まで笑い続けていた女魔道士の肩に手を回してその場を去っていった。
キリエは、その場で自分の血で汚れた顔を布で拭い、体の調子を十分ほど確認してからギルドのドアをくぐった。この程度は日常茶飯事であったので、怒りを心の奥へと押し込めながらダグさんの元へと向かった。
「キレエさんどうしたんですか!」 「キリエ誰にやられた!」
いつものカウンターへ着くとダグさん共にフェリナがこちらに気づいた。
「階段で転んだんですよ」
「いや、嘘下手すぎだろお前、相手を更に心配にするだけだぞそれ」
「そんなことより早く治療しないと、治癒魔法をかけるので向こうのテーブルに座ってください」
ギルド内にある待機用の複数のテーブルへと強引にキリエを運ぶと、打撲がほとんどにも関わらず、フェリアは上級治癒術を使いキリエを治療したため3分後には痣すらも残らず完治した。治療が終わるとキリエを抱きしめてフェリアは泣き出してしまった。
「そこまで、手ひどくやる奴は、この時間帯には滅多にいないはずなんだが、「銀狼の爪」の奴らがギルドマスターに呼ばれたらしくてな。ギルド職員は冒険者同士の喧嘩に口出しできないとはいえすまなかったなキリエ」
ダグさんが心底すまなそうに謝ってきた。この人のせいではないのに本当にお人好しな人だ。
「フェリア、俺は大丈夫だから泣き止んでくれ、治療院での仕事がまだ残っているんじゃなのかい?」
「でもキリエさんをほっとくわけには…」
「もう大丈夫だから、フェリアの治療を必要としている人が待ってるよ」
フェリアは、何どもこっちを振り向きながも、治療院へと向かっていった。
「相変わらず、酷いことする奴もいるな。魔力が無いからといってそれだけでその人間の価値が決まるわけではないだろうに」
ダグさんは、遺跡への道中で俺が採取しておいた薬草を精算しながら、慰めるように話しかけ、いくらかの金を俺に渡した。
「…日が悪いみたいなので、今日はもう帰ります。」
キリエはそれだけ言うとギルドを出て、宿屋へと向かった。
「キリやん、落とし前はつけんでええんか!」
宿屋の部屋へと入ってすぐジェネルのドスのきいた声が端末から響き、部屋の温度が下がるような感覚をキリエは感じた。
「どうもしないよ、よくあることだしね」
「キリやんはそれでええんか、わいはあいつらのしたことに腸が煮えくり返りそうやわ、腸ないけどな」
「心配してくれたありがとうなジェネル、でも俺は大丈夫だから気にするな。もちろんこのままでいいなんて俺も考えてはいないよマゾじゃあるまいし」
「は~キリやんは人が良すぎるで」
その後、キリエとジェネルはたわいのない会話をフェリエが夕食に誘いに来るまで延々と続けていたのであった。
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キリエがジェネルと宿の部屋に入った頃。ギルドの一室にエンデルクギルド長と「銀狼の爪」のメンバーが集まっていた。
「それで、俺たちに依頼ってなんだよエンデルクさんよ~」
「銀狼の爪」のリーダーアルフレッドがめんどくさげにエンデリクに質問した。
「以前話していた計画を実行する。お前たちに頼むのはアレドの兵士や冒険者に宴会を開き毒を盛る。お前たちはその後、生き残った奴らを殺して回ればいい。成功すればお前たちAランクの冒険者となり、私はアンクセスの貴族として迎れる。ブヒヒヒヒヒ」
部屋に下品な笑い声が響き「銀狼の爪」のメンバーが眉を潜める
「そういえば、あの魔力無しはとびきり酷い殺し方をしてやらないとな~」
「キリエ=バーンハルトか、魔力が無いものなどそこまで気にする価値がないと思うがな」
「ムカつくんだよ。あいつが来た当初はギルド全体があいつを排斥しようとしていたのに、今では一部で認めらつつある。そんなこと許しておく訳にはいかんでしょ」
「兄貴のゆうとおりでさ~」
「好きにしろ、ただし失敗は絶対に許されん。作戦の決行は10日後、祭りの晩。話は以上だ」
話が終わると「銀狼の爪」が退出し、エンデルクは前祝いとばかりに酒盛りを始めた。
小説を書くのが大変であることを思い知らされる今日この頃であります。
読んでくださった方ありがとうございます。
次の話から戦闘が始まります。