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つもるはなし、つまりよもやま ―夏の巻・英秋編―  作者: 佐野隆之
第2章 一年後(いちねんあと)
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第2部 対まほろば女性陣

 この時、傍目(はため)コンパな雰囲気を作っていた俺達男四人とまほろば女子四人。ティファニーとさくらちゃん。そして顔は知ってるが話はまともにしたことがない二人。そうだ。ここにあの出来すぎた女はいなかった。


 俺は彼女たちが座るのを見計らって言った。

「顔は何度か見てるけどこうやって話しするの初めての子がいるね」

「それ、私達ですよね?」

 と茂の横に並んで座っていた名前を知らない女性二人は顔を見合せ言った。

「そうそう。あ、まずウチのメンバー紹介しとくか。こいつがギターの誠でその隣がベースの一郎。そして俺の横がドラムの茂。で、俺がボーカルやってる英秋」

 俺の紹介をにこやかに聞いていた二人は俺に顔が見えるように顔を覗かせ自己紹介してくれた。

「イ・ハヌルです」と低いトーンで落ち着いた声を響かせた彼女だが声からの印象とは違い、見た目は爽やかでさっぱりした感じだ。

「長嶋美由紀です。ちなみ私は役者じゃなくてメイクと衣装担当の裏方ですけど……」

 と照れ臭そうに言った彼女は丸顔で控えめな印象の顔つきに、なるほど納得な柔らかく感じの良い化粧を施している。二人とも俺達よりは若いだろう。

 そんな二人の自己紹介が終わったところで誠は美由紀さんの言った事へ、嘘臭いほどの大きな反応をして場を盛り上げてくれた。

「ええっ!? 役者さんじゃないの? 全然そんな感じしないよ」

 と、この誠の反応に対して一斉にみんなが声を出して笑った。すると誠は怪訝な顔つきで周りを見渡して言った。

「なんだよ、その笑い?」

 一郎が誠へ言う。

「誠。それ、まほろばさんの舞台観てないって告った様なもんじゃん」

 一郎の言葉に誠は「あ」と小さく漏らし顔が固まった。みんなそれを見てまた一斉に手を叩いて笑うと誠は慌てて大声で言った。

「いやいや、そうじゃなくてぇー、美由紀さんが舞台に上がらないのはもったいない、おかしいと言ってるんだよ。だろ? 茂?」

「マコトぉー! 俺に振るなって!」

 茂は大きなメガネフレームの中の目を開き言うと再び場は笑いに包まれた。誠の奴はそのままこの笑いの勢いでさっきの話を流すと今度は随分と遠慮気味に声を出した。

「ところでさぁ……ヒメちゃんは?」


 俺が気づいたんだ。誠の奴が気づかない訳がない。


 誠の質問にさくらちゃんは顔を歪め椅子を倒すほどの勢いで仰け反って言った。

「うわぁーっ! やっぱり言われたぁ!」

「ヒメいないの分かった?」とティファニー。

「当たり前でしょ」と誠はキッパリ。そして大きく頷く一郎もキッパリ言う。

「あの子はオーラが違う」

 俺と茂は一郎の意見に納得して言う。

「だよな」

 俺達の意見に何を思ったのかティファニーは眼鏡をわざわざ外し言った。それも異様な上目遣いで。

「ああぁーやっぱし? ヒメがいないとダメ?」

 俺たちはティファニーが言い終わるや否や揃って手を叩いて大爆笑した。

誠「なんだよティファニー! その不気味なダメ? は?」

俺「その作ったかわい子ぶりは、でらウケ」

一郎「最初は俺らと飲むの遠慮しておくなんて言ってたくせに」

 そしてティファニーは目を丸くして言う。

「何、みんな揃って。ここ笑うところじゃないわよ! もうとにかく私も冷えたビールちょーだい。そしたらヒメのこと教えてあげる」

「じゃ、これでも一つどーぞ」と誠は自分飲んでいた缶ビールをすっとティファニーの前へ置いた。

「ありがと、誠ちゃん」と言ってティファニーは缶ビールを手に取り持ち上げるとすぐさま叫んだ。

「って誠さん! 飲みかけ渡すか!? しかも空じゃん!」

「ってティファニー。キミ、俺の飲みかけ飲んだろ?」と透かさず俺が言ってやるとティファニーは「冗談冗談。で、みんな何飲む?」と何事も無かったかのように涼しげに女性陣へと聞いた。

「あ、じゃあ、なんか食うものも一緒に」

 俺はカス程度の食い残ししかないテーブルを見てすぐ彼女たちへ言うと俺達に気を使ってかハヌルさんがにっこり笑って言った。

「食べ物は大丈夫ですよ」

 そして続いて言ったティファニー。

「うん。もうすぐヒメちゃんが来て私たちに広島お好みを作ってくれるの」

 この言葉に俺達は口を揃えて大声を出した。

「マジでぇっ!?」

「いいでしょー」と自慢気な顔を見せた女性陣。

「だから、どうしよ? とりあえず軽いつまみ程度でも頼んじゃおうかな?」とティファニーは言って隣の空いているテーブルからメニューを手に取り品定めに入ったところへ誠が聞いた。

「またどうしてヒメちゃんが広島焼きを?」

 その誠の質問を耳にした茂は「そうそう」と興味津々な顔で身をのりだし、俺と一郎もうんうんと頷きティファニーを見た。

「うん、ヒメちゃんね、こっちへ来る前まで広島にいたんだって」

 ティファニーはメニューへ話しかけているかのようにメニューに見入っていた。するとさくらちゃんが頬杖ついたまま笑顔で詳しく語ってくれた。

「この前ここで喋ってた時、お好み焼きの話題になって、そしたらヒメちゃんがね、広島に長いこと住んでてよく自分でも作って食べてたって言ってぇ、そしたらみんな食べたい食べたい! てなって、そしたらそしたら彩乃さんまでちょっと私に本場の広島お好み焼き教えてよ、なんて展開になって。で、今日はここでヒメちゃんお手製広島お好み焼きを食べちゃおうってなったんですよー」

「へぇ」と俺達は首を縦に振る。そして俺はさくらちゃんへ聞いた。

「で、ヒメちゃんは遅れて来るの?」

「そう。バイト帰りに材料買ってから来るって」

 とさくらちゃんがサラッと言った言葉に俺と誠は言った。

「みんな冷たいなぁ」

「買い出しくらいみんなで行ってあげればいいのに」と俺。

「そうだよ。せめて俺に言っておいてくれれば付き添ったのに」と随分な残念顔を見せた誠に俺は笑った。

「すみません、遅くなりました」

 俺たちの会話の中に別の女の声が入り込んできた。俺はその声の方、後ろを振り向いた。

 そう。噂をすればだ。そこには相変わらずの出来すぎた女が瞳を輝かせ立っていた。

「ああ、ヒメちゃん。いらっしゃい!」


 あれ? 俺、いつから彼女のこと普通にヒメちゃんなんて呼ぶようになっていた?

 まあ、それはいい。とにかく気が付けば俺は彼女をヒメちゃんなんて呼ぶようになっていたこの頃。きっと俺が彼女へ入り込むために助走を始めていたんだ、と思う。自分自身気が付かないうちに。

 それをちまちまと思い起こしている俺。こんなものを思い起こさなくちゃいけない状況を作り上げやがった桂介……いや、結局は誤魔化しがきかないところに自分が来ていたことを奴が俺に教えてくれた……違うな……そんな思いやりのある奴じゃない。でなきゃ俺の見聞きしてきたものは一体なんだったんだ?


 俺の心の乱れが始まっていく……

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