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つもるはなし、つまりよもやま ―夏の巻・英秋編―  作者: 佐野隆之
第1章 再会、そして出会い
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第2部 再会

 落ち着いた笑顔を見せていた彩乃さんへ俺は言った。

「もちろん分かりますけどね。でも身の丈ってもんがあるでしょ?」

「昔はあれくらいが当たり前だったのよ。今は簡単にフィルム・モニターシートにCGを映してリアルにも、わざと作り物っぽくも簡単に表現できるようになったからそんな風に考えちゃうかも知れないけれど」

「まほろばもそうすりゃあいいのに。時間が勿体ない気がするけどな」

「ヒデちゃんらしいコメントね」

 彩乃さんは今日のステージが終わり一段落ついたようで俺の正面へ腰かけリラックスした朗らかな笑顔を俺達に見せている。

 俺は彩乃さんとの話で思い出した。

「そういえば昔はボクらも毎度毎度、金槌で釘打ちやって、はいはいと指示通りに絵の具で色塗ってって桂介とかに声かけられてやらされてましたよ。なぁ誠?」

 俺の横へ座った誠へ声をかけると「懐かしいな。やらされたよな」と口にした途端、体を真っ直ぐに伸ばし大声を出した。

「あっ! 思い出した! 俺、その時、絵の具をさぁ、服に付けちゃって。俺てっきり洗濯すりゃあすぐ取れるかと思ったら取れないでやんの。あれはショックだったわぁ」

 俺も誠の話で思い出し手を叩いて笑って言った。

「あったな。そういやぁー。あいつらもエプロンぐらい用意しとけって言うの」

 俺たちの話に口を大きく開けて笑った彩乃さんが言う。

「特にアクリル使ってるからやっかいよね」

 すると誠は思い出した出来事をまるでついさっき起きたような勢いで彩乃さんへ向かって言った。

「彩乃さん! こっちは何も知らないから何も気にせず手伝ったらですよ! 自分の大事な服が汚れたんですよ?! これって恩を仇で返されたも同じですよね?!」

 彩乃さんは誠の反応に目を丸くすると柔らかく聞いた。

「それで汚れた服はどうしたの?」

「そりゃあ処分しましたよ」

 と俺たち二人は彩乃さんへ同情を誘うように言う。

「落とす方法あったのに。専用の洗剤もあるし」

「そんなの知りませんよ!」

 彩乃さんの言葉に俺と誠は同時に身を引いて大声を出した。彩乃さんはそれを見て愉快そうに笑う。そんな彩乃さんへ俺は強く言った。

「それこそ、そういう事は最初に言わなくちゃダメでしょ? 注意事項として。誠の言う通り恩を仇で返されたようなもんですよ」

「そうですよ。最初から知ってたらオーバーオールでも着て作業したのに」

 誠の意見に頷いて俺も言った。

「だよな。それならオーバーオールがいい感じに汚れて箔がつくってもんだ」

 

 そんな感じで俺たちがまほろば一座と絡んだ昔話に花を咲かせ始めた頃、すっかり人気(ひとけ)が無くなり暗く静かだった店の外が突如引き戸越しに明るくなった。そして間もなく男女入り交じった声が聞こえてきて騒がしくなった。

 すると誠が噂の女の事で気分が良いのか声を弾ませ言った。さっきまでの話はすっかり忘れたように。

「おっ、まほろば一座御一行様が御出でになりましたよ。搬入口を開けにいってやるか」

 誠の言葉に彩乃さんは「そうね。そうしてあげて」と言って立ち上がった。


「こんばんはーっ! ども、彩乃さん!」


 引き戸を勢いよく開け愛想良い笑顔で入って来やがった男。まほろぼ一座っていう劇団の代表をやっている桂介という男だ。高校のクラスメイトだったようだが、実際、俺は一緒だったことは記憶に無かった。なんか劇やってる連中がいるな。あんなん面白ぇのか? ぐらいだった。それが何が縁だか、まさかここで再会しようとは……いや、再会なんて洒落たもんじゃなかったわな。あれは。


――2051年・初夏


「あれ? オマエもしかして東条じゃねぇ?」

 俺は見知らぬ野郎にいきなりに呼び捨てで声をかけられ少し腹が立った。が、いちいち面倒くせぇから適当にあしらおうと思った。

「ああ、そうだけど、ごめん。誰だった?」

「あ、覚えてねぇかなぁ、俺、桂介。高校同じクラスだったじゃねぇか。覚えてねぇかなぁ」

 奴は相当な自信で俺とクラスメイトだったと言い切ってきた。悪いが記憶がない。

「ごめん。ちょっと覚えてないわ」

「そっか。俺は覚えてるぜ。塩漬け(いぬ)なんて()()()()な名前のバンドやっとったろう?」

 奴のこの言葉で簡単に思い出せた。顔だけ。名前は覚えていなかった。Salty DOGをわざわざ塩漬け犬と言った奴は後にも先にもこいつだけだ。

「悪い悪い。冗談だって、冗談。まだやっとったんだなバンド」

 奴はそう言って人懐こそうな笑顔で俺の肩を叩いた。

(なんて馴れ馴れしいやつだ。気持ち悪ぃ)

 そう思いながらも俺も奴と同様な愛想の良い笑顔を作ると奴へ指差し言った。

「ああ、そういえばオマエ、劇をやってた?」

「おお、そうそう」と嬉しそうに頷く奴へ俺は容赦なく聞いた。

「誰だっけ?」

 すると奴は安っぽいコントみたく大袈裟に前のめりに転ぶような動作をすると随分と楽しそうな笑顔で言った。しかも膝を叩くジェスチャーまで入れて。

「覚えてないのかよっ!」

 そして奴はそのまま俺に向かって手を伸ばしてきた。

「山田桂介だよ。桂介でいい。よろしくな」

 俺は一瞬戸惑った。そして奴のペースに乗せられた感はあったが自然と口と手が動いていた。

「ああ。東条だ。東条英秋。ヒデって皆言うからヒデと呼んでくれていいわ」と言って握手をした。


 まさか俺が覚えていなかったようなクラスメイトとこんな形で再会し、気がつけばバンドメンバー達とは違う距離感で奴と付き合うようになっていた。男の友情、Brotherhoodなんて言うような男臭く格好良い関係とは言わないカジュアル感の強い浅からず深からずの関係。友人以上親友未満ってところか?


 そしてそれが八年も続くとはこの時、微塵も思わなかった。

 そして奴の腹黒さを八年経ってようやく気付いた俺は相当のお人好しだということにもようやく気付いた。

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