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第4部 猿芝居(中編)

 気の毒なトモちんだ。トモちんは公演初日3日前の今日、桂介の野郎から作品内容を変えると突然言われ、ついでに遠藤香織まで辞めると言う話を聞かされたんだ。動揺するのは当たり前だ。


 俺は色々と可哀想なトモちんへ同情の気持ちを持って尋ねた。そんな俺も嫌らしい人間だ。

「で、ホントなのか? ヒメ脱退って?」

「アイツが言うならそうだろ」

 トモちんは奴が出ていった玄関をぼんやりと眺め投げやりに言った。この時のトモちんの表情に自分のハッタリ具合もなかなかのものだと感心もしたが、ひどく真剣に困り果てた顔をしていたトモちんの横顔に罪悪感も湧いた。


 事の話は事実であるがここで起こした事実には嘘が含まれている。そんな作り物でも起こせば全てが真実へと変わる奴の作ったシナリオ。いやいや、これはシナリオじゃない。奴の思惑だ。奴の思惑がシナリオへと変化してしまうという真実の物語が完成していく物語。

 この企みはいつ、どこから始まっていたのか? という思いに駆られ奴の存在そのものを恐怖に感じるようになった瞬間だ。奴の腹黒さを思い知る。


 しかし俺はそんな思いも余所にしてこの後、表現会場へと移動して俺達はライブ準備へと取りかかった。そして俺達はトモちんや他の役者連中の前で正真正銘の芝居をやり続けていた。自分自身の感情は何処か置き去りにして――


俺「もしかしてさぁ、ヒメに男でもできたんじゃねぇの? 俺の勘だけど。差し詰め、織姫、ついに彦星現る! ってところで」

誠「七夕にかけてそう来ましたか。洒落てるねぇ。確かに男でもできりゃあ考え方が変わることは無しじゃないわな。あっ、でもそうだとしたら俺マジショックだわ。かなり俺、本気で狙ってたのに」

 と俺の詰まらない七夕ネタに誠は大袈裟に両手で胸を押さえ項垂れるという嘘くさい演技まで付けて上手く乗ってくれた。


 この頃にはまほろば一座の役者やスタッフが集まり始めていた。桂介から聞いた話じゃ、打ち合わせをやる事になっていたらしい。そしてその前に俺達のライブ準備をサービスで手伝ってくれる優しいまほろば一座の皆だが今は完全に桂介の罠に嵌められている。

 優しいまほろば一座の皆はステージ上で繰り広げていた俺達の()芝居に疑いを持つ様子は全く無かった。トモちんなんかはずっと不貞腐れ顔で黙ったままだ。そのトモちんの雰囲気に他のまほろばメンバーは少し固い表情で時折ヒソヒソと小声で話をしたりしている。


 それまで少しの遠慮があった俺だったが次第に面白味が湧いて来ていて口が滑らかになっていた。

俺「誠、ウソ言うなて。いつだったっけ? 名前忘れたけど、ちっちゃい童顔女がでら可愛い、でら付き合いてぇってしきりに言ってたくせに」

誠「おお、おお、ユイちゃんのことな。カワイイからカワイイって言っただけで俺はヒメの方がタイプ。ただ、ありゃ美人過ぎるって、実際。口説きに行く気まではならんのだよね。怖くてさぁ」

俺「ああぁ、それは分かる。ちょい性格キツくて、とっつきにくそうに見えるしな。実際、普段話す分にはそうでもないけど、どっか冷たい印象はあるよな」

誠「ま、だから美人。高嶺の花ってやつだな。ヒメと釣り合い取れる奴なんてそうそういないわな」

俺「だわな」


 こんな感じで俺と誠がステージの上で飄々(ひょうひょう)と話をしていたら今まで遠慮してか黙っていた一郎が低い声を鳴らした。

「なぁ、ヒデ。彦星って一体誰の事?」

 一郎の質問に直ぐ様俺の脳裏には奴と彼女が並んで歩く姿が浮かぶもそれに関する言葉を口にする事なく俺はステージ下で椅子の片付けをやってくれていたトモちんに聞いた。

「彦星って誰?」

 するとトモちんは一瞬だけ俺に顔を向け不貞腐れ顔のまま嫌々な風に「俺に聞くなよ」と言い放ち、再び椅子をせっせと運んでいた。でも床の掃き掃除をやっていたさくらちゃんは手を止めて随分と興味有りげにトモちんへと迫った。

「ねぇトモさん。私も知りたい! ヒメって彼氏いるんですか? ねぇねぇトモさん? トモさんなら知ってるんでしょ?」

 さくらちゃんがトモちんの前に立ちはだかるとトモちんは大きな溜め息吐き出し面倒臭そうに応えた。

「なんだよさくらまで。俺は何も知らねぇよ。アイツ、いつも桂介と連絡取ってたからよぉ。っていうか何で今回の件とヒメの男が関係あるって言うんだよ? 俺はスカウトだと思ってるけどよ」

 俺を横目で睨みながら言い放ったトモちんに対しまほろばで役者やってる晴男くんがステージにいる俺達とトモちんとを代わる代わる見て大声で言った。

「今回の件って? トモさん、やっぱりさっき聞こえた『ヒメが脱退する』って本当なんですね?!」

 晴男くんの声に周りにいた他のまほろばメンバーは「ええ?!」と驚きの声を上げ一瞬固まると即座にトモちんを囲むように集まった。

 この様子をステージ上から見ていた俺達Salty DOGは顔を見合せ目を丸くした。

 遠藤香織が抜けると言うだけでこの盛り上がりだ。更に今週末の舞台の内容を丸ごと変えるなんて聞いたらみんな発狂するんじゃないかと俺は思った。


(桂介。お前、本当にやるのかよ? 少し怖くなってきたぞ)

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