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戦えない生産職の俺、誰とも関わりたくなくて無人島に引きこもった結果、伝説の魔王になっていた

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/10/13

【第25作目】Dの意思、なんちゃって!って軽い気持ちで書きました。


----------

転生者の木村ダイキは、三年かけて異世界を旅した。


勇者はいない。

魔王もいない。

古代竜も眠ったまま。

世界を滅ぼしかねない脅威など、どこにも存在しなかった。


だから平和な世界だと思った。

だが違った。


人間は獣人を差別し、

獣人は人間を憎む。

エルフは森を巡って争い、

ドワーフは鉱脈を巡って血を流す。

魔王がいなくても、世界は勝手に争う。


旅の果てにダイキは悟った。

「どの国にも住みたくない」


どの国家も自らを正義と信じていた。

だからこそ争いは終わらない。

そんな場所に関わる気はなかった。


幸い、転生特典だけは当たりだった。

建築。

鍛冶。

魔道具。

錬金。

付与。

道具作成。

生産に関わるあらゆる技能だけが規格外。


その代わり戦闘能力は悲惨だった。

火球ひとつ撃てない。

剣を握れば村娘にも負ける。

ゴブリン一匹ですら危険な相手だ。


「戦えないなら、戦わない人生を選ぼう」

そうしてダイキは、海の果てにある無人島へ移り住んだ。


◇

島へ来た初日。

ダイキは家を建てた。


翌日には工房。

三日目には井戸。

一週間後には水道。

二週間後には浄化設備。

一か月後には魔力発電機。


半年後。

島は近代都市じみた姿へ変貌していた。


「快適だなあ」

本人は満足した。


なお世界基準では国家事業級だった。


さらに住人も増えた。

最初に現れたのは植物妖精フローラ。

掌ほどの小さな妖精だった。


「おうち見つけたー!」

勝手に住み着いた。


次に風妖精シルフィ。

浄化妖精ルナ。

気付けば三匹の妖精が同居していた。


「まあ、追い出す理由もないか」

以来、一人と三匹の暮らしが始まった。


◇

数年後。

島は完全に別世界になっていた。


巨大農場。

大規模倉庫。

自律ゴーレム。

加工施設。

温泉。

工房。

展望台。


「働かなくても暮らせる」

ダイキは本気で喜んだ。


だが、もっと喜んだ者がいる。

フローラだった。


「畑すごーい!」

彼女の能力は植物活性化。

植物を元気にする妖精魔法だ。


ある日。

フローラは畑へ向かって両手を広げた。

「もっと元気になーれ!」

きらきら。

妖精の光が降り注ぐ。


翌日。

大豊作だった。

翌々日。

さらに増えた。

一週間後。

倉庫が埋まった。


「増えすぎだろ!!」

「えへへー♪」

褒められたと思ったらしい。

ダイキは倉庫を見渡した。


小麦。

芋。

果物。

野菜。

保存食。

山のように積み上がっている。

食べ切れない。

加工しても追いつかない。


「捨てるか?」

もったいない。

「売るか?」

面倒だ。

交易など始めれば厄介事が寄ってくる。


ダイキは少し考えた。


そして結論を出した。

「コソッと配るか」


工房で木箱を作る。

ついでに焼き印も押した。

ジュッ。

刻まれた印はD/K。


「何これ?」

フローラが首を傾げる。


「ダイキ・キムラの略だ」

「へー」

「ただの自己満足だよ」

それだけだった。



数日後。

夜空へ複数の飛行ゴーレムが飛び立つ。


行き先は貧しい村。

飢えた集落。

戦災地域。

疫病地域。

食料と薬をそっと置いて帰る。

ただそれだけだった。


干ばつに苦しむ辺境の村。

「今年は終わりだな……」

村長が項垂れる。


翌朝。

広場には大量の木箱が積まれていた。

「な、なんだこれは!?」

開ける。


小麦。

保存食。

塩。

果物。

薬草。

村人達は歓声を上げた。


同じ頃。

獣人の集落にも届く。

孤児の村にも届く。

差別で見捨てられた村にも届く。


送り主は誰も知らない。

だが全ての箱には同じ印があった。

D/K。


◇

数か月後。

各地で発見される謎の支援物資は、各国の関心を集めていた。


ある国の王都では、学者や役人を集めた調査会議が開かれていた。

「問題は、このD/Kの印だ」

王が木箱を叩く。

「送り主は不明。輸送経路も不明。判明しているのは、この刻印だけ」


学者たちが顔を見合わせる。

「何かの頭文字では?」

「守護神の名かもしれません」

「古代語の可能性もあります」

議論が続く。


その時だった。

一人の老学者が立ち上がった。

顔色が悪い。

「まさか……」

会議室が静まり返る。

老人は古代語辞典を開いた。

震える指が二つの単語を示す。


D。

Demon。

K。

King。

誰も声を出さない。


やがて老人が震える声で呟く。

「魔王……」

そして次の瞬間大声で叫んだ。

「魔王だ!!」

会議室は大混乱になった。


◇

さらに月日は投げれ各国首脳会議が開かれる事態になった。

巨大な地図が広げられる。

赤い印が無数に打たれていた。

D/Kの箱の発見地点だ。

王や各国首脳陣が眉をひそめる。


「妙だな」

「何がですか?」

「全部、貧しい地域だ」

沈黙。

やがて某国の宰相が立ち上がった。

「人心掌握です」

「なんだと」

「魔王は最も弱い者達を救っているのです」

空気が変わる。

宰相は地図を指差した。

「そして彼らは恩を忘れません」

誰もが息を呑む。

「数年後」

「……」

「もし魔王が呼びかければ、この赤い地域全てが味方になります」

反論する者はいなかった。

「世界征服の準備か……」

王が掠れた声で呟く。

「なんという恐るべき計画だ……」

誰もが青ざめた。



その頃。

当人は畑にいた。

「在庫なくなったな」

「よかったねー!」

フローラが笑う。

「また増えるよ!」

「増えなくていい」

平和だった。



それから数年後。

Dの箱は伝説になった。

飢えた者を救う奇跡の箱。

絶望の中に現れる希望。


やがて祠が建つ。

小さな石造りの祠。

中央にはD/Kの文字。

人々は祈る。


「D様、ありがとうございます」

「今年も冬を越せました」

「どうか来年もお守りください」

その報告を受けた各国首脳は頭を抱えた。

「まずい」

「何がだ?」

「信仰が発生している」

沈黙。

「魔王崇拝か!」

「反乱の芽だ!」

「国家転覆を狙っているぞ!」

勝手に盛り上がった。


◇

ある年。

人間国家が獣人領への侵攻を決定した。

数万の軍勢が国境へ集結する。


その最前線の村に。

D/Kの箱が届いた。

中身は小麦だった。

ただの小麦である。


だが将軍は青ざめた。

「ば、馬鹿な……」

「どうされました?」

副官が尋ねる。

将軍は木箱を指差した。

「Dだ」

「それが?」

「見られている」

副官の背筋が凍る。

「まさか……」

「そうだ」

将軍は額の汗を拭った。

「魔王にだ」

兵士達まで顔色を変えた。

「この村は保護対象とみるべきだ」

「!!」

「戦闘に巻き込めば何が起きるか分からん」

その日のうちに侵攻作戦は中止された。


もちろん。

魔王軍など存在しない。

ダイキは争いが嫌いだった。

軍隊を作る気など最初からない。

ただし。

島の周囲を警備するゴーレムはいた。


ある日。

他国の偵察船が島の近くを通る出来事があった。


警備ゴーレムは反応した。

侵入禁止。

命令通りに行動する。

船を押し返した。

それだけだった。


報告を受けた王国は騒然となった。

「報告しろ!」

「Dの刻印の魔人兵が現れました!」

「何!?」

「海上を徘徊しています!」

王は震えた。

「やはり魔王軍は存在するのか……」

だがそれは島の警備員だった。



さらに年月が流れた。

気付けば戦争は大幅に減っていた。

誰もDの印がある地域へ手を出さなくなったからだ。

結果として世界は少しずつ平和になった。


歴史家達は記録する。

『魔王は武力を必要としなかった』

『施しだけで人心を掌握した』

『諸王は彼を怒らせることを最も恐れた』

『彼が侵略した記録は存在しない』

『しかし誰も彼に逆らわなかった』

真実はかなり違う。



今日も島は平和だった。

「豊作だー!」

フローラが畑を飛び回る。

「だから増やしすぎるなって」

「無理ー!」

シルフィは洗濯物を乾かし、

ルナは井戸水を浄化している。


ダイキは工房で木箱を作っていた。

いつものように焼き印を押す。

ジュッ。

D/K。


世界中の王や将軍を震え上がらせる文字。

だが本人にとっては違う。

「この方がかっこいいだろ」

「それだけ?」

「それだけだ」

妖精達は笑った。


その夜も。

輸送ゴーレムは空へ飛び立つ。

食料を積み。

薬を積み。


困っている誰かの元へ向かうために。

そのたびに世界は彼を恐れた。

そのたびに争いは少しずつ減っていった。

誰も知らない。

歴史に名を残す魔王の正体が、

畑の在庫整理に悩む引きこもり職人と、

三匹の妖精達だったことを。



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5分程度で読める小噺を書いています。もしよければ以前に書いた話も見てやってください。

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