戦えない生産職の俺、誰とも関わりたくなくて無人島に引きこもった結果、伝説の魔王になっていた
【第25作目】Dの意思、なんちゃって!って軽い気持ちで書きました。
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転生者の木村ダイキは、三年かけて異世界を旅した。
勇者はいない。
魔王もいない。
古代竜も眠ったまま。
世界を滅ぼしかねない脅威など、どこにも存在しなかった。
だから平和な世界だと思った。
だが違った。
人間は獣人を差別し、
獣人は人間を憎む。
エルフは森を巡って争い、
ドワーフは鉱脈を巡って血を流す。
魔王がいなくても、世界は勝手に争う。
旅の果てにダイキは悟った。
「どの国にも住みたくない」
どの国家も自らを正義と信じていた。
だからこそ争いは終わらない。
そんな場所に関わる気はなかった。
幸い、転生特典だけは当たりだった。
建築。
鍛冶。
魔道具。
錬金。
付与。
道具作成。
生産に関わるあらゆる技能だけが規格外。
その代わり戦闘能力は悲惨だった。
火球ひとつ撃てない。
剣を握れば村娘にも負ける。
ゴブリン一匹ですら危険な相手だ。
「戦えないなら、戦わない人生を選ぼう」
そうしてダイキは、海の果てにある無人島へ移り住んだ。
◇
島へ来た初日。
ダイキは家を建てた。
翌日には工房。
三日目には井戸。
一週間後には水道。
二週間後には浄化設備。
一か月後には魔力発電機。
半年後。
島は近代都市じみた姿へ変貌していた。
「快適だなあ」
本人は満足した。
なお世界基準では国家事業級だった。
さらに住人も増えた。
最初に現れたのは植物妖精フローラ。
掌ほどの小さな妖精だった。
「おうち見つけたー!」
勝手に住み着いた。
次に風妖精シルフィ。
浄化妖精ルナ。
気付けば三匹の妖精が同居していた。
「まあ、追い出す理由もないか」
以来、一人と三匹の暮らしが始まった。
◇
数年後。
島は完全に別世界になっていた。
巨大農場。
大規模倉庫。
自律ゴーレム。
加工施設。
温泉。
工房。
展望台。
「働かなくても暮らせる」
ダイキは本気で喜んだ。
だが、もっと喜んだ者がいる。
フローラだった。
「畑すごーい!」
彼女の能力は植物活性化。
植物を元気にする妖精魔法だ。
ある日。
フローラは畑へ向かって両手を広げた。
「もっと元気になーれ!」
きらきら。
妖精の光が降り注ぐ。
翌日。
大豊作だった。
翌々日。
さらに増えた。
一週間後。
倉庫が埋まった。
「増えすぎだろ!!」
「えへへー♪」
褒められたと思ったらしい。
ダイキは倉庫を見渡した。
小麦。
芋。
果物。
野菜。
保存食。
山のように積み上がっている。
食べ切れない。
加工しても追いつかない。
「捨てるか?」
もったいない。
「売るか?」
面倒だ。
交易など始めれば厄介事が寄ってくる。
ダイキは少し考えた。
そして結論を出した。
「コソッと配るか」
工房で木箱を作る。
ついでに焼き印も押した。
ジュッ。
刻まれた印はD/K。
「何これ?」
フローラが首を傾げる。
「ダイキ・キムラの略だ」
「へー」
「ただの自己満足だよ」
それだけだった。
数日後。
夜空へ複数の飛行ゴーレムが飛び立つ。
行き先は貧しい村。
飢えた集落。
戦災地域。
疫病地域。
食料と薬をそっと置いて帰る。
ただそれだけだった。
干ばつに苦しむ辺境の村。
「今年は終わりだな……」
村長が項垂れる。
翌朝。
広場には大量の木箱が積まれていた。
「な、なんだこれは!?」
開ける。
小麦。
保存食。
塩。
果物。
薬草。
村人達は歓声を上げた。
同じ頃。
獣人の集落にも届く。
孤児の村にも届く。
差別で見捨てられた村にも届く。
送り主は誰も知らない。
だが全ての箱には同じ印があった。
D/K。
◇
数か月後。
各地で発見される謎の支援物資は、各国の関心を集めていた。
ある国の王都では、学者や役人を集めた調査会議が開かれていた。
「問題は、このD/Kの印だ」
王が木箱を叩く。
「送り主は不明。輸送経路も不明。判明しているのは、この刻印だけ」
学者たちが顔を見合わせる。
「何かの頭文字では?」
「守護神の名かもしれません」
「古代語の可能性もあります」
議論が続く。
その時だった。
一人の老学者が立ち上がった。
顔色が悪い。
「まさか……」
会議室が静まり返る。
老人は古代語辞典を開いた。
震える指が二つの単語を示す。
D。
Demon。
K。
King。
誰も声を出さない。
やがて老人が震える声で呟く。
「魔王……」
そして次の瞬間大声で叫んだ。
「魔王だ!!」
会議室は大混乱になった。
◇
さらに月日は投げれ各国首脳会議が開かれる事態になった。
巨大な地図が広げられる。
赤い印が無数に打たれていた。
D/Kの箱の発見地点だ。
王や各国首脳陣が眉をひそめる。
「妙だな」
「何がですか?」
「全部、貧しい地域だ」
沈黙。
やがて某国の宰相が立ち上がった。
「人心掌握です」
「なんだと」
「魔王は最も弱い者達を救っているのです」
空気が変わる。
宰相は地図を指差した。
「そして彼らは恩を忘れません」
誰もが息を呑む。
「数年後」
「……」
「もし魔王が呼びかければ、この赤い地域全てが味方になります」
反論する者はいなかった。
「世界征服の準備か……」
王が掠れた声で呟く。
「なんという恐るべき計画だ……」
誰もが青ざめた。
その頃。
当人は畑にいた。
「在庫なくなったな」
「よかったねー!」
フローラが笑う。
「また増えるよ!」
「増えなくていい」
平和だった。
それから数年後。
Dの箱は伝説になった。
飢えた者を救う奇跡の箱。
絶望の中に現れる希望。
やがて祠が建つ。
小さな石造りの祠。
中央にはD/Kの文字。
人々は祈る。
「D様、ありがとうございます」
「今年も冬を越せました」
「どうか来年もお守りください」
その報告を受けた各国首脳は頭を抱えた。
「まずい」
「何がだ?」
「信仰が発生している」
沈黙。
「魔王崇拝か!」
「反乱の芽だ!」
「国家転覆を狙っているぞ!」
勝手に盛り上がった。
◇
ある年。
人間国家が獣人領への侵攻を決定した。
数万の軍勢が国境へ集結する。
その最前線の村に。
D/Kの箱が届いた。
中身は小麦だった。
ただの小麦である。
だが将軍は青ざめた。
「ば、馬鹿な……」
「どうされました?」
副官が尋ねる。
将軍は木箱を指差した。
「Dだ」
「それが?」
「見られている」
副官の背筋が凍る。
「まさか……」
「そうだ」
将軍は額の汗を拭った。
「魔王にだ」
兵士達まで顔色を変えた。
「この村は保護対象とみるべきだ」
「!!」
「戦闘に巻き込めば何が起きるか分からん」
その日のうちに侵攻作戦は中止された。
もちろん。
魔王軍など存在しない。
ダイキは争いが嫌いだった。
軍隊を作る気など最初からない。
ただし。
島の周囲を警備するゴーレムはいた。
ある日。
他国の偵察船が島の近くを通る出来事があった。
警備ゴーレムは反応した。
侵入禁止。
命令通りに行動する。
船を押し返した。
それだけだった。
報告を受けた王国は騒然となった。
「報告しろ!」
「Dの刻印の魔人兵が現れました!」
「何!?」
「海上を徘徊しています!」
王は震えた。
「やはり魔王軍は存在するのか……」
だがそれは島の警備員だった。
さらに年月が流れた。
気付けば戦争は大幅に減っていた。
誰もDの印がある地域へ手を出さなくなったからだ。
結果として世界は少しずつ平和になった。
歴史家達は記録する。
『魔王は武力を必要としなかった』
『施しだけで人心を掌握した』
『諸王は彼を怒らせることを最も恐れた』
『彼が侵略した記録は存在しない』
『しかし誰も彼に逆らわなかった』
真実はかなり違う。
今日も島は平和だった。
「豊作だー!」
フローラが畑を飛び回る。
「だから増やしすぎるなって」
「無理ー!」
シルフィは洗濯物を乾かし、
ルナは井戸水を浄化している。
ダイキは工房で木箱を作っていた。
いつものように焼き印を押す。
ジュッ。
D/K。
世界中の王や将軍を震え上がらせる文字。
だが本人にとっては違う。
「この方がかっこいいだろ」
「それだけ?」
「それだけだ」
妖精達は笑った。
その夜も。
輸送ゴーレムは空へ飛び立つ。
食料を積み。
薬を積み。
困っている誰かの元へ向かうために。
そのたびに世界は彼を恐れた。
そのたびに争いは少しずつ減っていった。
誰も知らない。
歴史に名を残す魔王の正体が、
畑の在庫整理に悩む引きこもり職人と、
三匹の妖精達だったことを。
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5分程度で読める小噺を書いています。もしよければ以前に書いた話も見てやってください。




