第三話
「今より、がっちりした女性が多いな」
「ああ、これは、肩パットが入っている服だよ。ワンレン・ボディコン」
「ワンレン・ボディコン?」
「こんな髪型と、タイトなミニスカート」
「美しき星の女の子もミニスカートをはいたらいいと思わないか?」
シュリは、しばらく考えて、僕の考えを否定してきた。
「ミニスカートは、ないな」
「どうしてだよ」
「よく考えてみろよ。私たちの星の人の寿命は3000年を超えるんだぞ。いつ、ミニスカートをはいて、いつやめるんだ。やめ時でもめるぞ」
「なるほど、そうだな。ずっとミニスカートをはかれても困るな」
僕たちは、昔の映像を見ながら大笑いしていた。
「それにしても最近は、モノトーンの服が多いな」
「服の色で、経済状況がわかるって言われているんだ」
「ということは、今の日本は、やっぱり不景気だってことか」
「そういうことだろうな」
「派手な色の服を着た女の子が街を歩いている方が断然いいよな」
僕は、シュリに同意を求めるため、顔を近づけて言った。
「シンジュ、近い」
彼は、指で僕のおでこを押して、顔を遠ざけた。
「すまん」
シュリは、相変わらず堅物だ。女の子の話になると自分だけは聖人のような態度をとり始める。本当は、相当なスケベなのにな。
「なんか言ったか?」
「いや、何も」
「来週は、参議院選挙だ。おそらく今回は、与党が大敗するはずだよ。そしたら、オファーが来る。条件を用意しておくぞ」
「与党からオファーが来るのか」
「与党からもだ」
「他にどこが来るんだよ」
「ほとんどの党からオファーが来る」
「シュリは、何でそんなにわかるんだ?」
「歴史だよ。歴史を知り、未来をイメージし、今を動かす」
「おっ、今の言葉もらった!」
「はいはい、どうぞ、使ってください」
「それで、僕は、オファーを受けるのか……、どの党にも所属せずに立候補したらダメなのか?」
「結論から言うと、ダメです」
「どうして?」
僕は、ムスッとして彼を睨んだ。
「衆議院選挙は、一区で一人しか当選しないんだ。すぐに政党を立ち上げたとしても、政党要件を満たしていない政党は、比例代表を立てられないからね」
「えっ、昨日は、たった一人を選ぶ都知事選より、簡単だって言っていたじゃないか」
「はい、そうですよ。そのためには、比例重複立候補が可能な党から出ます」
「どこの党にするんだ?」
「条件次第ですが……」
シュリが、言いかけて次をなかなか言わないので、僕はイライラしていた。
「なんなんだよ、その条件って?」
シュリは、急に僕の目をじっと見つめた。
「なっ、なんだよ」
「シンジュは、総理大臣になりたいか?」
「もっ、もちろんだよ」
「では、各党からオファーが来たら、全ての党にこう聞いて下さい。『私が総理大臣になれるなら』と」
「えっ、そんなの全ての党が無理だって言うに決まってるじゃないか」
「そうですね。その時の、反応を見て欲しいんです」
「反応?」
「一呼吸あったか、即答か。シンジュは、もう気付いているじゃないのか? 相手の嘘がわかることを」
「まあ、何となくそうなのかなと思っていたけど」
「私も仕事柄、嘘がわかるようになってきたけど、おそらくシンジュほどではないよ。シンジュのその直感は、誰よりも優れている」
シュリは、僕のそういうところも見抜いていたというのか。もしかして、さっきのスケベだと思っているのもバレてるかも……
「早速、オファーが来たよ」
シュリは、パソコンを眺めながら言った。
「メールで来たのか?」
「ああ。えっと、お電話しましたが、留守番電話でしたので、先にメールさせていただきました。だそうだ」
僕は、慌ててスマホを取り出した。
「昨日の落選会見の時から、ずっとマナーモードだったから、気付かなかったよ。うわわわっ、すごい数の電話とメッセージが入っているよ。誰だか、全くわからないな」
未登録の番号から何十件も電話が入っていた。
「それで、メールは、どこの党からなんだ?」
「テレビ局だよ」
「えっ? テレビ」
「オールドメディアだけど、出演するか?」
「どうしたらいい?」
「出てみろよ。まあ、出るなら、なるべく生放送を選ぶか、フル動画のネット放送がよさそうだな」
「シュリ、すまないが、選んで出演交渉をしてもらえないだろうか? 僕は、もう少し戦略を練ってみるよ」
「やる気になったね、石山真治さん」
「あー、やっぱりその名前、まだしっくり来てないんだよな。そういう、清田修さんは、どうなんだい?」
「同じく」
二人は見つめ合って笑った。
「なんで、シュリは、清田にしたんだよ」
僕は、笑いながら彼に聞いた。
「苗字なんてなんでもよかったんだけど、思い浮かばなくてさ、ネットを見ていたら、清田という地名があったんだよ。ただ、それだけ」
「それだけなのか。石山は、どうやってつけたんだ?」
「あっ、それも同じような地域で石山っていうのがあったんだ、ただそれだけだよ」
「石山もかよ」
「苗字なんて、そんなもんさ」
シュリは、悪気もなくそう言った。
「でもさ、シュリ、夫婦別姓問題がずっと継続しているだろ、政治に関わる者が、そんなこと言ったらまずいんじゃないか?」
「おっ、政治家が言いそうなことを言い始めたな」
「なんだよ」
「前に、歴史を勉強して、未来をイメージして、今を変えろって言っただろう。まずは、歴史!」
僕は、シュリに言われて、インターネットで日本の苗字について調べることにした。
「日本の苗字は、もともと家系や身分を示す制度から発展し、平安時代に現在の原型が誕生。明治に苗字が義務化された時、それまで苗字がない場合、最も一般的だったのは、自分の住んでいる環境を苗字にすることだった。山、川、谷、などを使って、山中、川上、谷口など。
なるほどね、苗字は、そんなもんなんだ」
「そうだろう、そもそもは、まあ、そんなもんだよ」
「でも、どうして、夫婦別姓をこんなにも訴える党が増えたんだ?」
「弱者の声を代弁している政党だと思わせているんだ」
「えっ?」
「最近は、何でもかんでも弱者の代弁。そこに公共性なんてないんだ」
「どういうことなんだ?」
「人間という者は、勘違いと思い込みで出来上がっているようなものだ。勘違いは、一時的なもので間違いにすぐに気づくが、思い込みは厄介なんだ。トランスジェンダーも私たち宇宙人から見たら、単なる思い込みなんだが、それを真に受けてしまう人々がいるということなんだ」
「確かに、僕もその件は、不思議だなと思ったよ」
「夫婦別姓を訴えている人もそうだ。自分は、その名前が自分を現す全てのように思い込んでいるんだ。思い込みで出来上がってしまった人たちは、本当に厄介だぞ」
「本当に、そうだな」
「他に夫婦別姓には、外国人との結婚と戸籍問題がある」
「外国人との結婚? どういうことだ?」
「外国人と結婚した場合は、そもそも夫婦別姓なんだ」
「それだったら悩む必要がないじゃないか?」
「外国人だとバレたくない場合は?」
「えっ、外国人とバレたくない?」
「そう、通名で通している外国籍の人がこの国にはいるんだよ。結婚しても苗字を変えられないから、外国人だとバレてしまうんだ」
「バレてはいけないことなのか?」
「まあ、通名を使うぐらいだからな、困るのかもしれないよな」
「そうか……」
「それと、戸籍問題。戸籍がなくなればいいと思っている人も中にはいるんだ。日本が誇る最強の身分証明システムだからな」
「なんで、そんな大切なものをなくそうとするんだ?」
「帰化人で、政治家になっている人がいるという話だぞ」
「政治が、外国人に乗っ取られようとしているのか?」
「正確には、帰化人だから日本人だけどな」
「それは、でもまずいんじゃないか?」
「石山先生、ブーメランでご自身に帰ってくる言葉ですな」
「あっ、でも、僕は宇宙人だけど、純粋にこの日本のために働きたいと思っているよ」
「性善説だけでは、上手くいかない場合があるからね」
「そう言えば、この前ネット番組で、こんなことを言っていた女性がいたよ。自分のアイデンティティの問題で、苗字を変えたくないと言ったけど、もし子どもができたら、その苗字はどうするか? という問いになると曖昧な態度に変わったんだ。子どもが成人になったら、両親のどちらか好きな苗字を選ばせると言うんだ。そんなのおかしいだろう? 自分は幼いころから使ってきた苗字を変えたくないと言っているのに、子どもには変えればいいと言うんだ。自己中心的としか思えない発言だろ」
「そうだな。自分とは何なのか、自分がどういう状態の時に、自分ではないと思うのか」
「僕は、自分の魂を輝かせることができないとき、自分ではないと感じるよ」
「そうだな、私の名前が、清田だろうが、修だろうが、シュリだろうが、どうでもいい。名前なんて、他者からの区別くらいでしかない。魂の仕事ができること、続けられていてこそ、私だからな」
「そう思うよな。僕も、そのためだけに、続けているんだ」
「それで、どうする? 夫婦別姓について、シンジュはどう結論付けるんだ?」
「名前でグダグダ言ってんじゃないよ、表面的な名前に何の価値があるんだ。自分の内側に目を向けて、自分の魂を呼んでみろ。魂に苗字はあるのか!」
「ハハハハハッ、石山真治さん、落選確実ですな」
「えー、ダメなのか?」
「これまでのリサーチの結果、共感性のない発言をする政治家は、得票数が伸びません」
「共感性か……」
「でも相手への共感が全てではないんだ。こちらに共感させるんだよ」
「共感させる?」
「そうだ。納得させるんだよ」
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