第二話「我は出会った」
我は魔王..勇者を倒し世界を支配するはずだった。
戦いに敗れ、女神とかいうやつに転生させられた我は今
ダイオウグソクムシという生物になっていた。
もっと詳しく言うと、知らない街に転移させられ、2人組の男女にひっくり返されてお腹をつつかれている。
『ぬォォォッ!?何をするのだキサマらァ!?』
「うわっ!?なにこれ!?頭に声が聞こえる!気持ち悪ぃ!」
ゲシッと女に脇腹の辺り(前世の体基準)を蹴られ地面を転がる。
体制を立て直し少し距離を取る。
『痛ッ!?キサマァ!!』
「コレ気持ち悪いから放っておこうって言ったじゃん!」
と、女が我を指さして言う。
「いや、気になるだろ?街の入り口にこんなキモイのがいたら。」
「キモイから無視しようって言ってんの!」
『オイ…ッ!』
「見た目もキモイし頭に直接声聞こえてキモイし、もう全部キモイって!!」
「確かにキモイのは認めるけど!なんかすごい力を持ってるかもしれないだろ!?」
『キサマら…我をキモイ、キモイと言いおって…許さん!あの世で後悔するがいい!獄炎魔法!!』
どうやら、以前の世界と同じような魔法は使えるようだ。
以前の我が使っていた時よりも大きな炎が作られ、撃ち出される。
『これは…女神の加護とやらで魔力が増えているのか!?フハハッ!2人まとめて塵となれ!』
炎が2人にぶつかる
「キャッ!?水流魔法!」
直前に水魔法により簡単に消される。
『バカな!?火属性魔法の中でも最上位の魔法だぞ!』
そこで、我は気づいてしまった。
魔力が増幅し、炎が大きくなったのではない。
我が小さくなっているため、相対的に炎が大きく見えたのだ。
いや、なんなら以前の時よりも炎が小さいような気もしてきた。
『ぐぬぬ…ッ!許さんぞ…!』
「スッゲエ!お前、魔法も使えるのかよ!よし、お前は今日から俺達の仲間だ!」
「はぁ!?ちょっと待って!私は嫌!キモいし!」
『だからキモくないだろうが!このフォルム!足が多くカサカサと威圧的な動き、テレパシーで会話する!魔法が使えるダイオウグソクムシという生物……ム?』
ふと我は女神に鏡で見せられた自分の姿をよぉく思い出してみる。
『…オイ、我は…キモイ、のか?』
女に問う。
「だから、そうだって言ってるでしょ!?話しかけて来ないでよ!キモイから!」
『グ…うぅ…』
認めたくなかったが、ここまで否定されると認めざるを得なくなる。
足が多く、移動はカサカサと。
オマケに頭に直接話しかけてくる。
そう思うと確かにキモイのかもしれない。
目元が熱くなってくる。
そう、我は生まれて初めて、涙を流した。
『うわぁぁぉ…ウゥぁぁ!!』
ここまで情けない声を出したのも初めてだった。
すると、男が近寄り、頭を撫で始める。
「ま、まぁまぁ!俺は好きだぞ!な?ほら、泣くなよぉ…一緒に冒険しようよぉ!」
『キ、キサマ…こんな我に優しく…ぐっ!うわぁぁ!だがッ我は…魔王を倒すため勇者と旅をしなくてはならんのだ…!悪いがキサマとは…』
「なんだ、勇者を探してんのか!俺!ジーク!勇者として魔王を倒す男さ!」
『何だと、勇者!?』
「あぁ!魔王を倒すのが目的なら一緒に行こうぜ!」
『…!あぁ!そこまで言うのなら仕方ない!我が力を貸してやろう!』
我はジークに足を突き出す。
ジークは我の足を右手でがっしり掴む。
「決まりだな!それじゃあ俺達と一緒に魔王退治、しような!」
そんな我らを女は哀れみのような、心底ドン引きしたような目で見つめていた。
「なぁマーシャ!こいつと一緒に冒険していいよな!?な!?」
男はマーシャと呼ばれた女に詰め寄る。
「あーもう!!分かったわよ!また泣かれても嫌だし!好きにすれば!?その代わり、そいつの面倒はジークが見なさいよ!」
「コイツをペットみたいに言うなよ!えっと…名前は?」
『我は…まお…』
言いかけて、気づく。
コイツらの目的は魔王を倒すこと。
そして、我は魔王。
ここで魔王ということを話したら、我は…
「名前は…ないのか…?」
「…可哀想に…名前もないのね…」
『可哀想ではないわ!よかろう。キサマらに名を付ける権利をくれてやる。』
「よし!俺がすっげぇ名前をつけてやるよ!」
『最高にカッコイイ名を付けるのだ。』
「任せろ!お前は…!お前…は…」
ジークがどんな名前をつけるのか気になり、回答を待つことにする。
『………』
「………」
『………』
「…ダイオウで。」
『諦めたなキサマ!?』
「よし。ダイオウ、俺達の冒険はこれからだ!」
『我は認めんからな!?』
「うるさい!黙ってついて来なさいよ!」
ゲシッと横腹を蹴られる。
『グハァッ!』
我は再び、裏返しになり身動きが取れなくなった。
『クッソォ!早く我を起こせェ!』
足をじたばたさせるが起き上がれそうにない。
「じゃあ、今日からお前はダイオウでいいよな?」
『ふざけるな!我はダイオウなどではないわ!』
「もういいでしょ、ジーク。置いていきましょ。」
『待て待て待てぇい!分かった!ダイオウでいい!ダイオウでいいから!我を助けろ!』
「やったぜ!…ほら。」
ジークは我を起き上がらせる。
「よし。ダイオウ、マーシャ。一緒に魔王を倒すぞ!」
「…はいはい。もういいわよ。」
『フン!納得はできんが魔王を倒すまではダイオウとして力を貸してやる!』
こうして、我の魔王退治の旅は始まったのだった。




